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ミース・ファン・デル・ローエの建築思想が最も反映された傑作住宅「ファンズワース邸」

ル・コルビュジエやフランク・ロイド・ライトと並んで近代建築の巨匠と称されるミース・ファン・デル・ローエ。ナチスによって校長を務めたバウハウスが閉鎖に追い込まれた後は、アメリカに亡命し、教鞭を執ったイリノイ工科大学があるシカゴが主戦場となった。

そのシカゴ郊外にミースによる最後の住宅作品にして傑作と言われる住宅建築「ファンズワース邸」がある。

ミースの建築思想が最も反映された「ファンズワース邸」

ミースの高層建築が立ち並ぶシカゴのダウンタウンから車で1時間半ほどのPlano(プラノ)という街にある「ファンズワース邸」は、周囲にトウモロコシ畑が広がり、目の前に川の流れる緑豊かな場所にある。

もともとはシカゴの病院に勤務する女性の医師エディス・ファンズワース氏のための週末住宅として建てられた。現在は歴史的に価値のある建築物を保護するナショナルトラストと言われる団体が管理している。余談ではあるが、工業製品を使いながらも一品生産品以上に建設コストが跳ね上がり、施主から設計料も支払われないなど、お互いに訴訟にまで発展した。

稀に洪水に見舞われる敷地であったことから、地上から1.5mほど床スラブを持ち上げた高床の建築になっているが、これが鉄とガラスでできたファンズワース邸の浮遊感と内部からの眺望を生み出している。住居の前面にあるポーチも含め、水平方向のラインが横への広がりや周辺環境との調和をデザインしている。

ファンズワース邸は、建築を作ると絶対的に現れてくるラインを徹底的に消し去り、本当に最低限の部材を表すのみで構成されている。サッシなどの部材がごく細く表現され、外部からはスラブや柱の他には内部の家具のみが見える徹底的にミニマルな建築となっている。

「ユニバーサル・スペース」と緑豊かな周辺環境

ミースが提唱した「ユニバーサル・スペース」は、柱と梁によるラーメン構造による均質な空間で、空間を自由にコントロールできるため計画する者にとって非常に都合がいい。シカゴのダウンタウンに見られるミースの高層建築のようなオフィス空間に最適な概念である。それを住宅に適応したのがファンズワース邸であるが、ここでは住まい方を自由にするとともに緑豊かな周辺環境に溶け込んでいるため、「ユニバーサル・スペース」の思想以上に昇華されている。

内部空間では、建築に必要な8本のH型鋼の柱は表出せずに床と天井のスラブが浮いているようにすら見え、一枚の床の上で暮らすようなイメージを受け取ることができる。大きなワンルームがあるのみで、キッチンや浴室、トイレ、設備、収納などを納めたコアが緩やかに空間を分けている。

コアの中の浴室やトイレも当時としては非常に機能的かつコンパクトに作られている。

広々とした空間は、コアの他にも家具によって空間を緩やかに規定されていることがわかる。また、サッシなどの納め方を見るとわかるように建築的な収まりを徹底的に消しているため、そこに発生する生活と緑豊かな風景だけが浮かび上がる。

ファンズワース氏は単身者であったが、来客用のスペースも確保。そのスペースも客室として壁で区切られていない。

また、ファンズワース氏はベッドもあったが、寝椅子など空間の中の色々な場所で寝ることが多かったそうだ。ただ当時すでにファンズワース邸は有名だったため、ミースが教鞭を執っていた大学の学生が勝手に見学に来ることも多く、非常に迷惑していたとか。

「Less is more.(レス・イズ・モア)」と「God is in the details.(神は細部に宿る)」

ファンズワース邸は、ユニバーサル・スペースとともにミースがしばしば使った標語である「Less is more.(レス・イズ・モア)」と「God is in the details.(神は細部に宿る)」が端的に表現されている建築と言っていい。シカゴの高層建築のような巨大な建築では、ヒューマンスケールでの空間体験やディテールの精密さを感じることは難しいが、ファンズワース邸のようなある程度小さな住宅建築ではミースの建築思想を眼で見て身体で体験して感じ取ることができるだろう。

より少ない部材で表現できるようにディテールを詰めているため、周囲の風景と一体化するように感じられる一方でその中で暮らすことも非常に機能的に考えられている住宅でもある。(ファンズワース氏は虫の多さに悩んでいたらしいが…)

 

「ファンズワース邸」は、図面や写真だけでみるとミースの建築的な概念ばかりに目が行きがちだが、実際に訪れてみると、「より少ないことは豊かなことである」という「Less is more.(レス・イズ・モア)」を実感できるだろう。また、新緑の季節に訪れたが写真でよく見る雪が積もる季節もより美しい表情を魅せてくれそうだ。

Farnsworth House – ファンズワース邸

開館時間:9:30~16:00(土・日曜日~17:00)
休館日:月曜日
URL : http://www.farnsworthhouse.org
住所:14520 River Rd, Plano, IL 60545 USA

大前洋輔

大前洋輔

空間だけでなく色々なモノやコトのデザインをしています。

建築と美味しい食べもの、南の島々を探しによく旅に出ます。

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建築家と建てる家。

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