建築家・谷尻誠の自邸「HOUSE T」から読み解く、施主として直面した課題や解決策とは。

新しい生活様式が広がる昨今。インテリアから住宅、商業空間、会場構成、複合施設、ランドスケープ、プロダクト、アートのインスタレーションなど多種多様なプロジェクトを国内外で手がけ、柔軟な思考を通して、様々な空間をつくり出している建築家・谷尻誠。谷尻氏が自ら設計し、2020年に完成した自邸には、既成概念に囚われない発想や、自身の考える“豊かさ”が詰まっていました。

建築家として多くの住宅を設計してきた谷尻氏が、施主として直面した敷地探しや資金計画といったこれまで辿った経験には、現代に暮らす多くの人にとって共通する課題、そして解決策が見えそうです。

施主として痛感した、”東京”に家を建てることの大きな障壁

写真:矢野紀行

広島と東京を行き来する生活の中で、数年前広島ではマンションを購入し、東京では賃貸での生活にも慣れた頃、子供の成長を考えると東京で家を建てるという選択肢が自然と出てきたといいます。

当初、地価の高い東京で家を建てるとなると、小さな敷地に狭小住宅を建てるという道が自然な成り行きだった。建築家として多くの住居を設計してきた谷尻氏が、仕事も環境も見えづらい中で東京で土地を購入し、家を建て、ローンを払い続ける重責、不安を改めてリアルに感じることとなります。

 “終の住処”では無い、変化に対応できる自邸づくり

そんな中で気づいたのは、これからは変化に強い家を作るべきだと言うこと。仕事やお金が無くなった時には家を貸したり売ったりし、自分たちは別のところに移り住む。そうした終の住処ではなく、資産として手放すことも見据えた住宅が浮かび上がってきました。

自宅の一部をテナントに。家賃収入を見込んだ全体プラン

写真:矢野紀行

建築家として、施主として、さらに事業主として家を作る。そこで賃貸と併用の事業モデルとして全体の計画を立てることとなりました。家の一部をテナントにし、家賃収入をローンの返済へ。また、賃貸を前提とするからこそ敷地、環境、設計において借り手や売り手がつきやすいものにしておくことが求められます。結果、主要駅から徒歩圏内で、地階は道路からフラットにアクセスできる場所が導かれました。

写真:矢野紀行

建物はテナント部分と居住部分を緩やかに分けるため、175㎡の敷地に3層を積み上げるプランに。地層をテナント、1階を自宅、2階を料理家である奥さんのアトリエとして借りてもらうことで収入月額が月返済額を上回る仕組みになりました。

シンプルだからこそ変化に強いフレキシブルな基本構造

写真:矢野紀行

コンクリートの箱を3層積み上げた形が建物の基本構造。地階にあたる第2層は100㎡のテナントで、一部は施主も利用する駐車場となっています。第2〜2.5層は100㎡の自宅。第3層は50㎡のテナントと50㎡のテラス。屋上には菜園が広がります。

具体的な計画として、掘り込み車庫のある段差の敷地に道路から直接入ることの出来る地下一階、階高を確保することで閉じながらも開放感をつくる二階、最大限持ち上げられた視界の抜ける三階のボリュームを立ち上げ、光の安定する北面採光を基本とした計画に。自宅部分は構造上の仕切りが少ない、天井高5mのコンクリートの箱。現状は個室やロフトを設けているものの、全て取り払い広々としたワンルームとすることも可能。

家族構成や生活様式の変化に合わせてリノベーションしやすい作りとすることで賃貸物件としたときの扱いやすさが考慮されています。

建築家・谷尻誠が気づいた施主としての家づくりの課題、解決策

数多くの住宅設計を手掛けてきた建築家・谷尻誠が、東京で自身の家を建てる中で気づいた課題や、それらを乗り越えるための解決策。これまで手掛けた様々なプロジェクトから得られた学びや、柔軟な発想から導かれた自邸はこれからの時代の家づくりに欠かせない要素が詰まった住まいです。