地域の人も利用する新しい銭湯。構造設計者自らの住まいでもある「神水公衆浴場」

熊本市の「神水公衆浴場」は、日本空間デザイン賞2021において、大賞である「KUKAN OF THE YEAR(日本経済新聞社賞)」を含む「金賞(住空間部門)」「サステナブル空間賞」を受賞しました。

神水公衆浴場は、1階は銭湯、そして2階はオーナーご家族の自宅となっています。地域の拠点となる銭湯のある住まいとして、住宅の新しいプロトタイプで注目を集めています。

銭湯でもあり、構造設計者自らが住まい「神水公衆浴場」

神水公衆浴場のオーナーは、黒岩構造設計事ム所代表の黒岩裕樹さんです。

この神水公衆浴場は、2020年8月に熊本市ではおよそ20年ぶりに新しい銭湯として誕生しました。銭湯が誕生するきっかけとなったのは、2016年の熊本地震。オーナーである黒岩さんご家族自身も2~3ヶ月の断水を経験したそう。そこで、銭湯が地域の防災拠点であったことを再発見し、銭湯を作ることを決めたようです。

神水公衆浴場は、建物の1階部分が地域の人も利用する銭湯で、2階が黒岩さんご家族の住居となっています。

「重ね透かし梁」を導入

住居の玄関は、1階の店舗入口と共用です。番台向いには、銭湯を利用したお客さんがほっと一息つける土間ホールがあり、飲み物を販売しています。

黒岩さんが自宅兼銭湯を建てるにあたってこだわったのは、木の温もり。熊本地震級の揺れにも耐えられる、「重ね透かし梁」という耐震構造を導入しています。

屋根は、できるだけ釘やボルトを使わず、薄い板を何層にも重ねて曲げることで、強度を確保したアーチ型となっています。

カフェのようなおしゃれな雰囲気とデザインの美しさに、オープン前からSNS映えする建物として、地元の話題になったそうです。

そして、近年の豪雨対策による浸水対策として、室内のフロアレベルを300mm上げて作られています。

こちらは、脱衣所の様子です。木でまとめられた空間は、木の香りが溢れて心地よさを感じます。

地域の人も利用する浴場

こちらは、地域の人も利用する、濃い灰色の人造石研出しの壁や床に趣がある浴室です。

壁面のドローイングは、地元の八代出身のイラストレーター・yoneさんによって手掛けられ、神水のまちをイメージしているそうです。

上部には、こだわりの「重ね透かし梁」を応用し、細い部材を重ねることで構造を強くしています。

さらに、ゆるいカーブを描くカマボコ型の屋根は、CLT(Cross Laminated Timber=直交集成板)と呼ばれる木の板を重ねたパネルでつくったものです。簡単には、曲がらないパネル同士を、銭湯の桶のようにかみ合わせてアールをつけています。

仕切り壁には、三角のヒノキ材を使用され、温かみを感じる設計となっています。

お水は、阿蘇山から流れる地下100mの地下水を組み上げたものを沸かして利用しています。

銭湯と住居スペースを結ぶ、らせん階段

こちらは、銭湯と住居スペースを結ぶ、らせん階段です。

一部をガラス壁にして、エントランスから入る光を取り込み、神水の町の気配を感じられる設計になっています。

2階はワンルームのドーム型住居

2階の住居は、間仕切り壁のないオープンなドーム状の空間です。

キッチンを中心にリビングダイニング・ワークスペース・寝室へと行き止まりなく行き来できる回遊動線になっています。

フロア全体をコの字でなぞるようにカウンターが備えられており、好きな場所でパソコン作業をしたり、本を読んだり、フレキシブルに活用できます。

建物の構造は、構造設計を生業とする黒岩さんが自ら担当しました。

構造材に九州の木材を使いつつ、木材の耐性・剛性を高める構法である、重ね透かし梁を採用することで、大空間ながらも震度7の揺れにも耐えられるように設計されています。

無柱のワンルームの大きな窓からは、緑や、神水の街並みを見渡すことができます。

住宅の機能と地域をシェアする、神水公衆浴場。日本空間デザイン賞では、「自身の自宅を公共のために役立たせると言う発想が見習うべきものがある」という点が高く評価されたそうです。熊本大地震で被害を受けた黒岩さんご家族だからこそ作ることのできた神水公衆浴場は、今日も家族と地域の日常が重なり合う場所となっています。

神水公衆浴場

営業時間:16時〜20時
定休日:火・木・金曜
料金:大人(中学生以上)350円、小学生100円、6歳以下無料
問い合わせ先 :050-1258-1556
所在地:熊本市中央区神水2-2-18