建築家が手がけた「森と共鳴する家」木々の合間に佇む、長野・原村の別荘とのびやかなLDK
長い年月をかけて育った木々が、ゆったりと呼吸をしている。八ヶ岳の裾野に広がる長野県諏訪郡原村の雑木林、その一角に、まわりの樹々とそっと呼応するように佇む別荘があります。都会の日常からは遠く離れ、風の音や木漏れ日の移ろいに耳を澄ませながら過ごす。そんな特別な時間のためにこの住まいは構想されました。訪れる人を最初に迎えるのは、建物そのものよりも先に、幾重にも重なる木立の気配です。
樹々の合間に据えられた、三角屋根の佇まい

敷地はおよそ759㎡。計画にあたって何よりも大切にされたのは、そこに根を張る既存の樹木でした。10mを超える大きな木々を極力伐採することなく、その合間を縫うようにして建物の位置が定められています。結果として住まいは林の中に据えられた一つの家具のように、風景へ静かに溶け込んでいきます。

道路からゆるやかにセットバックした前庭には、木々の隙間を生かして車を停めるゆとりが確保され、林の奥へと歩みを進めるほどに、住まいは少しずつその姿をあらわしていきます。整地して均された敷地ではなく、もともとの地形と木立を受け入れた計画だからこそ生まれる、この土地ならではの迎え方です。

外観を特徴づけるのは、小屋裏を居室として生かした三角屋根のボリュームです。すっきりとしたガルバリウム鋼板の横葺き屋根が空へと稜線を描き、白い塗り壁と縦に張られた木板とが、時とともに味わいを深める表情をつくります。素材はいずれも主張しすぎることなく、まわりの幹や葉の色に自然となじんでいくよう選び抜かれています。夕暮れには室内の灯りが木立へとにじみ、森の中にぽつりと灯る温かなあかりとなって、闇の中へ静かに浮かび上がります。

季節がめぐるたび、住まいはまるで表情を変えていきます。芽吹きに包まれる春、濃い緑陰に沈む夏、錦に染まる秋、そして枝々が透けて空が広がる冬。周囲の景色が移ろうほどに、白い壁と木のコントラストは新たな美しさを見せ、林の一部として静かに時を重ねていきます。整った街並みの中では得られない、自然のリズムに寄り添う佇まいがここにはあります。
勾配天井がのびやかに包む、吹き抜けのLDK

一歩室内へ足を踏み入れると、屋根の勾配をそのまま生かした吹き抜けが頭上に大きく広がります。屋根なりに張られた無垢材が天井を覆い、頂部に穿たれた三角形の窓からは、梢と空とがそのまま切り取られて舞い込みます。足元の床にも壁の一部にも、同じ木の温もりがめぐり、白い塗り壁とのコントラストが空間を明るく引き締めています。

LDKの床は数段のレベル差でゆるやかに分節され、ひとつながりでありながら、それぞれの居場所がやわらかく描き分けられています。一段高くしつらえられた木張りの一角には、大きな一枚窓に沿ってベンチが設けられ、腰かければ雑木林がまるで一幅の絵のように広がります。時間とともに窓辺の光は表情を変え、朝は澄んだ青、昼は木洩れ日のきらめき、夕には茜色へと、同じ場所にいながら移ろう風景を楽しむことができます。

天井高のある開放感と、身をおさめる小さな居心地とが、同じ空間の中で共存しているのも、この住まいの魅力です。段差に腰をおろせば、そこがそのまま人の集う場所になり、床に座り込めば視線はぐっと低くなって、森との距離がいっそう近づきます。中央に立つ一本の木の柱は空間にほどよいリズムを与え、大らかなワンルームを、緩やかに性格の異なるいくつかの場へと結び直しているのです。
森を望むキッチン、人が集うダイニング

空間の中心に据えられたのは、大理石の天板を持つアイランドカウンターです。調理のための作業台としても、グラスを傾けるバーカウンターとしても振る舞う、この住まいの舞台装置のような存在です。カウンター越しに設けられた横長の窓が雑木林を額縁のように切り取り、水仕事の手元にはいつも木々の緑や冬枯れの梢が寄り添います。壁面を覆うタイルの繊細な陰影、天井から吊るされた球形のペンダントの灯りが、実用の場に静かな品格を添えています。

その手前には、大人数でも囲めるゆとりあるダイニングが広がります。友人や家族が長いテーブルに集い、料理と語らいの時間を分かち合う。眺めのよいキッチンと大きなダイニングが一体となったこの場所は、賑わいをやさしく受け止める、住まいの心臓部といえるでしょう。木々に見守られながら食卓を囲むひとときは、この別荘でしか味わえない豊かさに満ちています。
森とともにある、集いの場
樹々の合間に据えられた三角屋根の下に広がるのは、光と木の温もりに満ちたひとつながりの居場所でした。既存の木立を生かした佇まいから、勾配天井の吹き抜け、そして人が自然と集まってくるキッチンとダイニングまで。この住まいはまず、大切な人たちと過ごす豊かな時間を大らかに包み込みます。そしてその奥には、身体をほどくくつろぎのテラスや、静けさをたたえた個の空間もまた、丁寧に織り込まれています。にぎわいから静寂へと移ろう一軒の奥行きは、暮らしのさまざまな場面をやわらかく受け止めてくれるはずです。
後編:建築家が手がけた「森と共鳴する家」森に開くテラスと、静けさに満ちた個の空間(8月13日 公開予定)