「日常は映画のようなワンシーンの連続」映画「大阪古着日和」の監督・谷山武士さん

雑誌の編集者を経て、映像作家となり、4月21日より公開の映画「大阪古着日和」の監督・谷山武士さん。

今回は、そんな谷山さんに暮らしのこと、大阪古着日和のことなど様々な角度からお話を伺いました。

暮らしの中で大切にしているデザイン

はじめに、谷山さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。

「余白ということが気になっています。ある本屋さんに取材に伺った時に本屋さんが、余白みたいなお話をしていただいて…。その時に腑に落ちて、確かに自分も余白みたいなものを意識して暮らしているなと思ったんです。例えば、皿を買う時は、大きめの皿を買う。なぜかというと、料理を載せた時に余白が欲しいからなんですよね。人にもよく『なんでそんな大きな皿を使うのか?』『前菜にこんな大きなお皿を使うのか?』など言われます(笑)」

好きな空間・場所

続いて、お好きな場所や空間について伺うと、

「大阪『服部緑地 都市緑化植物園』という公園の中に、建築家の瀧光夫さんが建てられた建物『花と緑の相談所』という建築物があります。ある時雑誌でふと見たときに、すごく素敵だなと思ってわざわざ見にいきました。そしたら、自然や周りの環境とすごく綺麗に馴染んでいて、建物の前には池のような水があるのですが、その水には建物に映り込んでいて…。秋ぐらいに行ったので枯れ葉も落ちていて、なんとも言えない風情があって、すごい素敵だなと思いました。」

「中は、温室の植物園になっています。室内に入ると空気がガラッと変わって、濃厚な植物に囲まれるような空間が作られています。」

谷山さんは、この建物があまりにも気に入ったので、ロケ地にも使ったそう。

東京古着日和の始まり

4月21日に公開となる映画「大阪古着日和」の監督、脚本、編集を手がけた谷山さん。そのきっかけとなった、雑誌penのYouTubeチャンネル「東京古着日和」の始まりはなんだったのでしょう?

「後にプロデューサーとなる当時の副編集長が、『古着で動画を作りたいんですよね』と言ったのが始まりです。僕も古着好きだったので、何の気なしに『やりましょう面白いですよね』と言いました。その後僕なりに調べたら、当時、既にYouTubeでは古着屋を巡って爆買いする動画が乱立していたんです。だから、それで動画を作ってもバズりそうにないと思ったので、違うアプローチで、ドラマ仕立てなどフィクションを織り交ぜたものをやったらどうかなと提案したら『いいですね面白いですね』となりました。」

「言った手前、企画書を作る羽目になり…(笑)しかし、実際にやってみたら、意外にもススっといきました。YouTubeでドラマになって、全部で7話なのですが、そのうちの1本はBSのフジテレビさんと一緒にやったり…。地上波でも放送され、スルスルスルと人気が出て自分も思わぬ方に転がっていきました。」

雑誌「pen」らしい世界観

「東京古着日和」は、penのYouTubeなので、penの素敵な世界観にする必要があったと思うが、どのような工夫をされたのでしょうか?

「雑誌を見るように動画を見るという作りを目指しました。見ていただいた人たちからは、『penらしいね』『雑誌を見ているように見れました』と言っていただけました。ただ古着屋さんに行き、物語があって…ではなく、比較的にうまく作れたのかなと思っています。」

主演は俳優の光石研さん

主演は北九州出身の俳優、光石研さん。キャスティングはどのように決めたのでしょうか?

「編集部の方で決めたのですが、penというブランドと似合う・合致する人がいいと探しました。そもそも光石さんはライフスタイル、日常がオシャレな方なので、そういう情報を集めて『お願いできませんか』とお願いしました。でもやっぱり半分は、ダメ元だったと思います(笑)雑誌が作るYouTubeのドラマ仕立ての番組に『出ていただけませんか?』というオファーはなかなかのドキドキでした(笑)」

光石さんや谷山さん自身が反映されたドラマ

脚本には、谷山さんご自身の興味やライフスタイルも反映されているのでしょうか?

「モロに反映していますね(笑)僕がやはり古着好きで、月に2~3回は日常的に古着屋さんを回ります。今の時代ってポチポチッとネットで買えるじゃないですか。だけど、お店を巡って買い物をする喜びみたいなものがあると僕は思っていて…。」

「たしか、東京古着日和が始まってすぐにコロナ渦になり出かけるなとかいう時代や空気だったんです。そこにあえて自分の足でウロウロして、店員さんとやりとりをし、試着をして『大きいな』『小さいな』とか、『全然似合わないな(笑)』とか、そういうのは店に行かないとできない楽しみ。そういうのを自分も感じているので表現したいなと思いました。」

「また、光石さんの当て書きで脚本を書いているので、光石さんが好まれるようなお店、選びそうな服を主軸にしています。そういう意味で言うと、僕や光石さんがどっぷり入ったドラマという言い方もできると思います。」

4月21日公開「大阪古着日和」について

4月21日公開「大阪古着日和」は、YouTubeの人気ドラマ「東京古着日和」シリーズを大阪に移してということですが、どんなところが変わりましたか?

「やっぱり映画ということで、尺がいつもの3倍ぐらいになります。舞台も大阪ということで、大阪は古着カルチャーが根差しているというか、特にアメ村は古着屋が何百件とあり、古着文化がしっかりあるところです。映画のフィクションなので、そういうところをどれだけ描けるのかというところを苦心しました。」

扱っている古着は、東京とテイストが違うのでしょうか?

「特に今回は、アメカジというものをテーマにしました。アメ村ということもあり、東京よりもやっぱり濃いんですよね。大阪ならではの空気のカルチャーを出そうかなと思いました。」

主演はお笑いコンビ「さらば青春の光」森田哲矢さん

主演は映画初出演、お笑いコンビさらば青春の光の森田哲矢さん。森田さんをキャスティングしたポイントを伺いました。

「元々、僕がさらばさんのコントが好きでYouTubeなどを見ていたんです。ある時から、森田さんは、古着が好きなのではないかと思いました。普段は私服で登場されていたけど、着ている洋服のセンスが良いというか、古着に愛着があるな、気持ちの良い距離感で古着が好きなのではないかなと思ったんです。」

「それで実は、一緒に何かできないかなと思って、東京古着日和の最終回の題名を、『さらば青春の古着屋巡り』というタイトルをつけたんです。すると、やっぱり今の時代SNS等で繋がっていき…さらばさんのYouTubeチャンネルのディレクターが気付かれて、繋がっていきましたね。」

また、大阪での撮影終わりに、谷山さんは森田さんと2人で古着屋さんに2件ほど行ったそう。撮影スタッフもまた古着好きが多く「カット!OK!」となったら、みんなでラックを漁って、撮影の合間に買っていたりしたそうです。

フィクションの配分について

ショートドラマと長尺の映画という違いもあると思うが、ドキュメントとフィクションの配分は何か変わったことはあるのでしょうか。

「映画になって物語の要素が強くなったので、配分で言うと、フィクションの部分が強くなりました。ただ、出演者の方が、森田さんは森田さん役で出ていますし、出てくるお店の方も、本当のお店の店主の人に出ていただいているので、虚実入り混じるのですけど…。でもやっぱり、映画なので物語の部分が強いかなと思いますね。」

俳優光石研さん×お笑い芸人森田哲矢さん

東京古着日和に続き、光石さんもキャスティングされていますが、森田さんとの相性はどうでしたか?

「さすがというか、映画の一つのハイライトだと思うのですが。元々森田さんは、光石さんの大ファンだったので、共演は大喜びでした。実際の演技の場だと、光石さんがアドリブでボケ倒して、森田さんがツッコミまくるという構図で、カメラを回しているのですが、その場にいた全員がやりとりに笑いを堪えるのが必死でした(笑)」

「古着ということを介して二人のおじさんが、大人になってこんなに仲良くできる友達ができたんだというのがちょっと映画の中で描かれています。おじさんがわちゃわちゃ楽しそうにしているので、見ているこっち側まで楽しいという感じですね(笑)」

大阪古着日和の見どころ

大阪古着日和の見どころをズバリお伺いしました。

「今回、実は歩くシーンがすごく多いんですよ。本当は男女の物語でもあるんだけど、恋愛の部分はそんなには描いていません。ただ二人でいろんなところを一緒に歩くんです。登場人物の人たちがとにかく歩く、散歩していたり二人でぶらぶら歩いているところでの関係性の微妙な動きだったり揺れというものを描いたので、歩く映画みたいなことで見てもらうと、いろんな発見があるんじゃないかと思います。古着好きの方じゃなくても楽しんでいただけるのではないかと思っています。」

4月21日より公開の「大阪古着日和」は、歩くシーンにぜひ注目です!

Life is like a movie!

インタビューの最後、谷山さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is like a  movie!」と答え、

「日常生活ってよく見てみると、映画のようなワンシーンの連続。小さなことを気にかけて眺めて見ていると、日常ってすごく美しいんだなと思えるし、日常の些細なことがすごく綺麗に見えてくる。そんな心持ちで過ごしていると気分が良くて心地が良いなと思うので、life is like a movieです!」と話し、インタビューを終えました。

人生を映画のようだと語る谷山さん。映画や映像など谷山さんが作り出すものによって、そんな谷山さんの美しい日常を、私たちも垣間見ることができるかもしれません。谷山さんの今後のご活躍に目が離せません…!