長崎県大村市で富松神社×スキーマ建築計画によるインスタレーション「循環する竹風鈴」が公開!

660年以上の歴史を持つ古社の境内に、竹の風鈴が涼やかな音を響かせています。長崎県大村市の富松神社は、建築設計事務所スキーマ建築計画(Schemata Architects)と協働し、境内の竹を活用したインスタレーション「竹風鈴」を制作。2026年7月1日より公開しています。単なる季節の装飾ではなく、神社と地域、来訪者との関係性を持続的に育てていく”循環型の仕組み”として設計された点に、このプロジェクトの本質があります。

一年に一日だけ使われていた土俵を、日常にひらく

富松神社が記録上初めて登場するのは、正平19年(1364年)のことです。神仏が結びついていた時代、付近の寺院から奉納された写経の中に「富松宮」としてその名が記されています。その後はキリシタンによる焼き討ちに遭い一時荒廃した時期もありましたが、時の藩主の崇敬を受けて再興を果たしました。この地に流れてきたありとあらゆる価値観を、おおらかに受け入れ続けてきた場所——それが富松神社の歩みです。

今回のインスタレーションの舞台となっているのは、境内の土俵です。この土俵は、一年のうち例祭の日にのみ神事の場として用いられてきた神聖な場所でした。つまり、三百六十五日のうち残る三百六十四日は、静かに眠っていた場所ということになります。

その静かな余白に、風鈴の音と人の営みを重ねる。神社を祭りやハレの日に限らず、日常の居場所として地域にひらいていく——この土俵が、まちの人々にとっての「町の縁側」のような場所となることを目指した試みが、今回のプロジェクトです。

筍掘りから始まる、一年をめぐる循環

「循環する竹風鈴」という名が示す通り、このインスタレーションは時間とともに巡っていく仕組みとして設計されています。

始まりは、毎年4月の筍掘りです。「竹林の集い」と銘打ち、例年100名近い氏子が集まって筍掘りと竹林の整備を行います。筍を適切に収穫することで山も健全に保たれ、掘った筍は参加者で分け合う——山の恵みを共有する営みが、まず先にあります。そして、増えすぎた竹は間引かれ、竹風鈴の材料となります。

春から夏にかけては、境内に大きな竹風鈴が設置され、風に揺れる音が心地よい空間を生み出します。夏の終わりには、その竹を再利用して小さな竹風鈴を制作するワークショップが開催されます。参加者は風鈴を持ち帰り、それぞれの暮らしの中で音を楽しむことができます。そして翌年、再び竹の伐採と制作が行われ、新たな風鈴が境内に設置される——この循環が繰り返されていきます。

竹林整備という地域の必要から生まれた資源が、インスタレーションとなり、やがて各家庭の風鈴へと姿を変え、翌年また新たに生まれ変わる。素材の循環と、人の関わりの循環が重なり合う設計になっています。

「引き算」の建築家が見出した、神社の可能性

設計を担当したのは、スキーマ建築計画です。長坂常が率いる同事務所は、家具から建築、まちづくりまでスケールもジャンルも幅広く手がけ、「引き算」「誤用」「知の更新」「半建築」といった独特な考え方を提示してきました。日常にあるもの、既存の環境の中から新しい視点や価値観を見出す姿勢は、今回のプロジェクトにも一貫しています。

きっかけは意外なところにありました。ポッドキャスト番組「流通空論」で長坂が「神社に興味がある」と語っていたことを知った神社側が、この機会を逃すべきではないと考え直接連絡を取ったといいます。

長坂はプロジェクトへの思いをこう語っています。全国にはコンビニの数を上回る神社が存在する一方で、氏子の減少や後継者不足など多くの課題を抱えていること。しかし日本各地の風土に根ざし、古くからその土地の良い場所に建てられてきた神社には、まだ大きな可能性が残されていること。そこで、神社の境内に多く見られる竹林と空き地という二つの資源を活用し、神社と地域、人と人との間に新たな関係性を生み出すことで、神社を現代に生き返らせることができるのではないかと考えた——と。

竹林と空き地。どちらも神社にとっては手入れの負担でもある存在です。それを課題ではなく資源として捉え直す視点こそ、まさにスキーマ建築計画らしいアプローチと言えるでしょう。

長坂常(スキーマ建築計画代表)

Photo: Yuriko Takagi

1998年東京藝術大学卒業後にスタジオを立ち上げ、現在は千駄ヶ谷にオフィスを構える。家具から建築、そして町づくりまでスケールも様々、そしてジャンルも幅広く、住宅からカフェ、ショップ、ホテル、銭湯などなどを手掛ける。どのサイズにおいても1/1を意識し、素材から探求し設計を行い、国内外で活動の場を広げる。日常にあるもの、既存の環境のなかから新しい視点や価値観を見出し「引き算」「誤用」「知の更新」「見えない開発」「半建築」など独特な考え方を提示し、独自の建築家像を打ち立てる。

代表作

Sayama Flat / 奥沢の家 / FLAT TABLE / ColoRing / LLOVE / Aesop /BLUE BOTTLE COFFEE / 桑原商店 / DESCENTE BLANC / HAY / 武蔵野美術大学 16 号館 / 黄金湯 / DOKUBO + EL AMIGO / D&DEPARTMENT JEJU / Teshima Factoryなど

「神社は元祖サードプレイス」という気づき

もう一人のキーパーソンが、富松神社の神主・久田松珍彦です。國學院大學で神主資格を取得後、東京で飲食業や店舗づくりに携わり、多様な人や文化が交わる場の面白さを学んだという異色の経歴の持ち主。約15年の東京生活を経て36歳でUターンし、現在は神社が地域の誇りとなるあり方を模索しています。

久田松の言葉が印象的です。20年ほど前によく聞かれた「サードプレイス」——家でもなく学校や職場でもない、自分が心地よいと思える第三の居場所。当時のカフェブームを牽引したその考え方に惹かれて飲食の世界で過ごしてきた久田松は、神主として故郷に帰り改めて神社を見たとき、神社こそ元祖サードプレイスと言えるのかもしれないと気づいたといいます。場所や手段は変わっても、やりたかったことは結局あまり変わっていなかった——寄り道を重ねてきたからこそ得られた実感が、このプロジェクトの原動力になっています。

久田松珍彦(富松神社 神主)

1982年生まれ。國學院大學で神主資格を取得後、東京で飲食業や店舗づくりに携わり、多様な人や文化が交わる場の面白さを学ぶ。約15年の東京生活を経て36歳でUターンし、神社のもつ「善意の循環」や「地域のハブとしての神社の役割」を改めて実感。現在は、ものづくりや文化の継承を通じて、神社が地域の誇りとなり、日々の暮らしの中で親しまれるあり方を模索している。

「訪れる場所」から「関わり続ける場所」へ

富松神社が本取り組みで大切にしているのは、参拝者を増やすことと、関わる人を増やすことの二点です。

参拝者を増やすとは、単に人数を増やすことではありません。散歩の途中に、季節の変化を感じに、誰かと待ち合わせに、少し心を整えに——そうした暮らしの中の自然な動きと神社が結びつくこと。神社が暮らしの中で果たしてきた役割を、今の時代に合ったかたちで日常へ還していくことを意味します。

そして関わる人を増やすこと。神社は神職だけで守っていく場所ではなく、地域の方々、参拝者、作り手、若い世代、遠方から訪れる人々が少しずつ関わることで、その場所の力は育っていく——訪れるだけでなく、ものづくりに参加し、行事を支え、楽しみを共有する。その積み重ねが、神社を「自分たちの場所」として感じるきっかけになるという考え方です。

今後は開放される境内の休憩所を起点に、季節に応じたワークショップや交流の機会も随時創出していく予定とのこと。全国の神社に共通する課題に対する一つの試みとして、この小さな風鈴の音が、これからの神社の在り方を考えるきっかけになるのかもしれません。

循環する竹風鈴

会場: 富松神社(長崎県大村市三城町1247)
設計: スキーマ建築計画(Schemata Architects)
主催: 富松神社
公式サイト: https://tomimatsu.or.jp/