「日本人の原点を大切にしたい」建築家・柳瀬真澄が考える心地のよいデザイン

毎週月曜日に立山律子がお送りする福岡のラジオ放送CROSS FM「DAY+」。「#casa(ハッシュカーサ)」の枠に今回ゲストとしてお越し頂いたのは、福岡を拠点に活動し、住宅を中心にクリニックや店舗など様々な建築設計を手掛ける建築家・柳瀬真澄(やなせますみ)さんです。前編では大切にされているデザインや柳瀬さんの作品の特徴でもある自然の取り入れ方について伺いました。

福岡で設計活動する建築家・柳瀬真澄

柳瀬真澄建築設計工房:http://www.yanase-arc.com

1954年福岡県生まれ。1977年福井大学建築学科卒業後、一級建築士事務所環境計画入所。1985年柳瀬真澄建築設計工房設立。〈杵築の家〉〈鞘ヶ谷の家〉〈gallery cobaco〉など、住宅をメインに様々な建築設計を手掛け、高い評価を得ています。

普段の生活で大切にしているデザイン

撮影:石井 紀久

まずはじめに「日常生活の中で大切にしているデザイン」について伺いました。

「華美な装飾じゃなくて、シンプルで素材の良さを生かしたデザインやものを大切にしたいと日々思っています。」

確かに柳瀬さんの作品には無駄を削ぎ落としたスタイリッシュながら機能的な建物が多い印象を受けます。日頃からそうしたシンプルで質の良いものを意識して扱っているからこそ、ご自身の制作にも影響があるのかもしれませんね。

シンプルで質の良いものを好む柳瀬さん

シンプルで質の良いものを好む柳瀬さんが気に入っている空間はどういったものなのでしょうか。

「住んでいる地域に鴻巣山という山があり、マテバシイの森が広がるなかに自然の地形を生かした遊歩道があります。新型コロナウィルスの影響で、それまで通っていたプールが閉鎖となり、山でウォーキングをするようになりました。遊歩道では自然を感じることができるうえ、遠くに行かずとも近くでもリフレッシュができるので気に入っています。」

自粛生活によってこれまでとは異なる生活を送る人も増えたはず。いつもと異なる日常によって、身近なところで思いがけない発見があるものですよね。

今後の暮らしのデザイン、自身の活動について

撮影:石井 紀久

新型コロナウィルスによって生活が変わりつつある現代。建築家としての活動にも影響はあるのでしょうか。

「コロナ渦での自粛生活の中で空間に篭りがちになってしまうので、少しでも外に開かれた空間のデザイン、また空間の質の高さが求められるのではないかと思います。」

人との接触を制限されることで、食事や何気ない会話など他者とのコミュニケーションの大切さに気付かされましたよね。長く過ごす空間の質はもちろん、人との交流が生まれる場は今後、より重要性を持つかもしれませんね。

近年の住宅づくりの傾向

撮影:石井 紀久

日常の中で、近所の新築や流行りの住宅を見ていると、窓が小さくなっている傾向を感じますが、こうした窓を小さく設けるのは近年の流行なのでしょうか。

「断熱とか採光など環境の問題で外からのエネルギーを制御するために小さくしているのはあると思いますが、デザイン的な流行ではないと思います。先ほど自然を大切にしたいと言いましたが、自分の中でもとりわけ“自然の光を家の中にどう入れるか”をテーマにしています。自然の光とそれの作り出す陰影が住まいに息吹を与えると思うので、機能的な側面よりそういった情緒的な面が今後も大事になるのではないかなと思います。」

撮影:石井 紀久

これまでの柳瀬さんの作品の中で、大きな窓の向こうに美しい借景が広がる住宅が多く見られますが、それも自然を取り入れることへのアプローチなのでしょうか。

「先ほどもお話しましたが、自分は形とか装飾とかで住まいのデザインをするというよりも、周りの風景や光、影などの自然によって住まいを豊かにすることを考えています。これまでも日本人は自然を大切にしてきた歴史があるので、原点を大切にすることがより良い住まいづくりに繋がると思います。」

田んぼや畑、木々の緑や青々とした大空を見るとなぜだか心が落ち着くもの。モダンなデザイン、機能的な構造も住まいには大切ですが、やはり居心地の良さはヒトとしての原風景、自然との共生が生み出すものなのかもしれませんね。

自然を創り出すアイディア

撮影:石井 紀久

自然と寄り添った建築を目指している柳瀬さん。例えば街の中央だったり外的要因によって自然の取り入れようがないような難しい環境ではどうされているのでしょうか。

「上から光を採ってみたり、小さな中庭を設けてみたり、木を1本でも植えてみたり。ちょっとしたポイントでも自然を感じることができるはずです。どんな環境の中でも自然を取り込んだ設計は可能だと考えています。」

外部に求めるのではなく、自然を内部に設けることも建築によってできること。どんな環境の中でも自然を取り入れることはできるのですね。

 

毎週月曜日に2週に渡ってゲスト対談を行なっている福岡のラジオ放送CROSS FM「ライフスタイルメディア #casa」。建築家・柳瀬真澄さんをゲストに迎えた後週回については「『10年後、20年後に『良かったな』と感じて欲しい』建築家・柳瀬真澄の住まいづくりの視点と原風景」からどうぞ。

またラジオ放送はradiotalkから聴くことができます。

後編:「10年後、20年後に『良かったな』と感じて欲しい」建築家・柳瀬真澄の住まいづくりの視点と原風景