建築家・武田清明による、既存の地下空間を生かし時代を引き継ぐ「6つの小さな離れの家」

2022年日本建築学会作品選集新人賞を受賞し、住宅や別荘、事務所やインテリアまでも手掛けている建築家・武田清明。そんな武田が手掛けた長野県・茅野市の住宅「6つの小さな離れの家」は、戦前から引き継がれてきた家を“既築×減築×改築×増築”と組み合わせる、新築でもリノベーションでもない独自の設計方法によって、“小さな建築群”へと再編したプロジェクトです。

既存の地下空間を生かした「6つの小さな離れの家」

©masaki hamada

「6つの小さな離れの家」が佇む長野県茅野市は、自然豊かで周囲の山々から下りてくる小川が住宅地に張り巡らされ、夏でも涼やかな気候が特徴的です。しかしその反面、冬になると足が凍るような寒さが地面に染み渡るほど厳しい寒さを迎える地域でもあります。

そんな寒さの厳しい地域にあった一軒家の敷地内には、室(むろ)や、防空壕、井戸などの地下空間が長年使用されずに眠っていました。

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そこで、設計を手掛けた武田は、眠っていた地下空間の防空壕や井戸、むろなどを積極的に活用することを考え、新しい敷地の開拓から始めました。

土地いっぱいに建っていた母屋は、バラバラに分棟化して「減築」を行い、地下空間の「既築」だけでなく、地上の構造体も「改築」することにより、利用できるものはそのまま使い回し、できるだけ残したのです。その結果、地下と地上に立体的な「遺跡のランドスケープ」のようなものが生まれました。

そして、その上に地中熱の活用を意識しながら、“既築×減築×改築×増築”という工種の掛け合わせによって、「6つの小さな離れ」が出現したのです。

スケールは小さく家具のような存在の“離れ”

©masaki hamada

「6つの小さな離れ」は、“食器棚の離れ”、“本棚の離れ”、“井戸の離れ”、“温室の離れ”、“冷蔵庫の離れ”、“葡萄酒庫の離れ”からなります。それぞれの離れのスケールは小さく、建築というよりも家具に近い存在感です。

元々、野菜が凍らないようにと築かれたむろは、むろの地中熱を利用し、寒さに弱い植物を暖かく守るガラス上屋を設けた「温室の離れ」になりました。

また、生きるために築かれた井戸は、蛇口から井戸水が出る「キッチンの離れ」へ。

これまで茂みに覆われたところに蓋がされた状態だった井戸は、カビだらけだったため、ガラスの上屋を周りの樹木より高くし、天空光が必ずこの井戸に落ちるように工夫されています。二面開口で風と光は通しますが、雨は通さないようにと作られているのです。

そして、かつての人々の命を救ったかもしれない防空壕は、地中熱を利用しワインセラーのような「葡萄酒庫の離れ」に。

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それぞれの離れに設けられているガラスの透明な外装は、採光が不可欠な地下を健康的に維持できる環境装置として機能しています。

時代を引き継ぐ「6つの小さな離れの家」

昔の人々の知恵を生かし、外の居場所が計画された「6つの小さな離れの家」。設計を手掛けた武田は、6つの小さな離れの家について、次のようにコメントを残しています。「『現代では造りえない過去の技術』と『過去では造りえない現代技術』がハイブリッドに重なり合うすることで、『新しい野生的建築』がランドスケープの上に生えるようにして生まれた。かつて、人の命を救ったかもしれない空間、生きるために築かれたそんな空間、それがあったからこそ、今の新しい生活がある。暮らしながらそう思えるような、古くて新しい『未来の家』を目指した。」

敷地の中、すぐそこに別荘のような空間があることで、思わず外に出たくなり、外での時間も楽しめる。外に出て光や風、鳥や植物に触れることによって、私たちも地球の一部であることを改めて感じることができる…。「6つの小さな離れの家」はそんな日常を送ることができる住まいです。