atelier umi/建築家・藤田時彦による、築100年の古民家を再生した住宅兼アトリエ「umi」

滋賀県・琵琶湖のほとりに建つ、築100年の古民家を再生した住宅兼アトリエ「umi」。本作を手がけたのは、風景との関係性や時間の継承をテーマに活動する設計事務所 atelier umi・代表の藤田時彦。

20年間空き家となっていた建物は、シロアリ被害や構造の傷みが進行していたため、解体し新築するという選択肢が現実的でした。しかし、建て替えを前提とするのではなく、その土地に在り続けてきた建物の時間を受け継ぐことに価値を見出しました。

使える柱や梁を丁寧に見極め、補強を重ねながら再構成することで、新築では表現できない素材の風合いや記憶を空間に残しました。

玄関の大きな引き戸が開く、琵琶湖の景色

Photo:Shotaro Kaide

「umi」では、道路側の開口を最小限に抑え、玄関の大きな引き戸を開けることで、目の前に琵琶湖の景色が広がるように計画されています。

この過程は「閉じること」や「開くこと」を意図的に操作することで生まれた印象的なシーンです。道路側からの視線を遮る要素を残しつつも、扉を開く瞬間に視界が一気に湖へと抜けることで、訪れる人に豊かな自然とのつながりを体感させています。

居住・アトリエ・イベントを融合するシェア空間

Photo:Shotaro Kaide

1階のフリースペースとキッチンは、生活や仕事、イベント利用などを柔軟に切り替えられるシェアスペースとしてデザインしています。

Photo:Shotaro Kaide

生活と職の境界を曖昧にすることで、さまざまな活動を受け止める場です。このような空間設計は、職住分離ではなく「職住一体」のあり方を体現するものです。

琵琶湖の風景と向き合う、アトリエ空間

Photo:Shotaro Kaide

「umi」のアトリエは、設計のための作業空間でありながら、琵琶湖の風景と静かに向き合う場所として計画されています。室内の奥に設けられた大きな開口からは湖の水平線が広がり、作業の合間にふと顔を上げると、水面と空の移ろいを感じることができます。

日々の設計活動と自然の風景が隣り合うことで、空間に穏やかな時間が流れます。

Photo:Shotaro Kaide

壁面には本棚と長いデスクが一体的に設けられ、建築資料や模型が並ぶことで、設計アトリエとしての機能がコンパクトにまとめられています。

琵琶湖の風景を背景にしながら、新しい建築のアイデアが生まれていく空間です。

暮らしと活動を支える、土間続きのキッチン

Photo:Shotaro Kaide

「umi」のキッチンは、単なる住宅設備としてではなく、人が集まり、対話が生まれる中心として計画されています。

土間空間とゆるやかにつながる配置にし、日常の食事づくりからイベント時の振る舞いまで、用途を横断して使える構成です。

大きな作業台は打ち合わせやワークショップ時にも活用され、料理の場であると同時にコミュニケーションの場としても機能するのが魅力です。住まいの一部でありながら、半公共的な役割も担う点に、この建築らしさが表れています。

空間を立体的につなぐ、軽やかな階段

Photo:Shotaro Kaide

1階のフリースペースと上階を結ぶ階段は、構造体に寄り添うように設けられています。既存の梁や柱との関係を整理しながら、圧迫感を抑えた軽やかな架構としてまとめられているのが特徴です。

また、視線が上下へと抜けることで、限られた床面積でありながらも空間に立体的な広がりが生まれています。階段は単なる移動のための設備ではなく、住まい・アトリエ・イベントスペースなど異なる用途をゆるやかにつなぐ存在です。

「umi」の多様な使われ方を支える、象徴的な要素のひとつといえるでしょう。

大きな窓から琵琶湖を眺められる、贅沢な寝室空間

Photo:Shotaro Kaide

2階のベッドルームは、大きな横連装の窓があるため、ベッドに横たわるとそのまま水平線を眺められる贅沢な体験が魅力的です。

空間の装飾を抑えたシンプルな設えだからこそ、外の風景と室内の素材感が引き立ち、静かで心地よい時間を過ごせる寝室空間になっています。

暮らしと仕事が重なる建築「umi」

「umi」は、住まいであると同時に設計活動の拠点であり、地域にひらかれたイベントスペースでもあります。

暮らしと仕事、そして人の集まりが重なり合うこの場所は、古民家の記憶を抱きながら、これからの時間を静かに紡いでいきます。

築100年の建物は、役割を変えながらもこの地に在り続け、これからも時間を重ねていくことでしょう。