「シンプルに“良いもの”を目指したい」金工作家・竹俣勇壱が語る”使いづらい”スプーン誕生の経緯や古いものの魅力について

前編:「長い時間を生き抜いたものに触れながら生活できる」金工作家・竹俣勇壱の好きなデザインや金沢の魅力について

石川県金沢市にアトリエを構え、彫金師としてジュエリーを手掛けながら、生活の道具の制作にも取り組む金工作家・竹俣勇壱さん。オーダージュエリーやカトラリーなどの竹俣さんが生み出す作品には、独自の美学が詰め込まれています。今回は竹俣さんに、代表作のスプーンが生まれた経緯や古いものの魅力について伺いました。

手作りの器に合うカトラリーを、自分で作ろうと思った

竹俣さんは、アクセサリーやオーダジュエリーの制作、アンティークジュエリーの修復のお仕事を経て、食器やカトラリーの制作を始めたということですが、カトラリーづくりを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

「オーダージュエリーの制作をやっていると、出産時のお祝いに贈るベビースプーンや、個人で使うためのこだわったスプーンとか、ジュエリー以外にもいろいろなものを頼まれる機会が多かったんです。考えてみると、金沢で器を作っている人は多いものの、その手作りの器に合うカトラリーを作っている人は少ないなと気づきました。ちょうど独立した2000年あたりから全国的にも器作家さんが増えてきたので、それらに合うカトラリーを作ってみようか、と思って始めたのがきっかけです。」

使いづらいと、所作が丁寧に美しくなる

竹俣さんの代表作の一つに「使いづらいスプーン」と呼ばれる、大き目の先っぽと細い柄のアンバランスさがユニークなスプーンがありますが、こちらにはどのような意図や思いが込められているのでしょうか。

「カトラリーを作り始めるときに、まずは飲食店で食事をしている人の様子を観察していたんです。外食ということでみなさんおしゃれな格好をして食事しているのですが、大口を開けて食べているなという印象を受けたんです(笑)。そこで、もうちょっと上品に食べられるスプーンがあると良いなと考えたのが始まりです。現代のスプーンは製造方法の効率化もあるのですが、頭のほうを軽くすると持った時の印象が使いやすくなるので、大体頭のほうを軽くして作られています。

それを逆にして、頭のほうを重くして持ち手を細くすると、スプーンのすくう量が極端に少なくなります。また、柄が細いのもあって使いづらいので、神経質に扱うようになることで、所作が美しくなるのではないかなと思ってこのデザインにたどり着きました。」

良いものを目指す姿勢が、古いものには詰まっている

ヴィンテージバイクやクラシックカーを所有されていた竹俣さん。先ほどのスプーンもアンティーク品のような佇まいですが、ヴィンテージや古いもののどういった点に魅力を感じていますか。

「現在のものづくりは効率化や、低い減価率でいかに大量に生産できるか、といったことが優先されがちです。一方、古い車やバイクだけではなく、古いものが生み出された当時は、シンプルに“良いもの”を目指して制作するメーカーさん、作家さんが多かったと思うんです。

僕たちもそういう物づくりを行いたいなと思っているので、そうした姿勢に触れられるのが古いものの魅力ですね。」

道具だけでなく、空間づくりにも興味がある

竹俣さんは長年、ものづくりの世界にいらっしゃいますが、今後のビジョンや挑戦したいものはありますか。

「僕たちが製作するものは食の道具がほとんどなので、テーブルの上だけではなくて、視界を広げて、空間づくりも挑戦してみたいですね。」

ライフイズ”ものづくり”

長く愛される本当に”良いもの”づくりを目指している竹俣さん。そんな竹俣さんにとってライフイズ◯◯の〇〇に入るものは何でしょうか?

「ライフイズ“ものづくり”。これしかできないんです(笑)。」

独自の視点と時代の流れを読み取る鋭敏な感度

意外にも手作りの器のニーズの高まりからオリジナルのカトラリーの製作を始めたと話す竹俣さん。“良いもの”を見抜く視点と、作家として世の中に必要とされているものを読み取り、生み出す感度の高さが独自の作品群に繋がっているようです。生活道具に限らず、今後も挑戦を続ける竹俣さんの活動に注目です。