「10年後、20年後に『良かったな』と感じて欲しい」建築家・柳瀬真澄の住まいづくりの視点と原風景

前編:「日本人の原点を大切にしたい」建築家・柳瀬真澄が考える心地のよいデザイン

毎週月曜日に立山律子がお送りする福岡のラジオ放送CROSS FM「DAY+」。「#casa(ハッシュカーサ)」の枠に今回ゲストとしてお越し頂いたのは、福岡を拠点に活動し、住宅を中心にクリニックや店舗など様々な建築設計を手掛ける建築家・柳瀬真澄(やなせますみ)さんです。

後編では住宅づくりにおいて意識している点や建築家を目指すうえで影響を受けたものについて伺いました。

住まいづくりで意識するポイント

鞘ヶ谷の家
撮影:石井 紀久

自然と共存する、どう取り込むかを重視しているというお話がありましたが、他に意識している点はありますか。

「“時間の概念”を取り入れるということでしょうか。家の中にいるときでも、ずっと一つの場所にいるわけではないですよね。部屋を動き回るという視点だったり、生活の中での移動の時間や、太陽をはじめとした季節の動きなど、時間の移ろいという概念も大切にしています。」

杵築の家
撮影:石井 紀久

「建築は短い期間ではなく数年間使われることが予想されるもの。住宅の場合では、10年も経つと家族構成も変われば家主のものの考え方も変わり、家も古びて汚れてきます。そうした時に、その家の価値が決まると思っています。建築が出来上がった時に『良いですね』と言われるような家ももちろん素敵ですが、住み始めてから10年、20年後に『ああ、やっぱり柳瀬さんに頼んで良かったね』と言われるような住宅を目指しています。」

住宅という”建物”ではなく家族が時間を過ごす空間として最適な形を考えている柳瀬さん。10年、20年も先を見据えた住まいづくりはとてもやり甲斐がありそうですね。

 

建築家を目指すうえで影響を受けたもの

ご自身がこれまで影響を受けた作品などはあるのでしょうか。

「原風景みたいなものですが、母方の祖父が大工をしていて、実家の仕事場には手入れのされた大工道具が並んでいました。そういった祖父の仕事道具を見たり、木を大事にしている姿を眺めたりしていたので、職人的な視点は祖父譲りかもしれませんね。」

と語ります。

casa bassoに込められた住宅へのこだわりとは

casa basso
casa bassoの外観

すべての部屋が広い開口とデッキを介して外とつながり、水平方向への視界が中間領域と見事に溶け合う平家〈casa basso〉。柳瀬さんの作風がよく現れた住宅ですが、どう言ったコンセプトで作られたのでしょうか。

「日本人の暮らしの原点である、平家の家ということをコンセプトにしました。というものの、日本人の感性に育てられた意匠をそのまま取り入れるのではなく、現代風に解釈して取り入れています。最近でこそ商品住宅において平家はとても注目を集めていますが、〈CASA BASSO〉が企画された頃は、商品住宅としては、対象とされていなかったと思います。汎用性がなさそうに見える平家ですが、空間をフレキシブルに使用できたり、天井が高く活かせたりと利便性の高さはもちろん、全ての部屋がバリアフリーということも、高齢化が進む日本では大切なポイントになるのではないかと考えています。」

先ほど“時間の概念“とおっしゃっていたように、子供の成長やライフスタイルの変化に対応できる選択肢を持つ住まいこそ、人生をずっと快適に過ごせるものなのですね。

商品住宅の苦労

casa bassoの内観
casa bassoの内観

個別の住宅作品ではなく、商品住宅で良かった点や苦労した点はありますか。

「商品住宅になると、特定の人の好みやライフスタイルのためのデザインではなく、たくさんの人に向けられる汎用性のあるものでないといけません。とは言っても凡庸では商品としての価値もないし感動も生まれません。わかりやすく良いなと思える住まいでありたいと常に考えています。また、商品住宅では日本全国の工務店が作ることになるので、特殊な技術は使えません。屋根の吹き方や詳細図、ディティールを細やかに書いて、図面さえ見ればデザインのクオリティーを落とさずに建てられることを意識しています。」

住宅づくりは建築家のみならず、大工がいてこそ成り立つもの。住宅自体のデザインはもちろん、その建築過程においてもクオリティーを落とさずに進行できることも商品住宅においては大切な視点ですね。

暮らしとは?

住宅をメインに福岡で様々な建築設計に携わる柳瀬さん。そんな柳瀬さんにとって「ライフイズ◯◯」の空欄にはどんな言葉が入るのでしょうか。

「仕事、ですね。建築は人の暮らしにかかわるものなので、例えば映画を見るとか小説を読むとか旅をするとか日々の全てが仕事の肥やしになります。いつも色々なことに興味を持って過ごしていることが仕事に繋がるので、そうした暮らしが幸せだなと感じています。」

暮らしは仕事と言い切った柳瀬さん。これからも多忙で充実した毎日が続きそうですね。

 

毎週月曜日に2週に渡ってゲスト対談を行なっている福岡のラジオ放送CROSS FM「ライフスタイルメディア #casa」。建築家・柳瀬真澄さんをゲストに迎えた前週回については「『日本人の原点を大切にしたい』建築家・柳瀬真澄が考える心地よいデザイン」からどうぞ。