磯崎新の故郷・大分で巡る有名建築家の建築作品10選。温泉の街は名建築の宝庫だった!

日本一の「おんせん県」として知られる大分県。しかしこの土地には、もうひとつの顔があります。それは、世界的建築家たちの作品がひしめく「建築ミュージアム県」としての顔です。この地で生まれ育ったのが、2019年にプリツカー賞を受賞した建築家・磯崎新。そして磯崎のアトリエで修業した坂茂もまた、大分に複数の傑作を残しています。師から弟子へ、明治の巨匠から現代の名手まで。大分市から別府、由布院、長湯温泉へと、湯めぐりの道はそのまま建築めぐりの道になります。湯けむりの向こうに名建築が待つ大分で出会える、有名建築家による建築作品10選をご紹介します。

磯崎新の原点「アートプラザ(旧大分県立大分図書館)」──磯崎新

アートプラザ
参考:プリツカー賞受賞した理論的建築家・磯崎新の初期の作品「アートプラザ・磯崎新記念館」

大分市役所の向かいに建つ、コンクリートの太い梁が空中に突き出した彫刻のような建築。これが、大分市出身の建築家・磯崎新の初期代表作「旧大分県立大分図書館」です。1966年の竣工にあたり磯崎は、増築や用途の変化といった時間の中の変化をあらかじめ設計に織り込む「プロセス・プランニング論」を実践し、日本建築学会賞を受賞しました。図書館の移転後には取り壊しの話も持ち上がりましたが、国内外からの保存運動によって存続が決定。1998年に複合文化施設「アートプラザ」として再生されました。3階の磯崎新建築展示室には世界中の磯崎建築の模型が並び、まさに建築巡礼の出発点にふさわしい場所です。

参考:プリツカー賞受賞した理論的建築家・磯崎新の初期の作品「アートプラザ・磯崎新記念館」

住所:大分県大分市荷揚町3-31
公式サイト:https://www.art-plaza.jp

東京駅の建築家が残した赤レンガの銀行「大分銀行赤レンガ館」──辰野金吾

大分市の中心部に建つ「大分銀行赤レンガ館」は、東京駅丸の内駅舎を手がけた明治建築界の巨匠・辰野金吾らの設計により、1913年に旧二十三銀行本店として建てられました。赤い煉瓦に白い花崗岩の帯をめぐらせた意匠は、まさに「辰野式」と呼ばれる様式の典型。堂々たる正面のドームや細部の装飾には、銀行建築に求められた信用と風格が結晶しています。100年以上の時を超えて現役の銀行施設として使われ続けており、内部にはカフェや地域の交流スペースも設けられています。東京駅とおそろいの風格ある建築が、大分の街角で日常に溶け込んでいる風景そのものが、この街の豊かさを物語っています。

住所:大分県大分市府内町2-2-1

街に開かれた“縁側”のような美術館「大分県立美術館(OPAM)」──坂茂

大分県立美術館(OPAM)
参考:コンセプトは縁側?プリツカー賞受賞の建築家・坂茂による「大分県立美術館(OPAM)」。

2015年、大分市の目抜き通りに開館した「大分県立美術館(OPAM)」は、プリツカー賞建築家・坂茂の設計です。最大の特徴は、1階の巨大なガラスファサード。水平に折りたたんで全開できる仕掛けになっており、開け放てば美術館のアトリウムと街路がひとつながりの空間になります。目指したのは、誰もが気軽に立ち寄れる「縁側」のような美術館。吹き抜けのアトリウムは展覧会を観ない人にも開放され、街ゆく人が思い思いに過ごす広場のような風景が日常になっています。外装を覆う木のジオメトリーは、大分の伝統工芸である竹細工を思わせます。磯崎新のアトリエで修業した坂茂が、師の故郷に建てた美術館。その事実だけで、大分の建築物語は一段と味わい深くなります。

参考:コンセプトは縁側?プリツカー賞受賞の建築家・坂茂による「大分県立美術館(OPAM)」。

住所:大分県大分市寿町2-1
公式サイト:https://www.opam.jp

まばたきする巨大な瞳「レゾナックドーム大分」──黒川紀章

レゾナックドーム大分
Via : Wikipedia.

大分スポーツ公園の丘に横たわる銀色のドームは、建築家・黒川紀章が手がけ、2001年に完成した多機能スタジアムです。愛称は「ビッグアイ」。その名のとおり、球体を斜めに切り取ったようなフォルムの頂部には開閉式の屋根が備わり、開くさまはまるで巨大な瞳がまばたきをするよう。2002年のFIFAワールドカップでは世界の熱戦の舞台にもなりました。丘陵の地形に半ば埋め込まれたドームが芝の緑と一体になる姿には、自然との共生を追求した黒川建築の思想が息づいています。

住所:大分県大分市横尾1351
公式サイト:https://www.resonacdome.jp

“タワー博士”が温泉の街に建てた「別府タワー」──内藤多仲

別府タワー
Via : Wikipedia.

湯けむりの街・別府のシンボル「別府タワー」は、1957年、通天閣や東京タワーを手がけた構造の巨匠・内藤多仲の設計で誕生しました。名古屋テレビ塔、通天閣に続いて建てられた、いわゆる「タワー六兄弟」の三男にあたる存在で、国の登録有形文化財にも登録されています。展望台に上れば、別府湾と市街に立ちのぼる湯けむり、そして鶴見岳の稜線が一望のもと。昭和のレトロな風情と港町の絶景が同時に味わえる、別府散策に欠かせないランドマークです。

住所:大分県別府市北浜3-10-2
公式サイト:https://bepputower.co.jp

別府湾を見晴らす磯崎建築の塔「ビーコンプラザ グローバルタワー」──磯崎新

ビーコンプラザ
Via : Wikipedia.

別府の街に細く鋭くそびえる「グローバルタワー」は、磯崎新が1995年に手がけたコンベンションセンター「ビーコンプラザ」のシンボルタワーです。高さ125mの塔の地上100m地点に設けられた展望デッキは、壁のない吹きさらしの開放的なつくりで、別府湾から由布岳まで360度のパノラマが広がります。弓なりにしなる塔のシルエットは、まるで天に向かって伸びる帆のよう。会議場の大屋根と塔が織りなす幾何学的な構成に、世界を舞台にした磯崎の円熟期の手腕を見ることができます。

住所:大分県別府市山の手町12-1
公式サイト:https://www.b-conplaza.jp

礼拝堂のような黒い駅舎「由布院駅」──磯崎新

由布院温泉の玄関口「由布院駅」もまた、磯崎新の作品です。1990年に竣工した黒い木造の駅舎は、中に入ると高さ12mの吹き抜けが広がり、アーチが交差する天井の下、まるで礼拝堂のような静謐な空気に包まれます。この駅には改札がなく、ホールからそのままホームへと抜けられるつくりも特徴で、待合室は地元ゆかりの作品を展示するアートホールとして使われています。黒く引き締まった外観が由布岳の裾野の風景を引き立て、駅そのものが温泉街の景観の一部になっているのも見どころです。ホームには足湯もあり、列車を待つ時間さえ温泉地の楽しみに変わります。旅の始まりと終わりを、建築が静かに祝福してくれる駅です。

住所:大分県由布市湯布院町川北8-2

森のような木の柱が旅人を迎える「由布市ツーリストインフォメーションセンター」──坂茂

由布市ツーリストインフォメーションセンター
参考:坂茂による由布院駅前に現れた“木の大屋根”の建築「由布市ツーリストインフォメーションセンター(YUFUiNFO)」

由布院駅を出てすぐ隣、ガラス張りの軽やかな建物が「由布市ツーリストインフォメーションセンター(YUFUiNFO)」です。設計は、OPAMに続いて再び坂茂。Y字形の木の柱が上部でアーチ状につながりながら林立する内部空間は、まるで明るい森の中を歩いているかのようです。2階には旅にまつわる約1,500冊の本を自由に読める「旅の図書館」があり、ガラス越しに由布岳と、師・磯崎新が設計した黒い駅舎を望むことができます。師弟の建築が隣り合い、響き合う。建築ファンにはたまらない、由布院ならではの風景です。

参考:坂茂による由布院駅前に現れた“木の大屋根”の建築「由布市ツーリストインフォメーションセンター(YUFUiNFO)」

住所:大分県由布市湯布院町川北8-5

焼杉の“ムラ”に名画が息づく「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」──隈研吾

由布院の温泉街に、焼杉の黒い外壁が連なる一角があります。建築家・隈研吾が設計し、2017年に開館した「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」です。コンセプトは、由布院の街並みに溶け込む「ムラ」。切妻屋根の棟が寄り添うように並び、静かな水盤が由布岳と空を映し込みます。館内には村上隆や奈良美智など現代アートを代表する作家の作品が展示され、黒く抑制された空間がアートの色彩を際立たせます。散策の喧騒から一歩入るだけで、深い静けさに包まれる。由布院の新しい魅力を代表するアートスポットです。

参考:2022年7月1日に湯布院の現代美術館「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」に隈研吾による新館がオープン!

住所:大分県由布市湯布院町川上2995-1
公式サイト:https://camy.oita.jp

屋根から松が生えた世界一楽しい温泉「ラムネ温泉館」──藤森照信

ラムネ温泉館
Via : Wikipedia.

竹田市の長湯温泉に、おとぎ話から抜け出してきたような建物があります。建築史家にして建築家・藤森照信が2005年に手がけた「ラムネ温泉館」です。焼杉と白い漆喰が縦縞に交互に並ぶ外壁、そして屋根のてっぺんには本物の松の木。手仕事の跡が残る素材の表情は、近づいて眺めるほどに味わいが増していきます。ユーモラスな外観の中に待っているのは、世界屈指の炭酸濃度を誇る名湯です。ぬるめの露天に浸かれば、全身が銀色の泡に包まれ、しゅわしゅわとラムネのよう。建築の楽しさと温泉の悦びが一度に味わえる、おんせん県大分の締めくくりにふさわしい傑作です。

住所:大分県竹田市直入町長湯7676-2
公式サイト:https://lamune-onsen.co.jp

温泉巡りと建築巡りで名建築に出会う

磯崎新という世界的な才能を生み、その弟子・坂茂の傑作を迎え入れ、明治から現代までの名建築を湯けむりの中に抱く大分県。温泉巡りの合間に建築を訪ねれば、旅の記憶はもっと立体的になるはずです。名湯に浸かり、名建築を見上げ、師から弟子へと受け継がれる建築の物語を、ぜひ現地で体感してみてください。