街を探索しているようなワクワク感が楽しい「太田市美術館・図書館」

東京から電車で約一時間半。群馬県太田市の東武伊勢崎線太田駅北口前にある「太田市美術館・図書館」は、世界最先端の感性やクリエイティビティに触れる美術館と、世界各国の絵本児童書やアートブックなどが揃う図書館から成る複合施設である。設計は国内外で高く評価されている若手建築家・平田晃久氏が担当し、市民はもちろん、図書や美術の専門家、建築家、ファシリテーター、行政の担当者など出来るだけ多くの関係者と議論を重ね、今年4月にオープンした。

人工と自然が混じり合う丘のような風景

この建物は、ばらまかれた5つの箱とそれらをぐるぐるとまとめあげるように絡みついたスロープで構成されている。箱の上部は屋上庭園となっている為、誰でも立ち入れるのだが、いわゆるフラットな屋上庭園とは少し異なり、箱の削れた部分からなだれ込むように緑が広がっている。これだけの違いだが、丘の風景と重なるからか、次第に、人工的な構造物が大きな丘に巻きついているようにも見えてくる。

そしてそれは風景としてだけでなく、体感としても建物の上とは思えない強烈な印象が残る。こんな写真が撮れる建築は他にないだろう。

「街を取り込む、街に溶け込む」楽しい仕掛け

「学びの道」と名付けられたスロープは壁一面の本棚と天井いっぱいの窓で挟まれ、行き止まりなく続く。先が見通せないため、コーナーや合流地点にはカーブミラーが設置されているが、これは単にミラーとしてだけではなく方向を指し示すサインとしても機能している。

館内にはこの他にも、 ネオンサインや手書き風の書体など、街の中で実際に目にする看板的な役割を取り入れたサインがいくつもあり、館内全体が従来の図書館とは違う自由で活気のある街のような雰囲気で満ちている。それらのサインを手掛けたのは、グラフィックデザイナーの平野篤史氏。

「街を取り込む、街に溶け込む」というコンセプトをもとに、 名称や方向を指し示す役割としてのサインはもちろん訪れる人がアートや本を楽むようにサインも楽しんでもらえることを目指してデザインされた。

遊び心と実用性を兼ね備えたインテリア

学びの道の本棚には街づくりやモノづくりに関連する書籍を中心に幅広い学問の書籍が揃っており、週末になると学生で賑わう。館内はサイン以外にも数多くの工夫が見られ、座っている人と立っている人が横並びになる段違いのテーブルや底面がボール状になった椅子など、柔軟で挑戦的なインテリアも見所。

「Made in Ota」をコンセプトに、地元企業と協働作業で制作を行った家具

また、多くの図書館は本を手にする場所と読む場所がエリア分けされているが、ここでは階段やちょっとした段差など、いたるところにスツールやクッションが置いてあり、自分の好きな場所で思い思いの時間を過ごすことができる。

世界60カ国以上・12,000冊を超える絵本児童書と9,000冊のアートブック

建物だけでなく絵本やアートブックの豊富さも大きな魅力。ブラウジングコーナーには美術、デザイン、ファッション、スポーツなど約300種類の雑誌が一堂に展示され、アートブックコーナーには他の図書館では扱わない貴重な専門書も集められている。中でも絵本・児童書コーナーは国際アンデルセン賞受賞作をはじめ、12000冊以上の個性豊かな本が集められており、多様な価値観や感性に触れられる。

子供も大人も楽しめるイベントが豊富

館内は、知性だけでなく、感性を刺激するコンテンツも充実している。

太田のまちを新たな視点で再発見することをテーマとした太田フォトスケッチや太田の子供たち美術展など太田市にゆかりのあるテーマがメインだが、絵画、工芸、写真、映像、詩、歌など、多ジャンルのアーティストの作品も展示される為、太田市民でなくとも楽しむことができる。

また、展覧会と連動したワークショップや公募写真展など市民が参加できる企画も積極的に取り入れており、次回はオーストラリアのシドニーオペラハウスとの共同プロジェクトとして、太田とシドニーを結ぶ子供向けアートワークショップ「ジョイン・ザ・ドッツ」を開催予定。その他にも、施設内にある視聴覚ホールやイベントスペースでは、金曜名画座と称した映画上映会や寄席が行われる。

地元で人気の「BLACKSMITH COFFEE」が手がけた「KITANO SMITH COFFEE」もあり、地産地消をモットーに太田市の美味しい魅力を伝えている。

 

太田市内35施設が参加する「まちじゅう図書館」も展開。太田市美術館・図書館をスタート地点として、本や人との出会いを楽しみながら街を知ることができる。従来の枠組みにとらわれない建築やコンテンツ、ぜひ一度体感してほしい。