隈研吾の美術館や黒川紀章の博物館など。祈りの港町・長崎で出会える美しい建築作品5選
鎖国の時代にも、ただひとつ世界に開かれていた港町・長崎。オランダと中国、そして潜伏キリシタンの祈りが交差したこの街には、日本のどこにもない建築の風景が生まれました。国宝の教会堂、竜宮城のような唐寺、海に浮かぶ炭鉱都市の廃墟、そして現代建築家たちが港に描いた新しい風景。坂と港の景色の中に、時代も様式も異なる建築が折り重なっています。長崎の建築を巡ることは、日本と世界が出会ってきた400年の物語をたどることでもあります。今回は、祈りの港町・長崎で出会える美しい建築作品5選をご紹介します。
港の玄関口に建つ光の大空間「長崎港ターミナルビル」──高松伸

長崎の海の玄関口「長崎港ターミナルビル」は、建築家・高松伸の設計により、1995年に完成しました。ガラスに包まれた大空間には港の光がふんだんに差し込み、五島や軍艦島へと旅立つ人々を明るく送り出します。力強い構造体をあえて見せる幾何学的な構成は、精密な機械のような造形で知られる高松建築ならではのもの。水辺に建つ現代のゲートとして長崎港の風景を引き締めながら、行き交う船と旅人の高揚感を受け止めています。船旅の始まりに、まず建築との出会いが待っているのです。
住所:長崎県長崎市元船町17-3
水盤の光が祈りを灯す「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」──栗生明

爆心地にほど近い丘に、静かに水をたたえた円形の水盤があります。建築家・栗生明が設計し、2003年に開館した「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」です。建物の多くは地下に置かれ、地上には水盤だけが広がるという抑制された構成。夜になると水面には犠牲者を悼む無数の光が灯ります。水盤の下へと降りていくと、光の差し込む静謐な追悼空間が待ち、訪れる人はただ静かに祈りと向き合うことになります。建築が言葉を超えて祈りの器になりうることを教えてくれる、長崎でこそ体験してほしい空間です。
住所:長崎県長崎市平野町7-8
公式サイト:https://www.peace-nagasaki.go.jp
運河をまたぐ“呼吸する美術館”「長崎県美術館」──隈研吾

長崎水辺の森公園に隣接して建つ「長崎県美術館」は、建築家・隈研吾と日本設計の設計により、2005年に開館しました。最大の特徴は、美術館が運河をまたいで建っていること。ガラスの橋の回廊からは水面がきらめき、細いルーバーに包まれた建築は港の風景にやわらかく溶け込みます。石やガラスといった硬質な素材に木の繊細さを重ねる手法には、素材の質感を大切にする隈建築の持ち味がよく表れています。屋上庭園に上がれば、長崎港と稲佐山を一望する絶景が無料で楽しめるのも嬉しいところ。アートと水辺の散策がひとつながりになった、港町の美術館のお手本のような建築です。
住所:長崎県長崎市出島町2-1
公式サイト:https://www.nagasaki-museum.jp
江戸と現代が重なり合う「長崎歴史文化博物館」──黒川紀章

長崎奉行所立山役所の跡地に建つ「長崎歴史文化博物館」は、建築家・黒川紀章の設計により2005年に開館しました。この建築の面白さは、発掘調査をもとに復元された江戸時代の奉行所建築と、黒川の手がけた現代的な展示棟が、ひとつの施設として組み合わされていること。石垣と白壁の向こうにガラスの建築が現れる風景は、まさに歴史と現代の共生です。海外交流史の資料を収蔵する「長崎学」の拠点として、建築そのものが長崎の重層的な時間を体現しています。
住所:長崎県長崎市立山1-1-1
公式サイト:https://www.nmhc.jp
約130年ぶりに出島へ架かった橋「出島表門橋」──渡邉竜一/ネイ&パートナーズジャパン

鎖国時代、日本と世界をつなぐ唯一の窓だった出島。明治期の埋め立てで周囲と陸続きになり、橋は失われていましたが、2017年、約130年ぶりに橋が復活しました。構造デザイナー・渡邉竜一率いるネイ&パートナーズジャパンが手がけた「出島表門橋」は、国指定史跡である出島側の石垣に荷重をかけないよう、対岸側で橋を支えるという繊細な構造が特徴。先端に向かってすっと細くなる鉄の橋は、歴史への敬意をエンジニアリングで形にした現代の名作です。この橋を渡って出島に入る体験は、長崎建築巡りのクライマックスにふさわしいはずです。
住所:長崎県長崎市出島町
公式サイト:https://nagasakidejima.jp
長崎の歴史を照らす現代建築の光
唐寺の極彩色、教会の祈り、炭鉱島の沈黙、そして現代建築の光。長崎の建築は、この街が世界とどう出会い、何を乗り越えてきたかをそのまま形にしています。坂道をのぼり、船に乗り、橋を渡って名建築を訪ねる旅は、きっと他のどの街とも違う余韻を残すはず。稲佐山の夜景や卓袱料理とあわせて、次の九州旅行では、祈りの港町・長崎を建築の目で歩いてみてはいかがでしょうか。