「レコードは気軽に買えるアート作品」音楽プロデューサー・田中知之が語る音楽制作の際に意識するポイントや近年のアナログブームについて

前編:「新しいものより古いものに惹かれる」音楽プロデューサー・田中知之が語る好きなデザインと印象に残っているDJイベント

布袋寅泰や東京スカパラダイスオーケストラ、くるり、サカナクションなど数多くのアーティストのリミックスを行うほか、自身のソロ・プロジェクトFPMとして楽曲制作を行う田中知之さん。DJとしての活動に加え、「渋谷スクランブルスクエア」46階の展望フロアのミュージックバー「Paradise Lounge」や、JR原宿駅・新駅舎2階の「猿田彦珈琲 The Bridge」などの音楽監修も務め、活動の幅は多岐に渡ります。今回は田中さんに、音楽制作の際に意識している点や近年のアナログブームについて伺いました。

聞く人の気持ちになることが一番大切

Via : @tomoyukitanaka

商業施設の店内BGMも数多く手掛けられている田中さんですが、どのようなことを考慮しながら制作されるのでしょうか。

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「お客様の気持ちになる、ということを大切にしています。渋谷の駅の展望施設や原宿駅内のカフェ、全国各地のレストランや眼鏡屋さんなどの選曲に携わっていますが、まずは現地に足を運びます。そして、お客さんとして訪れた気分になって、どんな音楽が流れていたら気持ちが良いだろう、こんな音楽がこの空間で流れていたら素敵だろうなぁ、といったような感覚で選んでいます。」

経年変化もレコードの大きな魅力

via : @tomoyukitanaka

膨大な音楽のコレクションをお持ちですが、近年のアナログブームについてはどうお考えですか。

「僕にとってはレコードとは単に音源だけの話ではなくて、ジャケットのデザインや紙質、匂いなど様々な要素を含めたプロダクトとしてのレコードが好きなんです。敢えて古いレコードを探したり、偶然に出会ったりとか、そういうことを含めて好きなので、最近のアナログブームで、何でもかんでもレコードとして再発する風潮は、個人的にはちょっと疑問に感じています。」

レコードジャケットは気軽に買えるアート作品

via : @tomoyukitanaka

最近ではプレーヤーを持っていない若い方もレコードを買われたりするようですね。

「ちょうど先ほどまで、サウンドトラックを担当している映画『アイスクリームフィーバー』のレコードデザインのミーティングを監督であるアートディレクターの千原徹也君と行っていたのですが、レコードやCDって、改めて様々なクリエイターがアイディアやセンスを出し合って作り上げていくものだと感じました。例え音源は聴けないとしても、手軽に買えるアート作品として、レコードに価値を見出してもらえるのも嬉しい。それは良い傾向だと思っています。」

ベースよりレコードをプレイする様子がクリエイティブに見えた

via : @tomoyukitanaka

国内外様々なイベントやフェスでDJをされる田中さんですが、DJを目指したきっかけはどういったものでしょうか。

「高校卒業直前に京都のディスコでお皿洗いのバイトをしていて、そこでDJの存在を知ったのがきっかけです。当時所属していたバンドでベースを担当していたのですが、バンドで演奏する以上にレコードをプレイすることがかっこいい、クリエイティブな作業に見えたんです。」

自分が好きかどうか、常に五感で判断する

via : @tomoyukitanaka

活動の幅は音楽のみならず、食やファッション、時計、車、アート、文学などへの造詣も深い田中さんですが、そうした興味の源泉はどこから来るのでしょうか。

「全て一緒で、自分が好きかどうか、がベースにあります。例えば音楽にしても、このアーティストのすべの楽曲が好き、アルバムも全部好き、とか盲目的になるのではなく、このアルバムの中でもこの曲が好き、この曲の中でも二番目の歌詞が好き、と自分の中で常に好きを深掘りしています。デザインや食にしても、自分が好きかどうかを五感を駆使して判断しています。」

収集品を次の世代に引き継がないと..(笑)

音楽プロデューサーやリミキサー、DJとして幅広く活躍されていますが、今後やりたいことはどういったことでしょうか。

「これまで色々なものを集めてきたので、余生を考えると次の世代に引き継いでいかないといけないと思っています(笑)。」

かっこいいと思える音楽に一曲も多く出会いたい

音楽大学やアートスクールでも講義をされているとのことですがどういった内容なのでしょうか。

「先日、渋谷芸術中学という中学生向けのアートスクールで講師を担当した際に、生徒の皆さんに出したお題の一つが『自分のお葬式で流したい音楽を選ぼう」というものでした。僕のような歳になっても音楽が好きな人間は、自分の葬式のBGMのプレイリストの純度を高めることを日々一生懸命やっているはずなんです(笑)。そんな僕の日常の視点から、このお題にしました。中学生なのに渋い選曲したりと、ユニークな発想が面白かったですね。」

田中さんがご自身のお葬式でこれだけは流してほしい1曲は何でしょうか。

「日々考えていますが、膨大に候補があるんです(笑)。歳をとるごとにプレイリストの純度が高まって、いよいよ死ぬ時にはその1曲を託したい。これが流れていたらかっこいいよなあ、という音楽に一曲も多く出会いたくて音楽をやっています。」

ものの見方次第で人生は美しくなる

国内外様々なシーンで音楽によって空間を盛り上げている田中さん。そんな田中さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“ビューティフル”です。決して人生は綺麗である必要はないと思うのですが、見方によっては綺麗に感じられると考えています。僕の好きな窪田政男さんという歌人がいるのですが、彼は大病を患っている闘病人でもあり、そんな彼が歌を詠むと、どんなグロテクスな風景も綺麗に切り取られた絵画のように感じるのです。自分で明日の朝飲む抗がん剤を用意する、その薬の色がピンクと緑だということを歌に詠まれていたのですが、本来素敵じゃないものやシチュエーションも、見方によっては綺麗に見えることに気付かされました。人生そういったスタンスで過ごすと良いのかなと思ったんです。人生は良いことばかりじゃないから、見方や考え方を変えることで最終的に美しいものと捉えるちょっとした工夫が必要なのかと。」

独自の視点がユニークな発想に繋がる

音楽をはじめ、食やファッションなど幅広い分野に精通する田中さん。“自分が好きかどうか”を突き詰めることでオリジナリティが洗練され、独自のセンスに繋がるようです。「かっこいいと思える一曲に出会いたくて音楽をやっている」田中さんのこれからの活動にも注目です。