日本の”泊まれる”傑作建築をめぐる一冊「THE VOYAGE THE MASTERPIECES TO STAY」

2026年4月30日に発行された『THE VOYAGE THE MASTERPIECES TO STAY』は、雑誌「with casa」の特別編集号。崖の上のモダニズム建築から、美術館だった空間に泊まる体験、五感をひらくウェルネスとガストロノミー、そして所有という新しい選択肢まで——日本各地に点在する”泊まれる”傑作建築をめぐる、読み応えたっぷりの一冊です。今回はその内容を、少しだけチラ見せしていきます。

THE VOYAGE THE MASTERPIECES TO STAY

日本の“泊まれる”傑作 THE VOYAGE THE MASTERPIECES TO STAY 

「いい宿だったね」と振り返るとき、人の記憶に残っているのは、案外、窓から見えた山の緑だったり、朝に聞こえた鳥の声だったりします。豪華な料理でも、ふかふかのベッドでもなく、その土地の空気そのもの。本書はそうした”泊まる”という体験を、建築という視点から静かに掘り下げていきます。一夜の滞在を思想で満たした建築家たちの理想形が、ページいっぱいに広がる一冊です。

建築家が描いた”泊まる”の理想形

最初の章では、建築家たちが「宿」という問いに向き合い、機能を超えた体験へと昇華させた空間が並びます。森と海に挟まれた崖の上で、1970年代のモダニズム建築が宿としてよみがえった静岡・南伊豆の「Izu Cliff House」。秋川渓谷を一幅の絵のように切り取る、手塚建築研究所による1日1組限定の「風姿」。13年の歳月を経て実現した、藤森照信による棚田の宿「小泊Fuji」。さらに隈研吾、内藤廣、谷尻誠といった名だたる建築家たちが手がけた空間が登場し、それぞれの思想が宿という形に結実しています。

五感を研ぎ澄ますウェルネスとガストロノミー

玄界灘の漁港町に静かに佇む、建築家が手がけたサウナ付き一棟貸しヴィラ「octoporto(オクトポルト)」

触れ、嗅ぎ、味わい、聴き、見る。五感をひらくことで、旅の記憶はより深く刻まれます。この章では、サウナの熱と上質な食が交差する場所を紹介。玄界灘を望む佐賀・呼子の路地裏に誕生したサウナ付き一棟貸しヴィラ「villa OCTOPORTO yobuko」や、淡路島の農園に佇むユニークな宿泊棟が点在する「はたけのリゾート 燦燦 Villa」、新潟の食文化を味わうオーベルジュ「Né」など、土地の恵みを身体ごと受け取る宿が並びます。世界を旅する本田直之さんが語る「残る場所」の条件にも注目です。

風景が導くリトリート

山があり、海があり、森があり、川がある。風景をただ眺めるのではなく、そこに身をゆだねてみる。自然の輪郭に寄り添うように設計された宿が、訪れる人を日常から切り離してくれます。世界遺産・今帰仁城跡の原風景が残る沖縄の高台に佇むプライベートヴィラ「MAKINA NAKIJIN」、”日本一の星空”のもとでグランピングを楽しむ長野・阿智村の「mökki」、まるで美術館のようなモダン建築で海をひとり占めする淡路島の「.S(エスドット)」。それぞれの土地の自然が、滞在のかたちそのものを導いていきます。

ホテル、ヴィラを所有するという、新しいカタチ

近年広がりを見せるのが、上質な体験と資産価値がひとつになった「所有する」という選択です。世界の建築家とともにヴィラをつくり、ホテルのように利用しながらシェアして持つ「NOT A HOTEL」。都市に暮らしながら、森や海のそばにもうひとつの家を持つ「SANU 2nd Home Owners」。泊まるたびに価値を実感できる場所を持つという、これからの暮らし方と投資のかたちが描かれています。全国の宿やヴィラを「数字」と「体験」の両面から見つめてきた田中渓さんのインタビューも収録されています。

Voyage Casaって何?

最終章では、建築家とともに”泊まれる資産”をつくるプロジェクト「Voyage Casa」を紹介。構想・事業設計からプラン提案、施工、開業準備、そして運営までを一本の線でつなぎ、憧れの空間を手の届く資産として所有するという、次世代の選択肢を紐解きます。本書の各所に空間を手がけた建築家・深瀬ヤスノリさんのインタビューでは、「住まう」と「泊まる」の境界を往来する建築への思いが語られ、長崎・佐々町の1日1組限定の宿「然10」のような、余白が生む豊かさへのまなざしが伝わってきます。

旅の意味を、もう一度考えたくなる一冊

利回りや稼働率だけでは測れない価値。所有すること、しないこと、その間にある選択肢。本書を通して見えてくるのは、宿をめぐる思考が、やがて私たち自身の暮らし方や時間の使い方へとつながっていくということです。次の旅で「どこに泊まるか」を考えるとき、きっとこの一冊が、新しい視点を静かに手渡してくれるはずです。

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