丹下健三の祈りの建築から、坂茂による“世界で最も美しい美術館”まで。広島県の有名建築家による美しい建築作品10選

瀬戸内海の穏やかな水面と、坂の街に降り注ぐやわらかな光。広島県ほど、風景と建築が深く結びついた土地は多くありません。原爆からの復興を祈りとともに形にしたモダニズムの傑作から、海運倉庫に新しい命を吹き込んだリノベーション、日本初の公立現代美術館、そして“世界で最も美しい美術館”に選ばれた最新の名建築まで。広島市、呉、尾道、福山、大竹と県内を巡れば、日本建築の戦後から現在までをひと続きの物語として体感することができます。今回は、広島県で出会える有名建築家による美しい建築作品10選をご紹介します。

復興の祈りを形にしたモダニズムの原点「広島平和記念資料館」──丹下健三

広島平和記念資料館
参考:広島平和記念公園で体感する鎮魂と平和への祈り、そして巨匠・丹下健三の建築スピリット

広島の建築を語るとき、すべての出発点となるのが、広島県出身の建築家・丹下健三が設計した「広島平和記念資料館」です。ピロティによって大地から持ち上げられ、水平に長く伸びる端正なヴォリュームは、原爆ドームから慰霊碑、そして資料館へと一直線に連なる祈りの軸線の要として構想されました。丹下健三はこの建築で、個人の尺度を超えた「社会的人間の尺度」を追求したといわれ、つづみ型にすぼまる台形の柱が支えるピロティをくぐるとき、訪れる人は自然と厳粛な気持ちに包まれます。竣工から70年を経てもその静けさは色褪せることなく、2006年には戦後建築として初めて国の重要文化財に指定されました。都市の骨格そのものを祈りの装置として設計した、日本のモダニズム建築の金字塔です。

参考:広島平和記念公園で体感する鎮魂と平和への祈り、そして巨匠・丹下健三の建築スピリット

住所:広島県広島市中区中島町1-2
公式サイト:https://hpmmuseum.jp

戦後建築の到達点と呼ばれる祈りの空間「世界平和記念聖堂」──村野藤吾

世界平和記念聖堂
Via : Wikipedia.

原爆によって焼失した幟町教会の再建として、世界平和への祈りを込めて建てられたカトリックの聖堂です。設計を手がけたのは、日本を代表する建築家・村野藤吾。コンクリートの柱と梁の間にレンガを丹念に積み上げた三廊式バシリカの構成は、中世ヨーロッパの教会を思わせる荘厳さをまといながら、鳳凰や蓮といった日本的なモチーフが随所に息づく、他に類を見ない建築です。高さ45mの鐘塔は街のどこからでも望むことができ、竣工以来、広島の祈りのランドマークであり続けてきました。粗削りな素材がこれほどまでに神々しい空間を生むのかと、誰もが息をのむはずです。広島平和記念資料館と並び、2006年に国の重要文化財に指定されています。

住所:広島県広島市中区幟町4-42
公式サイト:https://noboricho.catholic.hiroshima.jp

“日本一美しいごみ処理施設”「広島市環境局中工場」──谷口吉生

広島市環境局中工場
Via : Wikipedia.

ニューヨーク近代美術館新館や豊田市美術館などで知られる建築家・谷口吉生が手がけたのは、なんとごみ処理施設です。平和記念公園から海へとまっすぐ伸びる吉島通りの南端、その都市軸の終着点に建つこの工場は、軸線を建築の内部にまで貫通させるという大胆な構成を持っています。ガラス張りの通路「エコリアム」を歩けば、左右にはメタリックなプラント設備が美術館の展示品のように整然と並び、そのまま海側のデッキへと抜けることができます。ごみ処理施設という、都市が目を背けがちな施設をあえて開き、美しく見せる。谷口吉生の端正なディテールが、公共建築の可能性を静かに更新し続けている作品です。

参考:日本一美しいごみ処理施設!?世界的建築家・谷口吉生による「広島市環境局中工場」

住所:広島県広島市中区南吉島1-5-1

原爆ドームの隣に生まれた祈りと眺望の塔「おりづるタワー」──三分一博志

広島おりづるタワー屋上

原爆ドームの東隣に建っていた既存のオフィスビルを、広島を拠点に世界的な活動を展開する建築家・三分一博志がリノベーションした複合施設です。最上階の展望空間「ひろしまの丘」は、木のルーバー越しに瀬戸内の風が通り抜ける半屋外の空間で、平和記念公園の緑から市街地、瀬戸内海、晴れた日には宮島までを一望することができます。風、水、太陽といった「動く素材」を設計の核に据える三分一建築の思想が、スロープを歩き、風を感じ、街を見渡すという身体的な体験として結実しています。新築ではなく既存ビルの再生によって都市に新しい価値を生み出した点でも、これからの建築のあり方を示す作品といえるでしょう。

住所:広島県広島市中区大手町1-2-1
公式サイト:https://www.orizurutower.jp

丘の上に建つ日本初の公立現代美術館「広島市現代美術館」──黒川紀章

広島市現代美術館
Via : Wikipedia.

桜の名所として親しまれる比治山公園の丘の上に建つ「広島市現代美術館」は、1989年、現代美術に本格的に取り組む公立美術館として全国で初めて開館しました。設計を手がけたのは、メタボリズムの旗手として世界を舞台に活躍した建築家・黒川紀章。日本の蔵を思わせる三角屋根の連なりと、古代ヨーロッパの広場のような円形のアプローチプラザが融合した、広島を代表するポストモダン建築です。足元から自然石、タイル、アルミへと積み上がる外壁の素材の変化は、過去から未来へと流れる時間を表現したもので、黒川が生涯掲げた「共生の思想」がこの建築に息づいています。約2年の大規模改修を経て2023年3月にリニューアルオープンし、緑の丘の上から広島の街を見渡すアートの拠点として、新しい時代を歩み始めています。

住所:広島県広島市南区比治山公園1-1
公式サイト:https://www.hiroshima-moca.jp

“世界で最も美しい美術館”に選ばれた「下瀬美術館」──坂茂

下瀬美術館
Via : Wikipedia.

2023年、大竹市の海辺に開館した「下瀬美術館」は、紙の建築や災害支援活動で知られる世界的建築家・坂茂による設計です。海岸線に沿って伸びる長さ190mのミラーガラス・スクリーンが瀬戸内の空と海を映し込み、建築の輪郭を風景の中に溶かしていきます。ハイライトは、水盤に浮かぶ8つのカラフルな可動展示室。展示室そのものが水に浮かび、配置を変えられるという世界初の試みで、訪れるたびに異なる建築体験が待っています。この革新性と美しさが評価され、2024年にはユネスコで創設された建築賞「ベルサイユ賞」において“世界で最も美しい美術館”に選出されました。いま広島で、そして日本で最も注目を集める建築のひとつです。

参考:建築家・坂茂が設計した下瀬美術館が2024年「世界で最も美しい美術館」に選出!

住所:広島県大竹市晴海2-10-50
公式サイト:https://simose-museum.jp

プリツカー賞建築家が設計した全面ガラスの消防署「広島市西消防署」──山本理顕

広島市西消防署
Via : Wikipedia.

平和大通り沿いに建つ、全面をガラスに覆われた透明な建築。オフィスビルにしか見えないこの建物は、実は現役の消防署です。設計したのは、2024年に建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞した建築家・山本理顕。約2,400枚のガラスルーバーに包まれた庁舎は、外から中で働く消防士たちの姿を見ることができ、中央のアトリウムでは日々の救助訓練が繰り広げられます。24時間そこに人がいることが見える、それ自体が街の安心感になるという発想の転換は、竣工から四半世紀を経た今も色褪せません。ガラス張りの署長室や、ガラスの床に消防道具が並ぶ4階の展示ロビーなど、開かれた公共建築の理念が細部にまで貫かれています。

住所:広島県広島市西区都町43-10

海運倉庫が生まれ変わったサイクリストの聖地「ONOMICHI U2」──谷尻誠・吉田愛/SUPPOSE DESIGN OFFICE

ONOMICHI U2
参考:戦時中に建てられた海運倉庫が谷尻誠の手で甦る。尾道・しまなみ海道の拠点「ONOMICHI U2」

しまなみ海道の玄関口・尾道の海沿いに建つ「ONOMICHI U2」は、戦時中に建てられた海運倉庫「県営上屋2号」をリノベーションした複合施設です。手がけたのは、広島県出身の建築家・谷尻誠と吉田愛が率いるSUPPOSE DESIGN OFFICE。「サイクル」をテーマに、自転車ごとチェックインできるホテルを中心として、地元の食材を味わえるレストランやベーカリー、サイクルショップなどが倉庫の大空間にゆるやかに配置されています。既存の躯体の記憶を残しながら挿入された新しい要素が、尾道という港町の等身大の魅力と現代的な洗練を同居させており、リノベーション建築の先駆けとして今も全国から人々を惹きつけています。

参考:戦時中に建てられた海運倉庫が谷尻誠の手で甦る。尾道・しまなみ海道の拠点「ONOMICHI U2」

住所:広島県尾道市西御所町5-11
公式サイト:https://onomichi-u2.com

2本のらせんが結ばれる海辺の祝祭空間「リボンチャペル」──中村拓志

リボンチャペル
Via : Wikipedia.

尾道市郊外、瀬戸内海を見下ろす丘の上のリゾート「ベラビスタ スパ&マリーナ尾道」に建つウェディングチャペルです。建築家・中村拓志が設計したこの建築は、2本のらせん階段が互いに絡み合いながら昇り、頂部でひとつに結ばれるという構成そのもので、別々の人生を歩んできたふたりが結ばれる物語を体現しています。らせんは構造としても互いを支え合っており、寄り添うことで自立するという建築的な仕掛けが、そのまま祝福のメッセージになっているのです。白いリボンのような曲線の向こうには瀬戸内海の多島美が広がり、建築と風景と人生の節目が一体となる、世界でも稀有な祝祭空間が生まれています。

住所:広島県尾道市浦崎町大平木1344-2
公式サイト:https://www.bella-vista.jp

瀬戸内の海に浮かぶ舟のようなパビリオン「神勝寺 禅と庭のミュージアム 洸庭」──名和晃平/SANDWICH

参考:まるで宇宙船!「SANDWICH」による”禅”が体感できるインスタレーションとは!?

福山市の禅寺・神勝寺の広大な境内に佇む「洸庭」は、彫刻家・名和晃平率いるクリエイティブユニットSANDWICHが手がけたアートパビリオンです。細い木材で全体を覆われた舟形のヴォリュームが、石を敷き詰めた海原の上に浮かぶ姿は、建築というよりも巨大な彫刻のよう。ゆるやかにうねる木肌の表情は、光の角度によって刻々と変化します。内部に足を踏み入れると、暗闇の中に波のゆらめきを想起させる光のインスタレーションが広がり、禅の思想を頭ではなく全身で体感することができます。境内には建築家・藤森照信が手がけた寺務所「松堂」もあり、建築とアートと禅が交差する、建築好きには見逃せない目的地です。

参考:まるで宇宙船!「SANDWICH」による”禅”が体感できるインスタレーションとは!?

住所:広島県福山市沼隈町大字上山南91
公式サイト:https://szmg.jp

広島の歴史と瀬戸内の風景を身に纏う建築たち

平和への祈りから生まれたモダニズム、港町の記憶を受け継ぐリノベーション、そして世界が注目する最新の美術館まで。広島県の建築を巡る旅は、この土地が歩んできた時間そのものをたどる旅でもあります。瀬戸内の光の中で名建築とゆっくり向き合えば、自分の住まいや暮らしを見つめ直すヒントもきっと見つかるはずです。次の休日は、建築を目的地にして広島へ出かけてみてはいかがでしょうか。

広島市内の建築をさらに深く:「丹下健三らモダニズムの巨匠の作品が多数!広島市の日本を代表する有名建築家の美しい建築作品5選!