「本質を追い求める建築家」──服部大祐が語る家具、水辺、そしてスイスでの原点

横浜に生まれ、慶應義塾大学を経てスイスで建築を学び、現在は京都を拠点に活動する建築家・服部大祐。建築設計事務所「MIDW」の共同主宰として、大阪・関西万博の会場デザインや国内外での建築設計に携わる一方で、日常の暮らしや趣味のなかにも建築家としての感性を反映させています。今回は服部さんに、家具や水辺の空間へのこだわり、そして建築家としての原点となったスイスでの経験について伺いました。

建築家・服部大祐

1985年横浜生まれ。2008年慶應義塾大学環境情報学部卒業、2012年メンドリジオ建築アカデミー修士課程修了。2014年「Schenk Hattori」(アントワープ・京都)共同主宰。2025年よりMIDW共同主宰。日本建築学会作品選集新人賞、東京建築士会住宅建築賞、京都建築士会藤井厚二賞などを受賞。現在は国内外で幅広くプロジェクトを手がけ、地域性や環境との関わりを大切にした建築を追求している。

テーブルと椅子に宿る建築の本質

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「やっぱり家具ですね。特にテーブルと椅子。テーブルは自分で作ることもあります。椅子はもっと好きなんですが、難しくてまだ挑戦できていません。お気に入りの椅子を集めながら、いつか自作したいと思っています」

椅子に惹かれる理由はどこにあるのでしょう。

「良い椅子って無駄がないんですよ。素材感がはっきりしていて、座るとすっと体に馴染む。しかも時間が経つと味が出てくる。建築も同じで、余計なものをそぎ落として、本質的な質感を活かすべきだと思うんです」

家具へのまなざしは、服部さんが建築に求める「本質」そのものと重なっているようです。

水辺で過ごす、豊かな時間

建築家として、お好きな空間はどういったものでしょうか。

「水辺ですね。川も湖も海も全部好きです。最近は釣りに行くこともあって、明石海峡大橋のたもとで糸を垂らして、魚が釣れても釣れなくても、海を眺めている時間が心地いいんです。

奥さんと訪れることも多いのですが、僕よりも釣果に対して真剣で、実際に夕食の食材として魚を釣り上げてくれることが多いです。奥さんに頑張ってもらって、自分は糸を垂らして海と対話をしつつ、夕日を眺められれば満足なんです(笑)」

スイスで学んだ「建築修道院」の日々

大学を卒業後、スイスに留学された経緯はどういったものだったのでしょうか。

「特別にスイスに行きたかったわけではなくて。大学院を探していたとき、自分が尊敬する建築家が教えている大学を見つけて、そこがたまたまスイスだったんです」

その大学は山間の小さな村にあり、周囲に娯楽はなく、建築を学ぶ学生がひたすら設計に没頭する場だったと伺っています。

「外からは“建築修道院”と呼ばれていましたね。街にはバーが1軒しかない。みんな缶詰のように設計に打ち込み、休暇になると散り散りに帰省して、また戻ってくる。そんな繰り返しでした」

徹底した環境で積み重ねた経験は、今も服部さんの設計姿勢を支えているようです。

暮らしと建築の境界を問い続ける実験

服部さんは、家具や水辺といった日常の体験に、建築家としての視点を重ねています。余計なものを削ぎ落とし本質を大切にする姿勢は、愛用する椅子や自作のテーブルにも表れています。さらにスイスの「建築修道院」と呼ばれる環境で培った徹底的な学びが、現在の設計活動を支える基盤となっています。日常と学びの両面から建築を見つめ直す彼の言葉には、建築の普遍的な魅力が凝縮されているようです。

後編:建築家・服部大祐が万博で挑む「休憩」の再定義と直感力の哲学