内藤廣が手がけた無用途の箱「紀尾井清堂」は美しく力強く存在する特異な建築。

東京都千代田区の紀尾井に現れた四角い箱。「紀尾井清堂」は、ガラスの中にコンクリートのキューブがまるで地面から浮いているように存在しています。この美しい建築を手がけたのは建築家・内藤廣ですが、実は用途が決まっていない異質な建築なのです。

「ガラス×コンクリート×木」のブルータルな建築

一辺15mのコンクリートキューブをガラスで囲い、3.6m持ち上げた異様な建築は、地下一階、地上五階の規模で、一部プレストレストRC造、鉄骨造のRC造となっています。

「ガラス×コンクリート×木」のブルータルな建築となっていますが、その凛とした姿は日本的であり、内藤廣らしい建築と言えます。内藤廣は、一般社団法人倫理研究所をクライアントとする建築では、2回目の設計担当となりました。

この建築はもともと特定の用途や機能があって建物を作るという一般的な流れではなく、内藤廣主導の建築ができたうえで、使い方や機能を持たせるという特異な例となります。世界でも類をみない無用途の箱が完成しました。

異質と異質のあいだにある空間がもつ意味とは

外壁は、ガラスで覆われてはいますが、コンクリートキューブの外壁部分には開口部はなく、自然光を取り入れられるのはトップライトのみ。

そして、このガラス面とコンクリート面は人が通れるほどの空間があることで、特異な立体感が浮き彫りとなります。

ダイナミックであり緻密なデザインの空間

一階は無機質な素材感が印象的です。そして、四本の特徴的な柱が存在感を醸し出しています。ねじれる様に天井へ伸びる大きな柱を、四角から六角へ断面を変化させ、意匠面・構造面でも意味を持たせています。

この時は、東日本大震災の復興のシンボルとなった陸前高田の一本松が展示されていました。

どんな用途にも使えるようにピロティ奥には調理設備を想定したバーカウンターがあったり、入口の自動ドアの両サイドは取り外せるようになっています。

床と壁に使われているタイルは、石州瓦を焼く時の焼成窯で棚板を再利用したもの。通常は一定期間使用したら廃棄する素材だそうです。それで釉薬の付着具合や形状が一定ではないことが、この空間に味が出ています。スイッチもこのタイルに紛れ込むように配置されています。

圧倒的な吹抜けとそれを照らすトップライト

内部は二階から五階まで4フロア分が吹き抜けになっています。

二階から上の吹抜けは、コンクリートとガラスの外観と対照的に、圧倒的な木のぬくもりと厳かさを感じられる空間が広がります。

天井部分はトップライトになっていて、9マスのグリッドになっているのも際立った印象です。

三階から五階までの各フロアは回廊になっていて、各階は回廊のみで構成されています。階段は、踊り場がなく回廊へとダイレクトにつながるため、とても不思議な感覚を味わいます。

階高を4m未満にすることで踊り場のない階段を実現し、シームレスな動線を実現しています。

ピロティのコンクリート柱と同様に、有機的な造形のトップライトがアクセントになっています。下部は四角、採光部にいくにつれてすぼまっていき楕円になっています。光がコンクリートの面に拡散されながら、大きな吹き抜けに十分に光を注いでいます。

トップライトから注ぐ自然光が巨大なヴォリュームの空間に陰影を作り出します。

内藤廣が手がけた用途のない美しい建築「紀尾井清堂」

自由ほど難しいものはなく、規制がある中で創るものの方がその規制のハードルを越えられるのか?と苦心することで、新しい発想が生まれるとはよく聞く話だと思います。

用途も機能も提示されないという特異なリクエストに対して、内藤廣が手がけた美しい建築。「紀尾井清堂」は、ガラス×コンクリート×木を組み合わせたブルータルな建築であり、凛とした空間を備え、力強くただそこに存在していました。

紀尾井清堂

URL : https://ipponmatsu-no-ne-yoyaku.jp/reservations/calendar
住所:〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3