建築家・山田紗子によるゴリラの暮らしにヒントを得た、都市のなかの森のような自邸「daita2019」
藤本壮介建築設計事務所からの独立後、「新しい価値観を創造する」をモットーに、慣習にとらわれないユニークな造形や構成の建築の数々を提案している建築家・山田紗子さん。2025年開催予定の大阪万博では、会場の休憩施設の設計も担当されています。そんな山田さん率いる「山田紗子建築設計事務所」が手掛けた「daita2019」は、山田さんご夫婦とお子さん、山田さんのご両親の3世代5人のための住宅。豊かな緑に囲われた、全面開口を持つ開放的な住まいには、家族のこだわりと山田さんの考える心地よさが詰まっていました。
ゴリラの暮らしにヒントを得た住まい
建築のインスピレーションは山田さんが数年前に訪れたルワンダの森に暮らすゴリラの群れの様子。森の中に鬱蒼と茂る木々の中に居場所を見つけ出し、銘々が心地よく過ごす風景を目指し、剥き出しの生活空間が重層する線材とさまざまな奥行きをもたらす物によって柔らかく包まれ、日差しや人の視線から少し遠のくような住まいのプランが導かれました。
住宅街の一画に佇む鉄骨の森のような外観
建築は住宅街の三叉路の角地、多角形の敷地を2分するように北東側に住居、南西側に庭を配置した構成となりました。
庭にはφ48〜60mmの細い鉄管と樹木とをバランスを取りながら組み上げ、可能な限り小断面のH形鋼のテラスを外部階段で繋いで立体的に作り上げています。
建物と庭の境界はさまざまな建具を組み合わせた全面開口とし、隣接する部屋の用途によってアルミサッシや木製サッシ、鋼製サッシを使い分け、さらに、引き違い窓や滑り出し窓、片開き窓、ジャロジー窓などの大小さまざまな窓をコラージュするように組み合わせています。
構造材はコストやメンテナンス性、将来の増改築の可能性から、住居は木造、庭は鉄骨造に。玄関は通常の構えとせず、住居の動線の一つとして階段の踊り場に設えることで、玄関扉もファサードを構成する建具の一つとなり、内外のアプローチを規定しないようにしています。
暮らしを形づくるモノで構成されたインテリア
工場の搬入扉のような大きな鉄製ドアを開けると、階段のささらや手摺、窓のサッシ枠、家具やカーテン、本、衣服などの雑貨、樹木や植物の鉢植え、自転車、ジョウロ、ショベル、さらにはオーナー夫妻の仕事に関わる膨大な図書やビデオテープ、DVDなど、さまざまな生活の風景をつくるものが空間いっぱいに溢れ出します。階段のささらや手すりは、構造材の柱や筋交と同じ材を利用することで、雑多な中でも空間に統一感を持たせています。
天井を高めに設定したリビングスペースは、全面開口の開放感がありながらも周囲を囲む緑と鉄骨のテラスによって程よい落ち着きに包まれた森のような空気感に。
最上層に位置するダイニングは外への広がりが感じられる開放的な空間にまとめられています。食事時には4〜5人がそれぞれキッチンで準備をすることがあるため、業務用の広い作業台で回遊できるプランが採用されました。
材を揃えて内外の境界を緩やかに仕上げる
ダイニングから主寝室への階段には庭でも使われているφ48.6mmの単管パイプの鉄管、ダイニングからリビングへの階段には、105mm角のアカマツ材を使用。建物内部のところどころに鉄管を使い、内外の風景がバランスよく共存するようにしています。
これらの単管パイプはクランプによって簡単に着け外しが可能なため、出入り口を変えたり、手すりにしたり、植物の支柱にしたりと、日々の生活の要求に合わせて形を変えられます。
テラスを取り込んだ緑豊かなプライベートゾーン
ダイニングテラスは1,300mm×1,400mmの鉄鋼サッシを開けることで内外一体に使え、天気の良い日は食事の場にも。ダイニングテラスに面した扉はゲスト用の玄関としても使われ、ゲストは外階段を樹木の周りを巡りながら上がります。
食卓にそのまま活用できるようなエディブルプランツを中心にプランターを並べています。
ワークスペースは半地下のスペースに配置。下駄箱の上は事務所の模型置き場とすることで空間を有効活用。一面の開口から光が入り込み、半地下ながら閉塞感なく程よい籠り感で集中することができる場です。
ゴリラの森に着想を得た、さまざまな材のコラージュに包まれる生活空間
多くの線材が織り込まれるように重層し、それぞれの住人が自由気ままに生活し、腰を落ち着ける環境を点在させた「daita2019」。全面開口の心地よさと、視線と光を程よく遮るファサードのコラージュによって、動物としての心地よさと人としての快適性が兼ね備えられた、山田さんならではの視点が詰まった唯一無二の住宅です。