建築家の設計力が光る距離感をデザインした店舗併用住宅「おもてなしと安らぎの暮らし」
住宅と店舗を併設する建築において重要なのは、機能の分離だけではなく、関係性のデザインです。大分県津久見市に建つ建築家の設計したエステ店舗併用住宅は、「おもてなし」と「安らぎ」を両立する空間構成に着目します。敷地条件や家族関係を丁寧に読み解きながら、暮らしと仕事の距離感を建築的に実現した住まいのあり方を紐解きます。
敷地条件を読み解いた配置計画

この住宅は、大分県津久見市の閑静な住宅街に位置する約190坪の敷地に建てられています。敷地の西側にはご実家が隣接し、さらに敷地の半分近くがガケラインにかかるという特徴的な条件を持っています。こうした制約の多い環境に対し、本住宅ではそれをネガティブに捉えるのではなく、むしろ関係性をデザインする要素として積極的に取り込んでいます。

住宅と店舗は、南面道路に対して明確に分けて配置されており、来客動線と家族の生活動線が交差しないよう計画されています。一方で、ご実家との関係については完全に遮断するのではなく、適度な距離感を保ちながらつながりを持てるように構成されています。さらに、ガケ地部分には共同で利用できるドッグランスペースが設けられ、家族間のゆるやかな関係性を支える場として機能しています。
ファサードに表れる「分ける」デザイン

外観は、水平ラインを強調したシンプルな平屋構成でまとめられています。グレーとホワイトのコントラストによる落ち着いた色構成の中に、深く張り出した軒や袖壁が印象的な陰影を生み出しています。この外部の構成が、店舗と住宅の関係性を象徴的に表現しています。

特に、道路側に面した店舗部分は「顔」としての役割を担いながらも、過度に主張することなく周囲の環境に馴染むよう設計されています。延びる袖壁や軒は、来客をやわらかく迎え入れる半屋外空間をつくると同時に、住宅部分との緩衝帯としても機能しています。これにより、パブリックとプライベートを明確に分けながらも、建物全体としての統一感が保たれています。
店舗と住宅、それぞれの居心地をつくる内部構成

内部空間においても、用途に応じた明確な性格付けがなされています。エステ店舗は落ち着いたトーンでまとめられ、来客がリラックスできる静かな空間として設計されています。

一方、住宅部分は木の質感を活かした温かみのある空間が広がり、家族が安心して過ごせる居場所となっています。

重要なのは、単に空間を分けているのではなく、それぞれに最適な環境を与えている点です。店舗は「迎えるための空間」、住宅は「くつろぐための空間」として役割が明確化されており、それぞれの体験が損なわれることはありません。それでいて、外観や構成においては一体性が保たれているため、建築としての完成度も高く保たれています。
バランスを丁寧に設計した店舗併用住宅
この住宅は、店舗併用住宅における「分けること」と「つなぐこと」のバランスを丁寧に設計した事例です。敷地条件や家族関係を読み解きながら、パブリックとプライベートの距離感を建築的に整理することで、「おもてなし」と「安らぎ」を同時に成立させています。単なる機能の共存ではなく、人と人との関係性を空間として表現した住まいと言えるでしょう。
後編:2つの庭とピットリビングがつくる、建築家が提案する光と居場所のデザイン「おもてなしと安らぎの暮らし」(4月23日 公開予定)