巨匠建築家レンゾ・ピアノの設計で移転・リニューアルしたニューヨークの「ホイットニー美術館」。

2015年に、マンハッタンのチェルシーエリアに移転した「ホイットニー美術館」は、イタリア人建築家・巨匠レンゾ・ピアノによるデザインで大幅に生まれ変わった。それまでの2倍の展示空間とかなり大きくなっただけでなく「多様性とアートが両立した親しみやすい美術館」に進化を遂げた、その全貌を見てみよう。

イタリア人建築家・巨匠 レンゾ・ピアノ

2021年に84歳を迎えたイタリア人建築家・巨匠「レンゾ・ピアノ」。長らく建築界をリードしてきた彼は、プリツカー賞を受賞したフランス・パリの公共文化施設「ポンピドゥー・センター」、日本では銀座メゾン・エルメスや、関西国渣空港の設計を手掛け、世界中からその名を知られている。

マンハッタン・チェルシーのエリアに移転した「ホイットニー美術館」

1931年に開館したアメリカ・ニューヨークにある「ホイットニー美術館」。建築家レンゾ・ピアノの設計よって2015年5月1日にマンハッタンのチェルシーエリアへ移転リニューアルオープンした。

アメリカの近現代美術の中でも、特に存命中のアーティストに焦点を当て大規模な展覧会を行なっているほか、先鋭的なアーティストや影響力のあるアーティストを紹介する「ホイットニー・ビエンナーレ」を主催していることでも知られる。

旧ホイットニー美術館は「メット・ブロイヤー」という名に

ホイットニー美術館の移転リニューアルに伴い、元々アッパーイーストサイドに位置していた旧ホイットニー美術館は、設計者であるマルセル・ブロイヤーの名前を取り「メット・ブロイヤー」という名に変更へ。メトロポリタン美術館の分館として開館されていたが、2020年に閉鎖が決まった。

The Met Breuer – メット・ブロイヤー

開館時間:10:00~17:30(金・土曜日~21:00)
休館日:月曜日
入館料:$25
URL : https://www.metmuseum.org/visit/plan-your-visit/met-breuer
住所:945 Madison Ave, New York, NY 10021 USA

古い情緒が残るストリートに溶け込む外観

古い建物が残る街 マンハッタン・チェルシーエリアへと移転オープンしたホイットニー美術館。文化・商業活動がひしめくエリアで、ハイラインを見下ろし、ハドソン川を真隣から受け、風を感じながらアートを体験できる立地は革新的である。

トップライトのノコギリ屋根や外観形状など、昨今の美術館建築にある独特なデザインに比べて、まるでオフィス工場のような外観は、敢えて周辺環境に寄り添うよう普遍的なデザインにしているようにも思える。

ハドソン川を望む1階のレセプション

中へと足を踏み入れると広がるのは、ガラス張りで開放的なレセプション空間。レストランまで見渡すことができるオープンなスペースで、廃線になった鉄道高架線を再利用した空中緑道「ハイライン」からも出入りすることができる。

内部空間も、鉄やコンクリートの質感をそのまま表出したデザインが多く見られ、どこか工場のようなカジュアルな雰囲気がある。しかし、ところどころにホイットニー美術館のコレクションらしい新鋭的な近代アートが飾られ、自由な感覚で隅々まで来場者を楽しませてくれる。

トップライトの自然光で明るい展示空間の最上階

エレベーターで最上階まで上がると広がるのは、ノコギリ屋根のトップライトで柔らかく照らされた明るい展示空間。各フロアの天井はグリッド状の構成が採用され、従来のホワイトボックスにある単調空間を超越した趣がある。

展示室も様々で、ニューヨークの風景を背景にするスペースや、外観に通じるようなデザインボキャブラリーもある。

オープン空間が多く、居心地がいい最上フロア内

最上階には展示室以外にもカフェやアウトドア・ギャラリーが配置されており、すごくオープンな雰囲気で居心地がいい。カーテンウォールで外部と続いているような展示室もあり、ダイナミックな外部展示やパフォーマンスが拡張されている。

テラスにもイサム・ノグチなどの彫刻作品が展示されていて、ハイラインに通ずる「自由度の高い公園」のような感覚を覚える。

オープンカフェも明るくて入りやすい。外の眺めが良いテラスにも続いている。

全く異なる雰囲気で展開されるアウトドア・ギャラリー空間

約1,200㎡もあるアウトドア・ギャラリーには、テラス群で分かれて配置され、それぞれのエリアで全く異なる空間と眺めが広がる。外部へと広がるアート体験や、これまでの美術館用途を一新し、老若男女・国籍も問わずに楽しめる「多様性」にも注力しているように感じる。

美術館というより「公園にパブリックアートが置いてある」ようなイメージに近く、美術館展示としては新鮮な空間創りが特徴的だ。特に3階のテラスはインタラクティブな展示で、訪れる人たちがアートに身構えることなく、自然体で楽しんでいる姿が新鮮だ。

多様性のある色々な空間が広がる「市民が親しみやすい」美術館へ

レンゾ・ピアノのデザインによって移転リニューアルした「ホイットニー美術館」。外部へと拡張を魅せる展示空間と、ハドソン川の眺望から「ワールドトレードセンター」や五番街まで全方位で楽しむことができる好立地を最大限に活かした設計が実に素晴らしい。

ホイットニー美術館はリニューアルにあたり、「都市に溶け込む・市民が親しみやすい美術館」という意味も込められて誕生したという。

立体パブリックスペースのように色々な空間を散りばめることで、アートに気軽に触れることができ、アートにそれほど興味がない人でも入りやすいよう考慮された設計が「多様性」を生み出す。

ホイットニー美術館は、かつての「大人の楽しみ」のような高貴な存在であった美術館の在り方を一掃し、老若男女・国籍問わず「カジュアルに自然体でアートを楽しむ」ことができる美術館デザインの先駆けとなっているだろう。

Whitney Museum of American Art – ホイットニー美術館

開館時間:10:30~18:00(土曜日~22:00)
休館日:火曜日
入館料:$25
URL : https://whitney.org
住所:99 Gansevoort St, New York, NY 10014 USA