阿蘇山嶺の美しい里山に溶け込む、まちの風土を五感で味わえる喫茶室「喫茶 竹の熊」

九州有数の温泉地、熊本県・南小国町。阿蘇山周辺は数多くの水源があることで知られ、美しい水源から湧き出た清らかな水が、まちの人々の暮らしの間を流れています。そんな自然に恵まれた南小国町は、小国杉の産地として知られており、江戸時代から250年以上にわたって林業が受け継がれています。しかし、その担い手は年々減少し、現在、南小国町の林業はさまざまな課題に直面しています。2023年5月に開業した「喫茶 竹の熊」は、小国杉の新しい可能性を提示する建築。風光明媚な周囲の環境を取り込んだ水盤に浮かぶ美しい和風建築には、南小国町の歴史が詰まっていました。

豊かな水資源を生かした伝統的日本建築

敷地は里山に囲まれた、田園が広がる自然豊かな場所。

建築を手掛けた下川徹は、田へ水を引くための細い水路が敷地四方に在り、水路の上流に設けられた堰によって豊富な水量を運ぶことができる敷地環境を知り、水を中心とした建築を計画。

この地と密接な繋がりを持つ小国杉を余すことなく多様な形で表現したいと考えた下川は、地元民と観光客が混在する建築空間になることを想い描き、地元民には憩いの場として、観光客には南小国町の魅力を多角的に提供する場として、“外の建築”を主軸にしたプランが導かれました。

そこから、水路を建築近くに引き、水庭を経由した水が隣接する田畑へ流れるように動線を確保。高床の板の間、回廊、喫茶室が水庭を取り囲むという空間構成になりました。

建物には杮葺きの屋根、磨き丸太の棟木、杉皮葺きの天井や藩屏など、伝統的な工法や建築様式を現代の視点で見つめ直し、小国杉を余すことなく使っています。

林業を生業とするクライアントは敷地の向かいに製材所を営んでおり、磨き丸太の棟木をはじめすべての木材は周辺の山から切り出し、加工されました。石材や土など、あらゆる材を近隣でまかなっています。

刻々と移り変わる水面の煌めきが美しい喫茶室

室内に設けられた喫茶室では、水に潜り込んだかのように、開放的な板の間では水上に浮かんだかのように、さまざまな感覚で水庭を楽しむことができます。

水面に反射する光に照らされ、刻々と表情を変えていく店内の景色もこの建築の見どころです。

喫茶室では、目の前に広がる田んぼで採れたお米と地域の食材をふんだんに使ったおこわや、季節の果物を使った甘味も提供しています。

また、長い時間をかけて湧き出たおいしい水を使い、コーヒー豆や茶葉などの素材にこだわった飲み物も用意。

他にも2種類のクラフトビールや四季でレシピを変えたビネガーサイダーなど、ここでしか味わえないオリジナルの飲み物を提供しています。

美しい日本の原風景の中で、まちの歴史を語り継ぐ

南小国町を長年支えてきた小国杉をふんだんに生かして設計された喫茶「竹の熊」。陽の光によって刻々と移り変わる水面の煌めきが、伝統的日本建築を幻想的に照らします。隅々に南小国らしさが現れたこの建築は、美しい里山の風景と調和し、これからも訪れた人々に南小国町の風土を伝えていくでしょう。

喫茶 竹の熊

所在地 : 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場2041 
営業時間:11時~16時(15時30分L.O.)
定休日:木、金
TEL:0967-42-1010
公式サイト : https://takenokuma.jp