【DESIGNART TOKYO 2024】独自の視点で提案する。豊かな暮らしをもたらす新たなデザインの可能性

今年で8回目となる日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO(デザイナート トーキョー)」が10月下旬の約1週間、今年も東京を舞台に都内各所にて開催されました。今回は「Reframing 〜転換のはじまり〜」をテーマに、従来の枠組みにとらわれず別の視点から見つめ直し、新たな価値を提示するクリエイターたちの作品が世界中から集結。過去最大規模となる117の多彩なプレゼンテーションによって「東京の街が美術館となった10日間」のハイライトをレポートします。

4つの視点がクロスオーバーするReframing体験

従来の枠組みにとらわれず別の視点から見つめ直すことで、新たな価値を提示するクリエイターたちの営みに注目した今年度のオフィシャルエキシビション。アート、デザイン、クラフト、テクノロジーといった、異なる分野の第一線で活躍する4人がキュレーションした18組のクリエイターによる“Reframing”を体感できる展覧会となりました。鑑賞者の視点に制限をかけないよう、あえて分野を分けず展示をした本展示では、来場者が実際の観賞体験を通して、思考をめぐらせながら興味深く1点1点をめぐる姿が印象的でした。

HYBE Design Team(代表:竹田純)による会場デザインは、再生素材「TUTTI」を無垢の素材全面にあしらったボードを使い、作品をより魅力的に見せながらも展示台自体も作品の一部のように活き活きとした表情を見せました。壁で区切らず回遊して作品鑑賞ができるようになっているだけでなく、会場全体に躍動感を与え、高級な素材を使用しなくても存在感やテクスチャーを用いた空間デザインは、新しい視点による「スタンダード」を提示しました。

またReframing展が行われたメイン会場前には、DESIGNART TOKYOのロゴがあしらわれた今年度のオフィシャルカー「Volvo EX30」が展示され、エントランスを華やかに演出しました。

自然素材の持つ力に魅了された展覧会

WoodworkatAXIS Gallery

六本木の「AXISGALLERY」では、近年改めて注目が高まる、家具やインテリアの素材として欠かさせない『木』をベースにした作品が一堂に集結しました。建築家・デザイナー鬼木孝一郎によるODS/OnikiDesignStudioは、日本の組子技術を発展させ、立体的に組み付けた「Forêt(フォレ) 」の新作シリーズを、梶谷拓生のCONSENTABLE(コンセンタブル)は“DeepdiveintowhatIwant.”というテーマで、10年間におよぶ活動を紹介しました。静岡のオーダーメイド家具工房iwakaguは、「木」に焦点を当て、住まいと木工の関係を見つめ直した木製家具を発表。

MARUHONはナラ枯れ材を活用した無垢フローリングと、木・鉄・石の素材の魅力を活かしたカスタムメイドが可能な家具を、SHINYAYAMAMOTOは「やぼったいけど、愛おしい。」をテーマに、素朴だけどキャッチーなフォルムと素材・質感から醸し出す雰囲気をプロダクトとオブジェの中間的な表現で落とし込んだ家具作品を展示しました。その他、TGDA+639(髙須学(TGDA)+百瀬聡文(挽物所639))は、「分解と再構築」をコンセプトに制作工程のどこかに意図的なわずかなズレや傾き、回転・反転などの変化・分解を加え再構築し、計算されたジオメトリーな美しさを追求したプロダクトを、デザインユニットtossanaigh(トッサネ)は、使い道が決まらないまま眠っている林地残材を活用した、大胆なデザインのサスティナブルなダイニングテーブルを展示。それぞれの個性が集結した今年度注目の展示となりました。

新たな視点でプロダクトデザインの可能性を拡げた作品群

Saki Takeshita(UNDER 30)

デザイナーの竹下早紀は、世界一軽い木材として知られるバルサ材を染色し、200度近い熱風を当てて色を変化させ、グラフィカルに展開した作品「Eeyo(イーヨー)」を発表しました。本展示では、個性的なデザインの12脚の椅子を展示し、その印象的なプレゼンテーションと色展開で、多くの来場者を魅了しました。木材と染料の相性によって起こる不思議な現象により、緑色がピンク色に、青色が赤色にと、染める時間、熱の当て方によって色や模様を変化させることができ、木材を用いたプロダクトデザインの新しい表現方法を提案しました。

130

3Dプリントを超えた、棒状の素材による革新的な立体造形技術をコアにしたブランド「130(ワンサーティ)」は、特有の格子状の構造を飾ることなく縦横のラインだけで構成し、まるで空中から抽出されたかのようなプリミティブな形態のテーブルと椅子、照明の展示を行いました。同ブランドにとって初の家具コレクションとなる本作品は、会場となったISSEYMIYAKEGINZA/442の空間に溶け込みながらも独特の世界観を持ち、家具製品としての可能性を感じさせる注目の展示となりました。

AAAQ(UNDER 30)

プロダクトデザイナー/プロデューサーの都淳朗・UIデザイナーの太田壮によるクリエイティブ・ユニットAAAQ(エーキュー)は“光弾性(photoelasticity)”と呼ばれる目には見えない秘めた力を鮮やかに可視化する現象を利用し、負荷によって生まれる光のテクスチャを鑑賞する作品「Visible Stress」を発表しました。身の回りにある素材や潜む美しい力を、新たな視点で見つめ直すことで生まれた作品です。

HOJOAKIRA(UNDER30)

HOJOAKIRAは、製造管理や在庫管理の観点からさまざまなマテリアルが使われ、分解性を考慮することが難しい製品「ソファ」に対する違和感を出発点に、分解性を考慮した構造と再生利用を目的とした素材で設計を行ったプロトタイプのソファを展示しました。単一のマテリアルが接合し、ファブリックでクッション材をくるむこともせず、それぞれの素材のまま再利用が可能な設計は、見る人へ強烈なインパクトを与えるとともに、全てが満たされることが当たり前の世の中に、新たな視点と価値観を考えるきっかけを与える作品となりました。

FARM AND BUILD

FARM AND BUILDメンバーである佐藤建は、泥土を混入して漉くという技法により、シミができにくく日の光が当たっても変色しない、江戸時代から続く兵庫県西宮市北部の「名塩和紙」を使った家具シリーズ「NAJIO SERIES」を発表しました。「名塩和紙」をでんぷん糊で貼りフレンチポリッシュと呼ばれる技法で薄くシェラックニスを塗り重ねていくことで、紙に含まれる繊維や泥土の濃淡が質感として見える作品PILLAR STOOL(白)に加え、再生和紙を漉き直す過程で泥を加え、柿渋と鉄媒染液で黒染めし、手でちぎりながら家具に貼り込んだ作品PEDESTL TABLE(黒/左)も発表されました。

PULSE

PULSEのメンバーの一人である三井大輝は、伝統工芸である「一閑張」の技法を取り入れ、現代の無機質な素材に手仕事ならではの質感を纏わせた新たな一閑張「素雅一閑張」を発表しました。一閑張りとは、竹かごや竹編みに和紙を重ね、柿渋や漆を施すことで強度を高め、長く愛用できる形に仕上げる技術です。今回は5種類の素材で花器を制作しました。

進化するアップサイクル廃棄される素材を新たな視点で再利用

Aqua Clara×HONOKATrace of Water-水の痕跡-

国内屈指のウォーターサーバーシェアを誇る「アクアクララ」は、デザインラボ「HONOKA」との共創で、ボトルの素材としての可能性を探るボトルアップサイクルの展示を行いました。役目を終えて多くの水分を吸湿したリターナブルボトルは、熱を与えて加工することで色彩や質感に水の痕跡を想起させる微細な変化が生じます。さまざまな加工法や素材に触れてきた経験を持つHONOKAは、この吸湿する特性と強度を持つポリカーボネート製ボトルの素材の潜在力を引き出し、審美性と機能性を兼ね備えた「建材」とそれらを応用したプロダクト展示で、アップサイクルの未来の可能性を示しました。

HIROTO IKEBE(UNDER 30)COCOON ANATOMY /繭を解く

池部ヒロトは、現在衰退の一途を辿りつつある養蚕文化に新たな視点や価値をもたらすことを目的として、その存在を読み解き再解釈し、土地に根ざした伝統的な技術と最新のテクノロジーを組み合わせることで、繭から出る廃棄物を素材とした新たなプロセスを持つ衣服「COCOONANATOMY」を発表しました。この美しいプレゼンテーション展示を通して、工業化によって不可視化しつつある「素材や生産者との関係性」を視覚化し、テキスタイルの製造プロセスの理解を取り戻すことで、養蚕文化の記憶の再生と継続の大切さを伝えました。

TOYOTA構造デザインスタジオクルマの記憶:ガラスによる素材の変容と情景

TOYOTA構造デザインスタジオは、ベースとなるデザイン思想「GeologicalDesign」の下、開発初期段階から資源を最小化する取り組みやリサイクル活動はもちろん、それでも捨てられてしまう資源については、前の命よりも魅力的になるようなアップサイクルの活動も行っています。本展示はファクトを知ってもらい、それを等身大で身近に感じてもらうことを目的に開催され、リサイクル率の低い自動車ガラスや、自動車に用いられる金属、最終残渣物である「スラグ」などを使用。ガラスを媒体としクルマの素材を多面的に変容させることで、クルマの記憶やその情景が表現されており、新しい視点を与えてくれる作品展示となりました。


PULSE

PULSEのメンバー豊嶌力也、多木翔夢は、工業製品の生産プロセスのひとつで使われる「砂型鋳造」の、中でも金属部品に空洞を作るために使用される「中子型」に着目したプロダクトを製作しました。中子型は成形の際に炭化し金属片が混人してしまうため、使用後に廃棄されてしまいます。この砂を異なる視点で捉え、新たな価値を与えて人々の生活にアクセントを加えるプロダクトSAND PRODUCT「OUTLINE」を発表しました。

独自の視点が生み出す新たなデザインの可能性

「Reframing」をテーマに、アート、インテリア、プロダクトなど様々なジャンルのクリエイターの作品が集結したDESIGNART TOKYO 2024。クリエイターならではの独自のアイディアと視点で生み出された新たなプロダクトは、私たちの暮らしをより豊かに彩るものとなりそうです。

DESIGNART TOKYO 2024

テーマ:「Reframing〜転換のはじまり〜」
会期:2024年10月18日(金)〜10月27日(日)の10日間
エリア:表参道・外苑前・原宿・渋谷・六本木・広尾・銀座・東京駅周辺
主催:DESIGNART TOKYO実行委員会
発起人:青木昭夫(MIRU DESIGN)/川上シュン(artless)/小池博史(NON-GRID)/永田宙郷(TIMELESS)/アストリッド・クライン(KleinDythamarchitecture)/マーク・ダイサム(Klein Dytham architecture)
オフィシャルウェブサイト:https://designart.jp/designarttokyo2024/facebook.com/designart.jpinstagram.com/