「人と自然との良い関係を建築で生み出したい」建築家・山田紗子が語る大切なデザインや建築家になったきっかけについて

藤本壮介建築設計事務所からの独立後、「新しい価値観を創造する」をモットーに、慣習にとらわれないユニークな造形や構成の建築の数々を提案している建築家・山田紗子さん。2025年開催予定の大阪万博では、会場の休憩施設の設計も担当されています。今回は山田さんに、大切にされているデザインや建築家になったきっかけについて伺いました。

建築家・山田紗子

1984年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、東京芸術大学大学院美術研究科建築専攻修了。2007-2011年、藤本壮介建築設計事務所勤務。2013年「山田紗子建築設計事務所」設立。自身の設計活動の傍ら、京都大学、東京理科大学 他で非常勤講師を務める。主な受賞歴に、2020年「第三回日本建築設計学会賞 大賞」、2020年「第三十六回吉岡賞」、2020年「Under 35 Architects exhibition 2020 Gold Medal」、2023年「第3回 小嶋一浩賞」など。

植物と人間の住環境のバランスを整える

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「自宅に小さな庭があるのですが、植物が日々成長して形が変わるので、そこの光の具合や環境というか、切ったり植え替えたりして植物と人間の住環境をバランスを見ながら手を入れているんです。それが日々のデザインかなと思います。雑草の手入れなんか大変でまとめて一気にやるのですが、特に夏の時期は成長が早くて一苦労ですね。」

本棚の横が特等席

Photo : Yurika Kono | 建築家・山田紗子によるゴリラの暮らしにヒントを得た、都市のなかの森のような自邸「daita2019」

建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「一つは自宅のリビングや事務所内の打合せ場所に大きな本棚がいくつかあって、自分や家族の大切な本がずらっと並んでいるのですが、その本棚の背表紙をずっと眺めているのが好きです。自分の好きな本棚の横に自分の席を置いて、基本的にはそこで仕事をしたり休憩をしたりしていますね。」

人と自然の良いバランスをもたらす建築を目指したい

Photos by Suzuko Yamada , Akito Kondo

建築を目指すようになったきっかけはどういったものでしょうか。

「ランドスケープデザインという大きな括りの中に建築設計という物事があり、屋外のデザインをする際にも、人間の暮らしに関わる建築物の設計が、屋外環境に大きく関わってくるんです。

人工的な環境を作らざるを得ないなかで、人工的な環境の中で自然環境がどのような関係をもって現れるべきか勉強したいと考えて、大学は環境デザインを選びました。ただ、それには同時に建築の設計を考える必要もある。大学4年生くらいの時にランドスケープデザインの道に進むか、建築を改めて勉強するかを考えたときに、『楽しそうだ』という単純な動機で建築設計事務所に出入りするようになりました。」

今の自分の行動と未来の関係を意識する姿勢が身についた

山田さんは2007年に藤本壮介建築事務所に入所され、国内外さまざまなプロジェクトを担当されましたが、どのようなことを学ばれましたか。

「建築、環境に関わらず、ものを発想していくことと、それを未来につなげていくことの面白さを学びました。何かを作るときに、常にそれが『未来の可能性をどう拓いていくか』ということを真剣に考えていらっしゃって、模型の造り方とか図面の引き方とか実務的なものもありますが、今自分が引いている線が未来の何に繋がっているのか、ということを常に意識する姿勢を学んで、現在に至るまで影響されています。」

特に印象に残っているプロジェクトはどういったものでしょうか。

「ドイツ語が全然わからないなかで、ドイツの工務店さんのお宅にホームステイをして現場を監理したことがあって、ドイツの文化を日々体感しながら生活の場を作っていくのが面白かったです。」

ドイツの住環境はどのような感じなのでしょうか。

「宗教の影響もあると思うのですが、人と人との繋がりがしっかりしていて、近所の子供たちに対してみなさんがオープンなんです。クリスマスを迎える時期でもあったので、祝祭やイベントごとのコミュニティでの盛り上がり方が印象的でしたね。」

建築設計から人と自然の良い関係を目指す

ご自宅の植物の手入れを通して人間と自然の住環境のバランスを日頃から考えていると語る山田さん。ランドスケープデザインの視点を取り入れた、自然との共生が叶う環境こそ、私たちにとっても豊かで過ごしやすい空間となるのかもしれません。

後編:「自分のこだわりを見つけることから住まいづくりが始まる」建築家・山田紗子が語る自宅のデザインコンセプトと家づくりのポイントについて