「わからないことへのワクワクが大切」デザイナー・三澤遥のものづくりへの意識や展示空間に込められた想い

上野動物園の知られざる魅力をビジュアル化した「UENO PLANET」や、「虫展 −デザインのお手本」への出品作「視点の採集」など、ものごとの原理を観察し、実験的なアプローチによって未来への可能性へと繋げる、ユニークなスタイルが注目を集めるデザイナー・三澤遥。今回は三澤さんに、ものづくりへの意識や展示空間に込められた想いについて伺いました。

ものを作ったり工夫することが好きな子どもだった

お父様は図工専任の教師、お祖父様は着物の染色職人をされていたということで、周りに物作りをされる方が多い環境だったかと思いますが、小さい頃はどんなお子さんだったのでしょうか。

「高校2年生の誕生日に思い切って電動糸のこぎりをリクエストしたところ、なんと買ってもらえまして。それをきっかけに飼っていた猫の小屋を制作したり自分の座る椅子の座面を作って張り替えたり。小さい頃からずっと家におもちゃがほとんどなかったので、木をナイフで削ってみたり、紙でビー玉を転がす迷路を組み立てて遊んだりしていました。」

人生を通じて、実験としてのものづくりを続けたい

三澤さんはクライアントから依頼されるお仕事の傍ら、実験的なデザインワークも手掛けられています。こうした試みをクライアントワークと並行して行う意図は何でしょうか。

「自分の人生を通じての活動としては、実験としての物づくりを続けたいんです。なぜ実験をするのかというと、わからないから実験するのであって、この『自分でもわからない』ということが最も大切だと考えています。科学のようなのような、わからないことへの自身のワクワクが、結果そのまま誰かに伝わっていくと思うので、いかに『自分がワクワクできるか』ということに集中しています。」

ご自身が楽しんでいらっしゃるんですね。

「そこが嘘になってしまうとうまく伝わらないと思っています。」

「考える」ポイントを生み出したい

写真:国立科学博物館「WHO ARE WE」 展示空間/2022年 | Photo by Riko OKANIWA

昨年公開された「三澤デザイン研究所」が国立科学博物館と共同で取り組んだ企画展「『WHO ARE WE 観察と発見の生物学』国立科学博物館収蔵庫コレクション Vol.1 哺乳類」では、今までにないユニークな展示で非常に注目を集めました。生物の剥製が載った什器に引き出しがついた独特な展示スタイルですが、こちらはどのような意図でデザインされたのでしょうか。

「収蔵庫のイメージとして、大量の棚や引き出しがある倉庫が頭に浮かびました。そこで、開けてはいけないものをひっそりと覗き見るような、普段だったらできない体験を展示で実現したいと思いました。自分で引き出しを開けるという能動的な行為の中に、自分で考える接点が生まれたらいいなと。」

写真:国立科学博物館「WHO ARE WE」 展示空間/2022年 | Photo by Riko OKANIWA

来場された方からはどんな様子でしたか。

「今まで手掛けてきた展覧会は、デザインが好きという方にお越し頂くことが多かったように思いますが、今回は『国立科学博物館』ということもあり、そういう偏りもなく、さまざまな価値観の方々がいらっしゃっていた印象です。

写真:国立科学博物館「WHO ARE WE」 展示空間/2022年 | Photo by Riko OKANIWA

引き出しを開けて、関係のないお客様同士が会話していたり、図鑑から得た知識を話している方もいて、一つの引き出しによってコミュニケーションが自発的に生まれている様子が心に強く残りました。」

色で満たされた空間に溶け込むような感覚を目指した

写真:国立科学博物館「WHO ARE WE」 展示空間/2022年 | Photo by Keisuke KITAMURA

現在「三澤デザイン研究室」が会場構成、展示作品、DM、冊子のデザインを担当されたプロジェクト「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE No.6」が、ISSEY MIYAKE GINZA / 445(旧: ISSEY MIYAKE GINZA)で開催中ですが、三澤さんがディレクションを行う中で最もこだわった点はどういったところでしょうか。(現在はすでに会期は終了しています。)

「展示空間の着想のエッセンスとして、田中一光氏のグラフィックから色紙という素材や鮮やかな色を、イッセイ ミヤケの衣服から造形や機能性、動きを抽出して空間を考えてみようと思いました。

写真:国立科学博物館「WHO ARE WE」 展示空間/2022年 | Photo by Keisuke KITAMURA

ポスターのお花の絵柄が、どうやら色紙を切り貼りした切り絵の表現で作られているらしいということから、紙という材料を展覧会のメインにしようと考えたのが始まりです。

田中一光氏が開発したタントという美しい発色の紙があるのですが、その紙を展示構成のメインの素材として選び、無数の粒子として表現しました。会場では粒子たちがひそひそと動き、静かに色を発しています。それはまるで、色そのものが生きているような不思議な光景です。空間、グラフィック、衣服が溶け合ったような世界に、来場者自身が溶け込んでしまう様な体験を試みました。」

続々とものをつくり続けたい

物事の本質を「考えさせる」デザインが特徴の三澤さん。そんな三澤さんにとってライフイズ◯◯の〇〇に入るものは何でしょうか?

「『続く』でしょうか。実験もそうですが、続けていく中で10年、30年後に意外なものに結びついたり、新しい発明が生まれたり。私の作品は些細なものが多いので、無駄なものを作っているように見られることもあるでしょうが、実験の先でしか、作っている人でしか得られないものがあることは確かです。続々とものをつくっていくということを、これからも大切にしていきたいです。」

わからないことにワクワクしながら実験を続けたい

わからないことへの「ワクワク」が大切だと話す三澤さん。未知のものへの好奇心によって実験を続けることが、多くの人の興味を惹く「考えてしまう」デザインへと繋がるのかもしれません。