「bud brand 2026」入賞デザイナーの5作品がミラノデザインウィークで世界に問う、暮らしとデザインの新しい関係
前編:日本の学生デザインが世界へ。「bud brand 2026」入賞作品がミラノデザインウィークに出展中!
世界最大規模のインテリアデザインの見本市「ミラノデザインウィーク(Milano Design Week)」が、今年も4月のミラノを舞台に開幕しました。期間中、ミラノの街全体がデザインで溢れるこの祭典に、今年も日本の次世代クリエイターたちが挑戦しています。
bud brand 2026(バッドブランド2026)

彼らの舞台を用意したのは、一般社団法人 日本DESIGN BANKが運営する「bud brand(バッドブランド)」プロジェクトです。「つぼみ(bud)+綺麗に咲かせる(brand)」という名が示すように、才能ある若きデザイナーたちが世界の舞台でひと花咲かせるための場として、2016年よりミラノデザインウィークへの出展支援を続けています。
2026年のコンテスト「budbrand AWARD 2026」では、35歳以下の学生・デザイナーを対象に、テーマ「吊る × 暮らしのアイテム」で作品を募集。120作品もの応募の中から選ばれた10作品が、ミラノのトルトーナ地区「Via Tortona 5」にて展示されています。
今回は、その入賞作品の中から5つの作品をご紹介します。いずれも、日常のなかに宿る「見過ごされていた美しさ」を丁寧にすくい上げた、個性豊かなプロダクトです。
生活を照らすということ(ランプシェード)
Designer:神谷 紀彰 / 稲野邊 義紀

台所の片隅に置かれ、汚れを吸い込んだあと静かに捨てられていくスポンジ。この「使い捨てられる運命にある素材」に新たな生命を吹き込もうとしたのが、神谷紀彰さんと稲野邊義紀さんによる「生活を照らすということ」です。
制作工程は独特で、スポンジの微細な網目構造に液体状の粘土を隅々まで浸し込み、高温の窯で焼き固めます。するとスポンジそのものは燃え尽きて消失し、その複雑な空洞の形だけが硬質なセラミックのランプシェードへと昇華されます。「用」の形が「美」の器に変わる、まさに錬金術のような工程です。
この作品が問いかけているのは、素材の再生だけではありません。家族と囲む夕食の温かさや、朝の「おはよう」のひとことのように、当たり前すぎて意識されなくなった日常の幸福に、もう一度光を当てることがテーマになっています。柔らかなセラミックの灯りを通じて、住まう人の心に優しい対話を生み出す——そんな深いメッセージが、この静かなランプシェードに宿っています。
Orange(照明)
Designer:芥川 佳世

「部屋にあるだけで、気持ちが前向きになる照明をつくりたい」——そのシンプルで力強い思いから生まれたのが、「Orange」です。
名前の通り、オレンジをモチーフにデザインされたこの照明は、見ているだけで元気や前向きな気持ちを引き出してくれる色と形を持っています。オレンジ色が持つ心理的な温かさと活力は、インテリアとして空間に置かれるだけで部屋の雰囲気をやわらかく変えてくれます。そして実際に光を放つことで、視覚的な明るさと心理的な安心感の両方を同時に届けます。
「吊る」というテーマのもと、上を向くことへのポジティブなイメージを形にした作品群が並ぶ今回の展示において、「Orange」はそのコンセプトを最もストレートに、そして愛らしく体現している一作といえるでしょう。理屈を超えて「なんだか好き」と感じさせるデザインの力が、この作品には詰まっています。
Fruit Light(照明)
Designer:越智 駿

春に花を咲かせ、やがて実を結ぶ——生命の循環の末に訪れる「果実を摘み取る瞬間」。その原初的な体験が持つ高揚感を、日常の照明に落とし込んだのが越智駿さんの「Fruit Light」です。
果実を思わせる大小7つの球体はそれぞれが独立した光源となっており、茎を模したベースに差し込むことで充電される仕組みです。ベースにはType-C端子が内蔵されており、差し込まれている間は静かにエネルギーを蓄えます。光が必要なときには、果実を摘むように手に取り、ベッドサイドや書斎、読書の片手に——思い思いの場所へと持ち運ぶことができます。
「選び、摘み、灯す」という一連の所作こそが、この照明の本質的な価値です。モノとしての機能を超えて、使うたびに小さな高揚感と自然とのつながりを思い起こさせてくれる、体験型の照明作品です。プロダクトデザインが「行為のデザイン」でもあることを、この作品は静かに教えてくれます。
KASANOE(照明)
Designer:松村 佳宙

誰もが幼い頃から手に取り、雨の日の外出を支えてくれた「傘」。その柄(え)のかたちを照明に与えることで、人と空間の新しい関わりを生み出そうとしたのが、松村佳宙さんの「KASANOE」です。
傘の柄は、握る、引っかける、立てかける——誰もが無意識のうちにその使い方を知っているプロダクトです。そのかたちを照明に取り入れることで、「自然に握る」「どこかに掛ける」という行為が空間の中にごく自然に生まれます。説明書がなくても、見た瞬間に使い方がわかるデザイン。そこには、ユーザーへの深い思いやりが込められています。
また、傘が長年にわたって雨から人を守ってきたように、KASANOEも日常の不安や憂鬱な気持ちを少しでも和らげてくれる存在でありたいという願いも、この照明には込められています。かたちと光を通して、住まう人の心に安らぎをもたらす——暮らしの中に静かに寄り添う照明です。
Cardboard Hook(フック)
Designer:恵良 凜太郎

避難所となった体育館。段ボールの間仕切りで区切られた、茶色く沈んだ単調な空間。そこに暮らす人々の心に、少しでも視覚的な明るさと機能的な豊かさを届けたい——そんな切実な動機から生まれたのが、恵良凜太郎さんの「Cardboard Hook」です。
六角形のモジュールを基本とするこの作品は、自由に組み合わせて壁面に配置できる設計になっています。複数のユニットをつなぎ合わせることで、無機質な段ボールの壁面にリズムと立体感が生まれます。そして表面の突起部分は、視覚的なアクセントとなるだけでなく、フックとしての実用的な機能も果たします。
装飾性と機能性を統合し、かつ段ボールという身近な素材で成立するこのデザインは、「誰もが豊かさを享受できる」という民主的なデザインの思想を体現しています。非常時の空間というテーマを扱いながら、ミラノという世界のデザインの中心地でこの作品が問いかけるものは、デザインが持つ社会的な力そのものといえるでしょう。
デザインのつぼみが、世界で咲く

「生活を照らすということ」「Orange」「Fruit Light」「KASANOE」「Cardboard Hook」——5つの作品はそれぞれ異なるアプローチを持ちながら、いずれも私たちが日々の暮らしの中で見過ごしてきた何かに、あらためて目を向けさせてくれます。
照明、収納、フック。プロダクトのジャンルは日用品の領域でありながら、そこに込められた問いと想いは、どれも世界の舞台に立つに値するものです。ミラノ・トルトーナ地区「Via Tortona 5」の会場で、こうした若きデザイナーたちの作品が世界中の来場者の目に触れ、どのような反応を生み出しているか——想像するだけで心が弾みます。
bud brand 2026(バッドブランド2026)
会場:Via Tortona, 5, 20144 Milano MI, Italy(tortona rocks)
期間:2026年4月21日(火)〜26日(日) 10:00〜21:00(現地時間)
URL:https://www.bud-brand.com/