横浜・鎌倉・湘南で巡る、神奈川県の有名建築家による美しい建築作品10選
開港の記憶が息づく港町・横浜、古都の時間が流れる鎌倉、海と暮らしが寄り添う湘南、そして森と温泉の箱根。神奈川県は、これほど多彩な風土がひとつの県に同居している稀有な土地です。だからこそ、ここには建築家たちの多彩な挑戦が集まってきました。日本初の公立近代美術館から、世界的コンペを勝ち抜いた客船ターミナル、プリツカー賞建築家の美術館、そして現代アーティストが人生を懸けた壮大な庭まで。今回は、横浜・鎌倉・湘南を中心に、神奈川県で出会える有名建築家による美しい建築作品12選をご紹介します。
うねるウッドデッキが地形になった「横浜港大さん橋国際客船ターミナル」──FOA

横浜の建築巡りの出発点は、海の上から。1995年、世界中から約660案が寄せられた国際コンペを勝ち抜いたのは、ロンドンを拠点とする若き建築家ユニットFOA(アレハンドロ・ザエラ・ポロ+ファーシド・ムサヴィ)でした。2002年に完成したターミナルは、床が壁に、壁が屋根になめらかにつながる、建物というより人工の地形のような建築。「くじらのせなか」と呼ばれる屋上のウッドデッキは24時間開放され、みなとみらいの夜景を望む横浜随一の展望スポットとして愛されています。世界の建築界に衝撃を与えた名作が、市民の日常の散歩道になっているのです。
参考:横浜・みなとみらいを見渡す「大さん橋」は人工的な地形のような屋上公園が気持ちいい。
住所:神奈川県横浜市中区海岸通1-1-4
公式サイト:https://osanbashi.jp
“東洋一の響き”と讃えられた木のホール「神奈川県立音楽堂」──前川國男

桜木町の丘・紅葉ヶ丘に建つ「神奈川県立音楽堂」は、ル・コルビュジエに師事した建築家・前川國男の設計により、1954年に開館しました。戦後まもない時代に、県民のための本格的な音楽ホールを公共建築としてつくるという先進的な試みで、内装を木で包んだホールは「東洋一の響き」と讃えられました。ガラスのカーテンウォールから光が満ちるホワイエに立てば、戦後日本が文化に託した希望がいまも伝わってきます。竣工から70年を超えて現役であり続ける、日本のモダニズム建築の原点のひとつです。
住所:神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘9-2
公式サイト:https://www.kanagawa-ongakudo.com
みなとみらいの軸線に構える巨匠の美術館「横浜美術館」──丹下健三

みなとみらいの中心軸・グランモール公園に正面を向けて建つ「横浜美術館」は、建築家・丹下健三が1989年に手がけた大作です。左右対称に翼を広げる石張りのファサードと、光が降り注ぐ吹き抜けの「グランドギャラリー」が生む威風堂々たる構えは、生まれたばかりの新都心に文化の核を据えるという丹下の都市的な視座を感じさせます。大規模改修を経て2024年3月にリニューアルオープンし、誰もが立ち寄れる無料ゾーンが拡張されるなど、時代に合わせて開かれた美術館へと進化を続けています。
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
公式サイト:https://yokohama.art.museum
海と建築が一体になる「横須賀美術館」──山本理顕

東京湾を望む観音崎の海辺に建つ「横須賀美術館」は、2024年にプリツカー賞を受賞した建築家・山本理顕の設計により、2007年に開館しました。ガラスと穴の開いた鉄板の二重の皮膜に包まれた建物は、地中に半分埋め込まれ、芝生の丘と海の風景に溶け込んでいます。館内のあちこちに開けられた丸い開口からは、空と海がまるで作品のように切り取られ、屋上広場に立てば行き交う船と水平線が一望のもと。「環境全体が美術館」というコンセプトどおり、建築と風景とアートの境界が心地よく溶けていく場所です。
参考:山本理顕が手がけた「横須賀美術館」は東京湾を望む豊かな自然環境に浮かぶショーケースのよう。
住所:神奈川県横須賀市鴨居4-1
公式サイト:https://www.yokosuka-moa.jp
日本初の公立近代美術館「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」──坂倉準三

鶴岡八幡宮の境内、平家池のほとりに建つこの建物は、1951年、日本初の公立近代美術館「神奈川県立近代美術館 鎌倉館」として誕生しました。設計は、ル・コルビュジエのアトリエで学んだ建築家・坂倉準三。細い鉄骨の柱で持ち上げられた白い箱が水面に浮かぶように建ち、大谷石の壁と池に開かれたピロティが、日本の伝統とモダニズムの幸福な出会いを体現しています。美術館としての役目を終えたのちも保存が決まり、2019年から「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」として公開。2020年には国の重要文化財に指定され、戦後建築の金字塔として次の時代へ受け継がれています。
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-53
公式サイト:https://tsurugaokamuseum.jp
世界的巨匠の住宅建築で歴史を学ぶ「鎌倉歴史文化交流館」──ノーマン・フォスター

鎌倉駅から谷戸の奥へと歩いた先に、思いがけない建築が待っています。「鎌倉歴史文化交流館」は、イギリスの世界的建築家ノーマン・フォスター率いるフォスター+パートナーズが個人住宅として設計した建物を、鎌倉市が博物館として再生し、2017年に開館した施設です。三方を山に囲まれた谷戸の地形に沿って建物が伸び、ガラス越しに庭園と山の緑が室内へと流れ込みます。ハイテク建築の巨匠が鎌倉の風土と向き合った、国内では数少ないフォスター作品。住宅ならではの親密なスケールで、鎌倉の歴史と建築を同時に味わえる知る人ぞ知る名所です。
住所:神奈川県鎌倉市扇ガ谷1-5-1
公式サイト:https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/rekibun/
小さな地球がころがる建築の遊園地「湘南台文化センター」──長谷川逸子

湘南台駅前に、銀色の球体がいくつも顔をのぞかせる不思議な風景があります。建築家・長谷川逸子が公開コンペを勝ち抜いて設計し、1989年に開館した「湘南台文化センター」です。地球儀を思わせる球体の中には子ども館のシアターやプラネタリウムが収められ、敷地の多くを地下に埋めることで、地上には小川や広場のある起伏豊かなランドスケープが広がります。「建築は第二の自然」という長谷川の思想を体現した空間は、開館から35年を超えて、子どもたちの歓声に包まれ続けています。
住所:神奈川県藤沢市湘南台1-8
公式サイト:https://www.fujisawa-cf.jp
湘南に舞い降りたステンレスの大屋根「藤沢市秋葉台文化体育館」──槇文彦

藤沢市の丘に建つ「秋葉台文化体育館」は、プリツカー賞建築家・槇文彦が1984年に手がけた体育施設です。ステンレスの板で葺かれた流線型の大屋根が幾重にも連なる姿は、カブトムシにも宇宙船にもたとえられ、竣工から40年を経た今も未来的な輝きを放っています。金属の硬質な素材でありながら、屋根の曲線はどこか生き物のようにやわらかく、丘の稜線と呼応するように風景に馴染んでいます。地域の日常を支える体育館に、これほどの造形が与えられていること自体が、日本の公共建築の豊かさの証といえるでしょう。
住所:神奈川県藤沢市遠藤2000-1
アーティストが人生を懸けた壮大な庭「小田原文化財団 江之浦測候所」──杉本博司

相模湾を見下ろす小田原・江之浦のミカン畑の丘に、現代美術作家・杉本博司が構想から20年以上を費やして築いた「江之浦測候所」があります。2017年に開館したこの場所は、美術館とも庭園とも呼びきれない、文明の起源に立ち返るための壮大な装置です。夏至の朝日が貫く100メートルのギャラリー、冬至の光を招き入れる隧道、海に向かって浮かぶ光学硝子の能舞台。古代の石や歴史的建造物の部材が随所に組み込まれ、歩くほどに時間の感覚がほどけていきます。完全予約制だからこそ味わえる、静寂と絶景の建築体験です。
参考:聖徳太子が触れた岩もある!日本建築が一堂に集まる杉本博司の「江之浦観候所」とは?
住所:神奈川県小田原市江之浦362-1
公式サイト:https://www.odawara-af.com
箱根の森に沈む光の美術館「ポーラ美術館」──安田幸一+日建設計

箱根・仙石原のブナやヒメシャラの森の中に、「ポーラ美術館」は静かに佇んでいます。2002年の開館にあたって掲げられたコンセプトは「箱根の自然と美術の共生」。建築家・安田幸一と日建設計は、建物の大部分を地下に埋め、地上に現れる高さを木々よりも低く抑えることで、森の風景を守り抜きました。ガラスの円形ホールに降りていくと、木漏れ日のような光が地下深くまで満ち、モネやピカソの名画と出会えます。森の遊歩道と一体になった美術館は、鑑賞のあとの散策までが作品の続きのよう。箱根旅の目的地にふさわしい名建築です。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
公式サイト:https://www.polamuseum.or.jp
港の倉庫から谷戸の住宅、丘の体育館、森の美術館まで。神奈川県の名建築を巡る旅は、横浜・鎌倉・湘南・箱根という個性豊かな風土そのものを巡る旅でもあります。海辺のドライブや古都の散策に、建築という目的地をひとつ加えるだけで、見慣れた景色の解像度はぐっと上がるはずです。次の週末は、名建築を訪ねて神奈川を巡ってみてはいかがでしょうか。