仙台や石巻など宮城県にある有名建築家による美しくユニークな建築作品13選

東北地方に存在する宮城県は、東北6県の中でも文化施設を一番多く持ち「東北の中心的存在」とも言われる環境に特徴がある。近年は仙台駅を中心に交通・商業施設の再開発が進んでおり、「杜の都」とも称される緑の多い仙台市を更に活気立たせていることでも話題だ。

そんな宮城県内には、大小様々な建築がそれぞれの場所に点在しながら、美しい風景を彩っている。

「場所と建築」が調和する複合文化施設 せんだいメディアテーク

2001年に開館した「せんだいメディアテーク」は、「仙台の建築といえば」と称されるほど、日本のみならず世界中からその名が知られる建築である。伊東豊雄氏設計し、仙台市民図書館・ギャラリー・イベントスペース・ミニシアターなどからなる複合文化施設だ。

建築家巨匠 磯崎新が審査委員長を務めたコンペで1等に選ばれた伊東豊雄による建築設計案は、各階の高さが異なる床スラブとそれを貫く13本のチューブ、ガラスのスクリーンが特徴的。その画期的な構成は、ミース・ファン・デル・ローエの提唱した「ユニヴァーサル・スペース」や、ル・コルビュジエの提唱した「ドミノシステム」によって作られた均質な空間を乗り越える「新しい建築の在り方」と世界中からも注目を集め、グッドデザイン賞やBCS賞、日本建築学会賞などの様々な賞を受賞している。

各階ごとに天井の高さだけでなく家具、雰囲気が異なる空間づくりも印象的で、3階の図書館は天井が高く、4階にあたるスペースが奥側にある。

ガラスのカーテンウォールのファサードが定禅寺通りの樹々を映し出しながら、街路樹が建築のヴォリュームの印象を和らげ「場所と建築」が調和する姿は、息を飲む美しさだ。

参考:各階を貫くうねるチューブが特徴的。伊東豊雄が新世代のドミノを提案した「せんだいメディアテーク」

せんだいメディアテーク

住所:宮城県仙台市青葉区春日町2−1
公式サイト: https://www.smt.jp

藤本壮介による復興建築、マルホンまきあーとテラス(石巻市複合文化施設)

20214月、世界でも活躍する建築家・藤本壮介の設計によってオープンした「マルホンまきあーとテラス」。ここは、元々石巻市の文化芸術を振興するための複合施設「石巻文化センター」として知られ、当時の建物もとても立派なものだった。東日本大震災による震災・津波の影響で全壊してしまい、東日本大震災から10年の節目となる2021年に、復興された建築のだ

まるで、絵本に出てくる建物のような可愛らしい外観は、家々が繋がった町並みのような作りが印象的。真っ白な外壁と、芝生のコントラストが相まって温かみのある雰囲気を感じることができる。

白い漆喰壁と木材で統一された開放感のある館内は、それぞれのフロアや部屋が曖昧に交差する。特徴的なタイポグラフィーで飾られた看板が各部屋に設けられ、シンプルな空間に心地の良いアクセントを持たせている。

マルホンまきあーとテラスの空間づくりには、「独自の視点で繋がりを定義する」ものとされ、この街が経験した過去や、未来への希望を考え、そこに込められた思いを感じることができるだろう。

マルホンまきあーとテラス(石巻市複合文化施設)

住所:宮城県石巻市開成1−8
公式サイト: https://makiart.jp

日本モダニズム建築の巨匠による設計で有名な「宮城県美術館」

第24回BCS賞を受賞しており、公共建築百選にも選ばれている宮城県美術館。ここは、コルビュジエの弟子である日本近代建築の巨匠・前川國男による設計としてアート業界のみならず注目を集めている。自然豊かな環境を活かした設計で、周囲の森と溶け込むように建つ姿がなんとも凛々しい。

美術館内に進むと迎えるのは、開放感と落ち着いたモダンな雰囲気が相まった、美しいエントランス。「日本のモダニズム建築の巨匠」が魅せる色味や設計の精度の高さを空間から感じることができる。

館内それぞれの空間はリズムのある構成が印象的だ。それぞれの場所に展示された個性あふれる彫刻作品が、設計と見事に調和し、ユニークな空間が広がる。

宮城県美術館

住所:宮城県仙台市青葉区川内元支倉34−1
公式サイト: https://www.pref.miyagi.jp/site/mmoa/

映画「図書館戦争」の舞台にもなった建築 宮城県図書館

%E5%AE%AE%E5%9F%8E%E7%9C%8C%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8
Via : Wikipedia.

原広司による設計で誕生した「宮城県図書館」は完成な住宅街がある森の中に佇む。静かで落ち着いた自然豊かな環境を活かしながら、まさに「近代的」な容姿が印象的だ。

宮城県図書館は、映画「図書館戦争」の舞台にもなった場所としても知られる。宇宙船のような建築が浮いたような形は、まさに図書館戦争の現場としてピッタリだったことがよく分かる。

宇宙船のような形状でメタリックな印象が強い建物南側に対して、北側駐車場の外観はミラーガラスがタイルのように覆われ、モダンな雰囲気もどこか感じることができる。内部エントランスは、ガラスで覆われた壁面によりとても開放的で、自然と光を取り込んだ空間が明るく、訪れる者を心地よく照らす。

宮城県図書館

住所:宮城県仙台市泉区紫山1丁目1−1
公式サイト: https://www.library.pref.miyagi.jp

斜めの壁が交差する面白い空間が楽しい「菅野美術館」

コールテン鋼で覆われた四角いヴォリュームの外観が特徴的な「菅野美術館」。阿部仁史による設計で、2009年には日本建築学会作品選奨にも選ばれた美術館建築である。

建物自体が彫刻のような作品性を持つように設計され、建物内に展示される9点の彫刻と深く結びついて「一体となっている」空間設計が印象深い。

内部空間は斜めの壁が交差しながら、9つの彫刻に対応するように小空間が存在し、その小空間をら旋状に巡る導線が作られる。

各所に開けられた窓からは、自然光がスポットライトのように差し、コンパクトな空間の中に詰め込まれた「緻密な設計」が面白い建築である。

菅野美術館

住所:宮城県塩竈市玉川3丁目4−15
公式サイト: http://www.kanno-museum.jp

建築家・坂茂の設計による復興計画のシンボル「JR女川駅 / 女川温泉ゆぽっぽ」

女川駅
Via : Wikipedia.

東日本大震災の影響で建物の8割が被災した地、宮城県女川町。現在は、震災復興の「トップランナー」としても知られ、復興計画のシンボルになっている場所こそ、「JR女川駅 / 女川温泉ゆぽっぽ」だ。復興再生の第一歩として2015年3月21日にオープンした新しいJR女川駅は、建築家・坂茂の設計によって手掛けられた。

大屋根と、白いライン・木材でデザインされたファザードが印象的な女川駅にある3階建ての建物。ここは、JR女川駅と日帰り温浴施設を合わせてつくられた「女川温泉ゆぽっぽ」という名に生まれ変わり、杉材をふんだんに使用した温かみと爽やかな心地が気持ち良いデザインだ。

内部には、坂茂らしさを感じる自然素材を使ったデザインの数々が、天井やベンチなど至るとこに施される。特に建築好きにはたまらない、驚くべき贅沢な設計である。

最上部にあたる展望所からは、海に向かって「レンガみち」が延びる。「坂建築」の隙間からリスタートを切った建築の数々で彩られた、女川町の姿を眺め、着々と前へ進むエネルギーを柔らかく感じることができるだろう。

JR女川駅 / 女川温泉ゆぽっぽ

住所:宮城県牡鹿郡女川町女川2丁目3番地2
公式サイト:http://onagawa-yupoppo.com

隈研吾による設計の森舞台 / 宮城県登米町伝統芸能伝承館

伝統芸能伝承館森舞台
Via : WIkipedia.

自然素材を用いた建築で世界中からの注目を集める建築家・隈研吾。彼が1996年に手掛けた「森舞台 / 宮城県登米町伝統芸能伝承館」は、登米能の伝承や地域の集いの場所としての役割を担う建物である。ここは、若かりし頃の隈研吾が「木の魅力に気づかされた」きっかけになったとも言われている作品だ。

コンクリートの箱の中に舞台を設ける西洋型の能舞台が当時主流であったが、「森舞台」は周りに広がる竹林や森、町に対して開かれた演劇空間を目指し、「環境との調和」を美しく奏でている。

地元産の木材を用いて作られた建物に、木ルーバーがダイナミックに用いられる様は、まさに隈研吾建築のデザインを感じられ、長い年月の中で、自然素材それぞれが味わい深く年を重ねている。

森舞台 / 宮城県登米町伝統芸能伝承館

住所:宮城県登米市登米町寺池上町42
公式サイト: http://toyoma.co.jp/facilities-densho/

シンメトリーでどっしりとした容姿に圧巻!PL教団 仙台中央教会

せんだいメディアテーク近くに存在する、象設計集団設計のPL教団・仙台中央教会。ここは、その外観のダイナミックな美しさから、建築好きの中で話題に上がる建物だ。

レンガ張りに丸みを帯びた、どっしりした印象のシンメトリーな外観は、とても迫力があり「つい足を止めて見上げてしまった」という口コミも多い。

前面だけでなく側面にもランダムに配置された小さく開いた開口のデザインも印象深く、面白い。

教団のため、安易に中に入ることは難しいが、見た目そのものは6~7階建てのビルなのではないかと言われている。内部の情報はあまり上がっておらず、その謎めいた経緯がまた良い意味で、想像のファンタジーを膨らませてくれる建築だ。

PL教団 仙台中央教会

住所:宮城県仙台市青葉区国分町3丁目11−23 パーフェクトリバティー教団仙台中央教会
公式サイト: https://www.perfect-liberty.or.jp/html/address.html

團紀彦+青島裕之の設計によるカトリック仙台司教区センター

青島裕之による設計で、1993年までは團紀彦と共同で手掛けたことで知られる「カトリック仙台司教区センター」。ここは、東北4県の司教座がある大聖堂(カテドラル)を中心とした施設である。

緩やかに曲線を描いた白壁が特徴あるファザードは、イレギュラーに構成された壁面に光が照らされ、影を美しく映し出す。箱形ビルが並ぶ都市部で、カトリック仙台司教区センターの柔らかな容姿が独特の雰囲気を漂わせている。

カトリック仙台司教区センターは、小二つの聖堂や事務所、会議室等からなる建物が中庭を囲むように配置される。中庭は道路から中庭へと自然に連なり、街並みと連続した中庭空間の設計は、「都市のオアシス」としてイメージされている。

大聖堂の内部は、天井や隙間から柔らかく自然光が差し込み、白を基調とした空間をより静謐に演出する。教会建築らしい親しみと凛々しさを融合した空間は、心地よく人々を迎え入れてくれているようにも感じた。

カトリック仙台司教区センター

住所:宮城県仙台市青葉区本町1丁目2−12 カトリック仙台司教区センター
公式サイト: http://www.sendai.catholic.jp

 

躍動感あふれる凸凹面で魅せる仙台市市民活動サポートセンター

「住宅に都市を埋葬する」と提唱した有名建築家・原広司の設計で建てられた「仙台市市民活動サポートセンター」。ここは1989年、「都市生活者のクラブハウス」をコンセプトに改装された建物だ。

上層階の外観は、窓ガラスとアルミパネルが独特に接合し、複雑な凸凹デザインで我々を魅了する。大阪の「梅田スカイビル」など、ユニークなデザインを得意とする原広司のセンスが光る作品だ。

館内へと進むと、大きな窓吹き抜け窓が我々を出迎える。そこから差し込む光が、明るく開放的な内部空間全体を包み込んでいる。

仙台市市民活動サポートセンター

住所:宮城県仙台市青葉区一番町4丁目1−3 仙台市市民活動サポートセンター
公式サイト: https://sapo-sen.jp

「政宗の兜の前立の三日月」をモチーフに!宮城スタジアム

宮城スタジアム
Via : Wikipedia.

ベガルタ仙台の準ホームスタジアムである「宮城スタジアム」は、鋭くも緩やかな湾曲屋根と格子の模様が印象的なファザードが特徴的だ。

設計は「宮城にゆかりのある建築家」でもある針生承一と阿部仁史によるもの。阿部仁史は、日本建築学会賞を受賞したり、ロサンゼルスなどでの活動も行い、今でこそ世界的に有名な建築家として名高い存在だが、その彼を「一躍有名にした建築」こそ、ここ宮城スタジアムと言われている。

「政宗の兜の前立の三日月」をモチーフとして作られた宮城スタジアムは「スタジアムの凹」と「隣の丘の凸」を組み合わせてデザインされている。

丁寧かつ精緻な表現技法により艶やかに表現しながら具現化する阿部仁史の建築の姿は、まさに政宗の兜のように堂々たるも凛とした趣がある。

宮城スタジアム

住所:宮城県宮城郡利府町菅谷館40−1
公式サイト: https://www.mspf.jp/grande21/index.php?action=sisetu_shoukai_stadium

マウンドのある個性的な中庭を生かしたデザイン建築!名取市文化会館

槇文彦設計の名取市文化会館は、洗練されたディテールが美しく交差する。

交差点側から望む外観は、アースカラーの内部ボリュームが透けて軽やかな印象のカーテンウォール部分と、スカイラインが美しく切り取られる真四角のスパンドレル部分が絶妙なコントラストを見せながら佇む。

敷地内には、ガラスの空間のエントランス、ラウンジ、ホワイエなどが重なり合うように配置されたパブリックゾーンが印象的だ。マウンドのある個性的な中庭を介して全体的に明るく展開している。

導線に沿って奥へと足を進めるほどに空間の格式が上がるような心地を感じる構成はまさに建築の魅せる技。散策するだけでも胸が高鳴る瞬間が度々訪れる楽しさがあるだろう。

名取市文化会館

住所:宮城県名取市増田柳田520
公式サイト:http://bunka.natori.or.jp

大崎市立岩出山中学校

大崎市立岩出山中学校
Via : WIkipedia.

仙台から車で約1時間30分北上したところに存在する「岩出山町」という小さな町。その小高い丘の上に佇む「大崎市立岩出山中学校」は、ポストモダンの有名建築家・六角鬼丈が審査委員長となり実施したコンペにより、山本理顕が設計を担当した公立中学校である。

「風の翼」と名付けられたシンボルを持つ外観が象徴的で、自然に囲まれた広大な敷地で一際目を引くその容姿は、今や町のランドマークとも言える存在になっている。

開口部が多い校舎内は、とても開放的でふんだんな日光が柔らかく空間全体に注ぎ込む。「光のアーケード」と呼ばれるエントランス道には、右側に「風の翼」が風を防ぐために配置され、風の翼に光を反射させることによって、アーケードを更に明るく照らす仕組みも見られた。

立岩出山中学校全体の無機質な素材選びの中にも、組み合わせで魅せる「山本理顕らしい」デザインがリズミカルに続く。岩出山町は、「岩出山保育所」「あったか河川公園」などが建設され、これから計画予定の建築も多いエリア。立岩出山中学校だけでなく「六角鬼丈が目をつけた」と言っても過言ではない、岩出山町を歩きながら様々な建築を体感してみるもの良いだろう。

大崎市立岩出山中学校

住所:宮城県大崎市岩出山松沢202−1
公式サイト:http://www2.educ.osaki.miyagi.jp/iwadeyama-c/index.html

トラフ建築設計事務所らデザイナーチーム率いる設計の複合施設「石巻ホームベース」

2020年、石巻市に誕生した「石巻ホームベース」は、「人・モノ・食・体験。出会う、つながる、つくる、考える。」をテーマとした複合施設。館内にはショールームかつイベントスペース、カフェ、ゲストハウスなどが併設される。

東日本大震災をきっかけに建築家の発案によって生まれた家具ブランド「石巻工房」によるプロジェクトで、石巻工房が設立10年の節目に「復興のシンボル」として人々が集まる場所になるよう考案されたものだ。

設計は石巻工房の共同代表である建築家・芦沢啓治によるもの。2階に設けたゲストハウスは、石巻工房ゆかりのあるデザイナー達がそれぞれ各部屋のデザインを担当した。「トラフ建築設計事務所」による「Takibi」、
「テラダデザイン一級建築士事務所」による「Hato」、「ドリルデザイン」による「Eda」、「藤森泰司アトリエ」による「Noki」の4部屋は、それぞれで違う空間楽しめるデザインアプローチで話題になっている。

石巻ホームベース

住所:宮城県石巻市渡波栄田91
公式サイト: https://ishinomaki-hb.com

宮城県はおもしろい建築がいっぱい!

東日本大震災による震災・津波の影響を大きく受けた東北地方・宮城県。今、全壊してしまったその場所が10年の時を経て、新たな希望の場所となり我々を迎えてくれている。復興による街づくりや建物改修が盛り上がる宮城県は、面白い建築や施設が沢山誕生しているのだ。その姿は、建築自体の美しさはもちろんのこと、建物以上のエネルギーを感じることができるだろう。