atelier umi/建築家・藤田時彦による、古民家を活かした薪火イタリア料理店「ciocco」

寺院の裏路地にひっそりと佇む「ciocco」は、築年数を重ねた古民家を改修して生まれた小さな食の場です。本作を手がけたのは、風景や建物が重ねてきた時間を大切にしながら空間づくりを行う設計事務所 atelier umi・代表の藤田時彦。

既存の建物が持つ素材や構造を丁寧に読み取り、その魅力を活かした設計を得意としています。

「ciocco」は、歴史ある建物の柱や土壁などの素材感を活かしながら、薪火料理を中心とした空間として丁寧に再生されているのが魅力です。また、店内では、料理人の手仕事や火の揺らぎを間近に感じられるカウンターを中心に、落ち着いた時間が流れます。

建物が持つ古い表情と新たに加えられた設計が重なり合い、訪れる人にとって特別な体験を生み出す場所です。

裏路地にひっそりと佇む、古民家の外観

Photo:Shotaro Kaide

寺院の敷地内にある裏路地に建つ「ciocco」。人通りの多い表通りではなく、地元の人が抜け道として利用する静かな場所に位置しています。

外観は大きく手を加えず、古民家の佇まいをそのまま残すように設計されているのが特徴です。格子や木の建具、瓦屋根など既存の要素を活かすことで、長い時間を経てきた建物の風合いが街並みに自然と溶け込みます。

Photo:Shotaro Kaide

また、派手な装飾や看板はなく、夜になると玄関まわりのやわらかな灯りが静かに浮かび上がり、訪れる人を穏やかに迎え入れます。わざわざ足を運びたくなる、隠れ家のような飲食店の入口です。

吹き抜けが生む、静かな開放感のテーブル席

Photo:Shotaro Kaide

店内に入ると、まず現れるのがテーブル席の空間です。既存の天井を取り払い、吹き抜けをつくることで、古民家の構造を感じられる開放的な空間が生まれました。

Photo:Shotaro Kaide

既存の木柱や土壁の質感がそのまま残されているため、新しい仕上げと調和しながら空間に奥行きを与えているのが特徴です。

天井の高さと落ち着いた照明によって、食事の時間がゆっくりと流れるような、静かで心地よい空気が生まれています。

火を囲むように設えられたオープンキッチンカウンター

Photo:Shotaro Kaide

店の中心となるのが、薪火料理を提供するオープンキッチンと長いカウンター席です。カウンターはオレンジ色の研ぎ出し仕上げでつくられ、薪火の温かさを連想させる色彩が空間のアクセントになっています。

カウンター越しには調理の様子を間近に感じることができ、料理が生まれる過程そのものが食事体験の一部になります。整然と並ぶ調理器具やワインボトルも、この空間の景色の一部です。

天井は古民家特有の低さをあえて残しており、吹き抜けのテーブル席とは対照的に、料理と向き合うための落ち着いた密度のある空間がつくられています。

古い土壁をあえて見せる、時間の痕跡

Photo:Shotaro Kaide

店内の壁の一部では、古民家の土壁や下地をあえて露出させています。竹小舞や土の質感がそのまま見えることで、この建物が歩んできた時間の積み重なりを感じさせます。

Photo:Shotaro Kaide

また、新しく塗られた壁や左官仕上げと並置することで、古い素材と新しい素材が共存する独特の表情が生まれているのが魅力です。

また、カウンター席の上部には、細い直線の照明が連続して配置されています。低い天井のラインに沿うように光が伸びることで、空間に落ち着いたリズムが魅力です。

さらに木梁や柱の重厚な質感と、シャープな光のラインが対比され、古民家の構造を際立たせています。照明は料理や手元をやさしく照らしながら、店内全体を静かな雰囲気で包み込みます。

Photo:Shotaro Kaide

薪火料理の温もりと、光のデザインが調和することで、食事の時間をゆっくり味わえる空間がつくられています。

建築と料理人の想いが重なる、路地裏に生まれた小さな食の場

寺院の裏路地に佇む「ciocco」は、築年数を重ねた古民家を活かしながら、新たな飲食空間として丁寧に再生された場所です。

また、この空間には建築家の設計思想だけでなく、料理人の想いや活動も色濃く反映されています。建築と料理、それぞれの表現が重なり合うことで、単なる飲食店ではなく、人や時間がゆるやかに集まる場として育っていくことが期待されます。