旗竿地のアプローチが表情を変える、建築家が手がけたサウナのある住まい「ととのう家」

神奈川県茅ヶ崎市の住宅密集地。路地状のアプローチを進んだ先に、深いグリーンとベージュのツートーンが印象的な「ととのう家」が建っています。約131㎡(約39坪)の旗竿地というコンパクトな敷地条件のなかで、開放的な空間とサウナのある暮らしをどう実現するか。自宅で心と身体をリセットし、毎日の帰宅が待ち遠しくなるような住まいをめざして、建築家は敷地の読み解きから外観の素材選びまで、ひとつひとつの設計判断を丁寧に積み重ねました。全3回でたどるシリーズの前編は、この住まいの原点となる敷地条件と、佇まいをかたちづくる外観のデザインから始まります。

「ととのう」を暮らしの中心に据えるという発想

design casa・ととのう家

この住まいの根底にあるのは、サウナ、水浴び、休憩というルーティンがもたらす「ととのう」感覚を、日常に欠かせない習慣として住まいに組み込むという発想です。仕事や日々の暮らしで溜まった疲れを、誰にも邪魔されない自分だけの空間でリセットする。家という最も安心できる場所に癒しの装置を重ねることで、住まいそのものが心身の拠りどころになっていきます。単に設備としてサウナを置くのではなく、暮らし全体を「ととのう」ためにどう組み立てるか。その問いへの答えが、アプローチの一歩目から2階の窓辺まで、この住まいの隅々に息づいています。

一歩ごとに表情が変わる、旗竿地のアプローチ

design casa・ととのう家

計画地は、周囲を隣家に囲まれた旗竿地です。道路から敷地の奥まで、長さ16mを超える竿状の部分がアプローチとなり、家の姿は道路からは一部しか見えません。建築家はこの条件を制約ではなく演出の舞台と捉えました。金鏝で丁寧に仕上げられた土間のアプローチを一歩一歩進むたびに、視界に入る建物の表情が移り変わっていく。

design casa・ととのう家

素材感をコントロールして陰影を生み出すことで、玄関にたどり着くまでの時間そのものが、日常を切り替えるシークエンスとなっています。地面に据えられた小さな照明が夜のアプローチをやわらかく照らし、緑の植栽が足元に彩りを添える。仕事を終えて帰り着くまでのわずかな道のりが、心を静かにほどいていく助走の時間へと変わっていきます。

グリーンとベージュ、ふたつの素材が織りなす外観

design casa・ととのう家

外観は、縦のラインが美しいディープグリーンのガルバリウム鋼板と、ゆず肌のテクスチャーをもつベージュの塗り壁とのツートーンで構成されています。金属のシャープさと左官の温かみという対照的な素材が、箱型のシンプルなフォルムに奥行きのある表情を与えています。朝は塗り壁が陽光を受けてやわらかく発色し、夕暮れにはガルバリウムの縦のラインが濃い影を刻む。時刻や天候によって移り変わる二つの素材の表情が、この住まいの佇まいに豊かなニュアンスを重ねていきます。

design casa・ととのう家

窓は縦長のスリット窓を最小限に配置し、住宅密集地における視線とプライバシーに配慮しながら、閉じすぎない抜け感を保っています。サッシや玄関ドア、水切板金にいたるまでブラックで統一されたディテールが、ふたつの面材を静かに引き締め、つやのあるシルバーの屋根が空の色を映して周囲の街並みへ穏やかに溶け込んでいきます。

演出の舞台へと転換した「ととのう家」

旗竿地という敷地条件を演出の舞台へと転換したアプローチと、グリーンとベージュのツートーンが印象的な外観。「ととのう家」の佇まいには、毎日の帰宅を楽しみに変えるための工夫が幾重にも重ねられています。制約の多い都市部の敷地でも、設計の視点ひとつで暮らしの体験は大きく変わる。中編は、モルタル土間の玄関ホールから、この住まいの核心であるサウナとスパエリアへと続きます。