広島平和記念公園で体感する鎮魂と平和への祈り、そして巨匠・丹下健三の建築スピリット

約70年前、第二次世界大戦により広島と長崎へ投下されたことで知られる原爆。ここ広島平和記念公園は、世界に向けて人類の平和を願い訴えることと、過去の過ちを繰り返さないことを目的に作られた。この広大なランドスケープを含む建築設計を手掛けたのは、広島県出身の建築家 丹下健三だ。

建築家巨匠・丹下健三が手掛けた広島平和記念公園

広島平和記念公園は、コンペにより当選した建築家・丹下健三によるデザイン。当時、原爆により焼け野原となり、丹下氏も父母を同時に失ったこの地を「大いなる因縁」だと後に語り、広島平和記念公園一帯の建築を「たとえわが身が朽ちるとも」というほどの思いで志願したという。

正面で出迎えるのは「広島平和記念資料館」

広島平和記念公園で我々をまず出迎えるのは、横に広くどっしりとした存在感が印象的なモダニズム建築「広島平和記念資料館」だ。

実は、写真に収められないほどの巨大なこの建築スケールにも重要な意味がある。丹下氏は「人間の尺度を超えた社会的人間の尺度」にこだわり、ローマ見た「神々の尺度によって建てられた建築」に通ずるものをこの建築に採用。ピロティの階高を「社会的人間の尺度」、踊り場の階高を「人間の尺度」と表現している。

当時、この都市を蘇らせるには「大建築こそ必要」と感じたという丹下氏の熱量が、広島平和記念資料館の迫力から感じられた。

広島平和記念資料館の建築では、ピロティ部の柱の造形にも注目したい。まるで「つづみ型」のような台形の柱。コンペ時点では細い丸柱が採用されていたが、伊勢神宮やマルセイユのユニテ・ダビタシオンの柱の力強さにインスパイアを受け、つづみ形のフォルムへと変更した。これにより、更に力強さと厚みを与えている。

広島平和記念資料館

開館時間:8:30~18:00
URL : http://hpmmuseum.jp
住所:広島県広島市中区中島町1−2

HPシェルのトンネル状の形が象徴的な慰霊碑

広島平和記念資料館を抜けて真っ直ぐ前へ進むと見えてくるのは、HPシェル構造で創られた慰霊碑だ。

言わば「日本らしさのない形」であり、世界中で創られている「HPシェル構造」でできたこの慰霊碑。その理由には丹下が考える「建築様式と平和」の紐付けが込められる。

この慰霊碑に関して「どの国のものでもない人類共通の建築様式」を採用することは、世界そして人類共通で戦災を防ぎ、平和を貫いていこうという彼の想いが込められているのだ。

丹下氏は後に語る。「平和は自然からも神からも与えられるものではなく、人々が実践的に創り出してゆくものである」と。

遮るものを通さない、軸線がはっきりとしたランドスケープ

トンネル状の形の慰霊碑を覗くと向こう側には原爆ドームが見える。慰霊碑と原爆ドームの間には水盤が配置され、遮るものを通さず、軸線がハッキリと意識されている。

コンペ採用の要点ともなった「原爆ドームを狙って軸を作るランドスケープ」は、平和記念資料館のピロティの間をも貫いて延び、その姿は実に美しい。

丹下氏はこの美しいランドスケープの設計について「厳島神社の弥山から本殿を経て、海中の鳥居にいたる一本の軸線とまったく同じ性格を秘めている」という。

「弥山を背負い厳島神社の本殿が立ち、厳島全体を負っている」ことが、「原爆ドームを背負い慰霊碑が立ち、広島の町全体を負っている」ことと照らし合わされているのである。

「平和大橋」と「西平和大橋」はイサムノグチによるデザイン

都市と広島平和記念公園を繋ぐ「平和大橋」と「西平和大橋」。これらデザインしたのは、アメリカ・ロサンゼルス出身の芸術家・イサムノグチだ。丹下氏が直接イサムノグチに依頼したというこの2つの橋にはそれぞれ抽象されるテーマがある。

太陽を象ったような形が印象的な平和大橋。ノグチ氏はこの橋を「Tsukuru (To build)」と命名した。打ちっぱなしコンクリートで創られた柔らかな曲線美、潔いほどに大胆に二つに切られた球状の形にアミニズムを感じる。

一方で西平和大橋は「Yuku (To Depart)」と命名され、船の竜骨をイメージして創られている。これは、犠牲者が黄水の国へ船出する死の象徴を意味しているのだとか。

国立広島原爆死没者追悼平和祈念館

広島平和記念公園構内に存在する丹下健三の健三の1つ「国立広島原爆死没者追悼平和祈念館」。ここは被爆者を追悼し、世界平和を願う目的で広島と長崎に作られた建築だ。まるで教会や霊園を連想させるような清らかで神秘的な色合いと空間が我々を凛とさせる。

渦巻くスロープを奥へ深く進む様は、まるで地中へと連れられているような感覚に陥る。現在から過去に時間を遡るように進み降りていくと、「平和祈念・死没者追悼空間」が柔らかく広がり、閉鎖的だったスロープからの開放感のギャップが鮮やかだ。

この空間では、爆心地から見た広島市内の様子を、約14万人に及ぶ死没者の数と同数のタイルで表現している。

国立広島原爆死没者追悼平和祈念館

開館時間:8:30~18:00
URL : http://www.hiro-tsuitokinenkan.go.jp
住所:広島県広島市中区中島町1−6

原爆ドーム(広島平和記念碑)

原爆ドームの名で知られる広島平和記念碑。元は広島県立商品陳列所という施設で、1996年に世界遺産にも登録された、広島のみならず世界の平和の象徴である。

このような残り方になっているのは、爆風がほぼ直上から襲ってきたからだと言われている。そのため、奇跡的に厚い側面の壁や鉄骨のドーム部分などは崩壊を免れた。

現在は、樹脂注入で全面崩壊を免れているが、いつ地震などで倒壊してもおかしくない状況だという。

原爆ドーム

URL : http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/dome/index.html
住所:広島県広島市中区大手町1丁目1−10

広島国際会議場

「広島平和記念資料館」と左右対称の建築としても知られる「広島国際会議場」。以前は全く異なる建物の外観だったが、1989年に丹下健三のコンペ案に近い形で再建された。これにより丹下氏の当初のコンペ案が完結したとも言えるだろう。

広島国際会議場

URL : http://www.pcf.city.hiroshima.jp/icch/
住所:広島県広島市中区中島町1−5

 

 

広島平和祈念公園を正面から出迎える「丹下健三建築」。そこには平和を願うだけでなく、平和を人間の手で創り維持するのだという力強さと神秘性を感じることができた。

慰霊碑に書かれた言葉「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」の過ちを繰返さないの主語と共に丹下建築に込められたスピリットは世界・人間共通で考えさせられるエネルギーが込められた傑作であろう。

広島平和記念公園

URL : https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/hiroshima-park/7480.html
住所:広島県広島市中区中島町1丁目1