五十嵐淳が積雪地における心地よい暮らしと屋根の在り方を提案する住宅「屋根と矩形」

建築家・五十嵐淳が手がけた北海道苫小牧の住宅地に建つ陸屋根の2階建ての住宅。積雪期における地上の除雪作業を軽減するため、屋根を建蔽率いっぱいまで広げ、外部テラスを南北それぞれに設けています。外壁は針葉樹合板の下見板貼りで、幅長をGLから徐々に広げることで陰影や視覚的な変化を与えています。

寒さと雪と共生する住まいづくり

Via : https://jun-igarashi.jp/

北海道でのプロジェクトがほとんどだという五十嵐さん。寒冷地で設計をしてきたことで、他の地域とは全く違うコンテクスト、主に「寒さ」と「雪」について思考を続けてきたそう。もちろん他にも多様に対応すべき事柄はあるものの、この2つの影響は大きいと言います。

風除室の可能性

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五十嵐さんが北海道特有の「寒さ」と「雪」について考える中で着目したのは「風除室」。風除室とは外気の流入や風の吹きつけを緩和する目的で建物の入り口前に設けられた小部屋のことです。このスペースに様々な可能性を感じ、拡張や多様性を思考していく中で気づいたのは、物理的な応答であるのと同時に快楽への応答でもあるということ。

住宅において重要なのは暮らしやすさ、心地の良さ

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一般的には建築基準法においても凍結深度という地域に対する決まり事が存在しますが、これは主に性能などについての取り決めであり、”快楽”を求めるものではありません。人が住まう空間だからこそ大切なのはどうやって”快楽”を実現するかのはず。「屋根と矩形」では人の住まいやすさ=快楽を追求し、実現を目指しました。

積雪地と屋根

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建物を作るにあたって人の快楽を第一に考えると、積雪地においては「屋根」の大きさが重要に感じられたという五十嵐さん。屋根の大きさについて、地域特有の基準や緩和があるべきだと昔から考えていたそう。

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雪が降る状態は生活に様々な制約を与えます。その中で最も大変なのが除雪作業です。住宅は主に住居地域に建てられますが、それはつまり建蔽率が少ないということ。よって屋根の大きさも自然と小さくなります。

建蔽率いっぱいの屋根と、そこから生まれる中間領域

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そこで「屋根と矩形」では建蔽率いっぱいに大きな屋根を設置。その下にコンパクトな、ほぼワンルームの住居を置いています。

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そうすることで内部空間と外部空間の間に、大きな屋根の下の矩形ができます。この空間は建築基準法的には室内として扱われていますが、物理的には屋外とも屋内とも、半屋内とも半屋外ともいえます。

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屋根の下の矩形は夏も冬もそれぞれの季節の生活の楽しみを発展させる場となり、暮らしを外部と繋げる”あいだ”となります。これは中間領域についてのひとつの試みであり、暮らしをより豊かにする可能性でもあるのです。

心地よい暮らしは住まいやすさから

「屋根と矩形」には寒冷地における中間領域のあり方について、季節を通した生活の快楽への応答、そして生活を街や地球空間とも接続させるキッカケとなるひとつの可能性が示されています。
さらに、多雪地域で必要な強度を確保しながら、あらわしで仕上げられた屋根架構の美しい外観もポイント。機能面、デザイン面の両方に優れた心地の良い住まいです。