スリットから差し込む十字の光。ストイックな宗教建築に世界が絶賛!光を称える安藤忠雄の名作「光の教会」

光の教会は、18×6×6mのコンクリートの直方体を基本とする建築だ。徹底的に削ぎ落とされた緊張感に満ちた空間に、コンクリート壁に開けられた十字のスリットから、荘厳な光が差し込む。十字架を物ではなく光で表すという発明は、教会建築の概念を変えた。

「屋根をつける予算が無いから、青空教会にしよう」。零細予算を乗り越えた男たち。

Via : Wikipedia.

後に安藤忠雄の代表作となるその建築は、一般的な住宅と大差ないコストで実現された。バブル期で小さな仕事など見向きもされない中、「新しい建築への挑戦なら」と施工を引き受けたのが、竜巳建設の一柳幸男社長だった。

オーバーする予算を前にして、当初安藤は「屋根のない青空礼拝堂にして、資金をためてから屋根を付けたらどうか」と提案。当然依頼主である信者は納得しない。信者の想いに答えようと一柳社長が一肌ぬいでくれたお陰で、完成した光の教会にはなんとか屋根がついた。完成して3ヶ月後、一柳社長は52歳という若さでこの世を去った。

十字のスリットを巡る攻防。そのこだわりが、批判と評価を生みだした。

厳しい予算の下、安藤は光の十字架の演出にこだわり抜いた。

壁に切られた十字架の上半分、計10トンに及ぶ壁は、天井から吊り下げなくてはならない。工事費を下げるため建設会社は、壁の一部に柱の役割をもたせて鉄筋量を減らすべく、光の十字架の腕を短くする提案をしたという。しかし安藤は譲らず、コストダウンは他の部分で行った。この建築の核は光の十字架にあり、十字架は壁の両端部まで切れ込んでいるべきだと考えたからだ。

壁にはANDO建築に共通する美しいコンクリート、床および家具にはコンクリートの質感に合わせ、作業現場に使われる足場板が使われた。

安藤が唯一折れたのが、正面の十字架にガラスを入れることだった。ガラスがなければ、光が直接、より力強く入り、さらに緊張感のある教会になると安藤は考えていた。だが雨が入るし、冬は寒い。凍死すらしかねないと教会から激しい、しかしもっともな抵抗に遭い、やむなく納得した。

個展で“建てられた”実寸大の「光の教会」。安藤の夢が叶った瞬間。

東京・六本木の国立新美術館で開催した「安藤忠雄展-挑戦-」では、コンクリートで原寸大の「光の教会」が再現されている。模型や写真では伝わりきらない建築家の想いは実際に体験しなければ届かないと考えた。しかし、展示品といえども、素材はコンクリート。美術館の増築という扱いになるため、東京都へ許可申請をして、なんとか個展に間に合わせたという。

念願かなってここでは十字の開口部にガラスは入れていない。光と風を感じる空間が実現した。厳しくも美しい、人間の精神に訴える建築である。

厳しい条件の中、信念を貫き、人を魅了し続ける名作を作り上げた安藤。その曲げない姿勢が、ANDO建築特有のコンクリートの凛とした姿と重なる。東京で、1/1サイズの光の教会を拝めるのは本当に貴重な経験だった。

 

茨木春日丘教会(通称 光の教会)

見学受付時間: 13:30~16:00(要予約、見学可能日のみ)
日曜礼拝:日曜日の10:30から約1時間(要予約)
URL : http://ibaraki-kasugaoka-church.jp/j-top.html
住所:大阪府茨木市北春日丘4丁目3 – 50