建築家が手がけた「森と共鳴する家」森に開くテラスと、静けさに満ちた個の空間
前編:建築家が手がけた「森と共鳴する家」木々の合間に佇む、長野・原村の別荘とのびやかなLDK
八ヶ岳の裾野、長野県諏訪郡原村の雑木林に佇む別荘。木々の合間に据えられた三角屋根の下には、大人数で集うのびやかなLDKとともに、心と身体をほどくためのくつろぎの場、そして静けさをたたえた個の空間が丁寧に織り込まれています。にぎわいから静寂へ——一軒の中でめぐる時間の移ろいが、この住まいの奥行きを形づくっています。
映画に浸るリビング、森へ開くテラス

LDKから一段低くしつらえられたリビングは、落ち着いたグレーの石タイルの壁を背に、映画にゆったりと浸るためのしつらえです。天井と床を包む木と、ひんやりとした石の質感とが響き合い、こもりながらも閉じきらない、心地よい奥行きが生まれています。照明を落とせば、森の静けさに包まれた小さなシアターへと表情を変えていきます。床を一段下げたことで生まれるほどよい籠もり感が、身体をあずけて物語に没入するのにちょうどよく、長い夜もあっという間に過ぎていきます。

そしてこのリビングから大きな引き込み窓を開け放てば、内と外の境界はふっとほどけ、ウッドデッキのテラスへと空間が連続していきます。

杉板に包まれたテラスにはサウナとジャクジーが備えられ、頭上に切り取られたトップライトからは光と空がまっすぐに降りそそぎます。

ととのえた身体で外気に触れ、湯に身をあずけ、ふたたび森の空気を吸い込む。そんな一連の時間が、日々の疲れを静かにほどいていきます。まわりを樹々に囲まれているからこそ、人目を気にすることなく湯に浸かり、森林浴のひとときに心ゆくまで没頭できるのです。

朝には梢の隙間から差し込む光を浴びながら、澄んだ空気の中でうたた寝を。日が落ちればあかりに照らされた木の肌が艶やかに浮かび、夕焼けを背にしたテラスが金色に輝く、昼とはまるで違う静謐な時間が訪れます。深い軒とまわりの木立がほどよく視線を遮り、屋外でありながら守られている——この安心感こそが、テラスでの時間を格別なものにしています。天気のよい日には、木々の密集した木陰にタープを張り、外での食事を楽しむのもよいでしょう。
静けさに満ちた、個のための空間

にぎわいの場から少し離れると、住まいはふいに口数を減らし、静けさをたたえた個の空間へと移ろいます。主寝室には窓辺に沿ってベンチが造りつけられ、腰かければ雑木林がすぐそこに。朝には梢を抜けた木漏れ日がやわらかく差し込み、一日のはじまりを穏やかに知らせてくれます。

壁の一面には温もりのある木を、もう一面には落ち着いた塗り壁をあしらい、眠りの場にふさわしい静かな緊張感が保たれています。

玄関は、大谷石の土間とグレーの石タイルの壁が迎える凛とした場です。細く縦に切られたスリット窓から差し込む一条の光が、清らかな陰影を落とします。扉を開けて土間に立つと、木と石が織りなす落ち着いた空気に包まれ、外の喧噪から気持ちがすっと切り替わっていくのを感じます。土間から一段上がって室内へと歩を進める所作そのものが、日常と非日常のあわいをやさしく区切ってくれるかのようです。

昼寝にちょうどよい、風の抜ける小上がりの和室も、この住まいのささやかな居場所のひとつ。半畳の畳に身を横たえれば、梢を渡る風の音がいつのまにか眠りへと誘ってくれます。
秘密基地のような高揚感をもたらす小屋裏

屋根の勾配をそのまま生かした2階の小屋裏には、木にすっぽりと包まれた部屋が広がります。三角の窓から光と梢を取り込むその空間は、天井の高い部分と低くこもる部分とが同居し、まるで秘密基地のような高揚感を宿しています。

大人数での宿泊にもこたえられるセミオープンな寝室として整えられ、大切な人たちと過ごす夜を大らかに受け止めてくれます。半畳の畳を敷き詰めた設えは、寝転がっても腰をおろしても心地よく、使い方を選ばない懐の深さを備えています。プライベートな道具や布団をしまう収納も要所に確保され、暮らしの気配をすっきりと隠しながら、必要なときにだけ開かれる余白として機能します。
季節のうつろいを暮らしの中へと招き入る家
森に寄り添うこの家は、季節のうつろいをそのまま暮らしの中へと招き入れます。芽吹きの緑、夏の木漏れ日、色づく秋、雪をまとう冬枯れの林。窓の一つひとつがその移り変わりを切り取り、住まう人と森とを、静かに、けれど確かに響き合わせていきます。大切な人たちと集って過ごす休日も、ひとり静かに本を開く夜も、この住まいは同じおおらかさで受け止めてくれることでしょう。都会の日常の延長線上にはない、木々とともにある特別な暮らし。それが、この住まいがそっと差し出してくれる贈り物なのです。