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光と影を生かした表情豊かなアルヴァ・アアルトによる傑作建築「セイナッツァロの村役場」

アアルトの建築のなかでも傑作との声も多い「セレナッツァロの役場」。市内からバスで約30程度のところにあるコンパクトな役場です。市民の広場となる中庭を中心に、建物のメインである議場を塔のように高いところに配置。さらに中庭を中心に会議室、レストラン、図書館、宿泊室が連なり、中庭を囲い込むように計画されています。今回はこちらの「セレナッツァロの役場」をご紹介します。

緻密なデザインが行き届いた建築「セイナッツァロの村役場」

ユヴァスキュラからほど近くのセレナッツァロの役場は、1952年完成しました。外壁の煉瓦と木製のサッシの開口部のレイアウトとプロポーションが美しく印象的です。

役場、議場、小さな図書館、住宅、店舗といった複数の機能がまとめられているものの、決して大きな建築ではありません。だからこそ非常に緻密にデザインがされており、全体の調和がうまく取られています。それぞれの機能はコの字型と長方形の二つの棟に納められ、中庭を囲む形で四角形に配置されています。

約4mの盛り土による高さのある中庭

建築の中心に位置する中庭は約4mの盛り土の上に設けられています。アアルトはこの場所にイタリアの山岳都市と同じような、変化に富んだ魅力ある空間を作りたかったと言われています。

この中庭には2つの階段が建物のスリット部分に設けられ、一つはコンクリート、もう一方は木と土の階段となっています。

まずは、木の階段から中庭へと進みます。二階レベルに設けられていて、コミュニティの中心として役場、議場、図書館に囲まれています。

建築の角に設られた議場は、さらに一層分高い位置にあり、ボリューム的にも大きく、場のランドマークの役割も担っています。開放的なコミュニティの中心と静謐な議場はアアルトが考える役場という機能を的確に表現しているのでしょう。

右のルーバー庇が架かっているところが玄関アプローチ。役場といった公共空間だからといって大きな玄関が待ち受けるのではなく、住宅寄りのスケールのさりげない玄関です。

中庭に面して回廊状に作られた役場の廊下は陽光と中庭の緑を取り込んで開放的な空間に。夏になると蔦がからみ、緑と一体化。内部からは緑の開口部を介して中庭を見ることになります。

まるで住宅のようなヒューマンスケールが意識されたエントランス

こちらがセレナッツァロの役場の玄関です。役場のものとは思えないような親しみを感じるデザイン。アアルトの考える役場と人々の関係がわかるような気がします。

光が差し込むエントランスホール

中に入ると広がる天井まで続くガラス開口部から、活き活きとした緑が目に飛び込んできます。

玄関ホールは床の仕上げですが、一部が煉瓦仕上げになっています。この煉瓦の仕上げは、上階に昇る階段へと導かれます。

中庭に面する開口部の下は、煉瓦のベンチになっています。そのベンチの下には暖房機が据えられ、冬の寒さやガラスからの冷気を防いでくれます。

煉瓦は蓄熱体として熱を保温するので、北欧の寒さのなかでも1年中自然を楽しむことができます。この光の廻廊に面して、いくつかの会議室が設けられています。

厳かながらも緊張感のないフォーマルな空間たち

中心に配された目を引く照明器具もアアルトのデザイン。大きな開口部からは、周辺の森を望むことができ、場の雰囲気を和らげています。

光と影のコントラストが活用された階段アプローチ

メインである議場は2階部分に。1階は町の住人が訪れる開かれた場であるので、中庭を囲んだ明るい空間でしたが、階段から上は役人が会議を行う重要な領域に。一変して議場へと続く階段は床、壁が煉瓦で囲まれているため暗く感じられ、そのコントラストによって自然と気が引き締まります。床の煉瓦がこの階段まで続いていきます。

左側の天井には細かい木のルーバー状の庇が付き、床の高さに合わせるように配されています。右手側に見える手すりの下の四角いパネルは暖房機です。

煉瓦で囲まれた広々とした天井を持つ議会場

高い天井のある煉瓦で囲まれた静かな佇まいの空間が目の前に現れます。

写真奥が傍聴席部分。

上部からハイサイドスリットからの光が入ります。綺麗なカーブを描いた、アアルトデザインの長椅子が配されています。

煉瓦の大きな壁で囲まれた議会場には採光の窓は2つ。一つは西日が入る議会正面席右の壁に開けられた窓で手前にここには木の壁があり、間接光となっています。そしてもう一つが大きな四角い開口部。ここは北なので直接光ではないうえ、木製ルーバーが入っているため、細かな光となっています。照明器具は抑えられ、窓から取り込む自然光を最大限活用できるよう、光の性質や受け取り方まで考慮し、計画された空間でした。

建築物のみならず、人の心の動きもデザインできるのが空間づくり

この建物のメインである議会場はもちろん、そこに至るまでの廊下、階段に至るまで人の心を動かすアアルトのきめ細かいデザインがなされていることがわかります。空間へのアプローチの重要性を身をもって体感できる建築です。

Säynätsalon kunnantalo – セイナッツァロの村役場

開館時間:12:00~17:00
休館日:火曜日
入館料:€8
URL : https://www.tavolobianco.com/ja/top/
住所:Parviaisentie 9, 40900 Säynätsalo, Finland

榎本綾

榎本綾

新しいものよりヴィンテージに惹かれます。

建築家は坂茂が好き。

casa

建売でも注文住宅でもないもうひとつの可能性 casa シリーズ。

機能、デザイン、コスト削減などを徹底して追求した、

完成度の高い住宅。