サウナも旅もコミュニティも──建築家・クマタイチが広げる建築の可能性
前編:サウナも旅もコミュニティも──建築家・クマタイチが広げる建築の可能性
建築設計にとどまらず、シェアハウスやホテルの運営、トレーラーハウスの活用など、多彩な活動を展開する建築家・クマタイチさん。近年はユニークなサウナの設計でも注目を集めています。
建築の枠にとらわれない活動の背景には、どのような考え方があるのでしょうか。サウナ設計への思いや都市と建築の関係、そしてこれからの建築家像について伺いました。
サウナは自然を楽しむための装置

クマさんは、「SAZAE」や「OKE MON sauna」など個性的なサウナも手がけています。整う空間を設計する際に意識していることはありますか。
「一番大事にしているのは、その場所の環境をどれだけ楽しめるかということです。たとえば、直島にある「SAZAE」は瀬戸内海に面したロケーションに建てていますが、僕にとってあのサウナは、海に入るための装置なんです。

サウナがあることで海に飛び込む楽しさが生まれる。自然をもっと楽しむためのきっかけになる存在だと思っています」
自分の部屋を持ったまま旅をする

クマさんは、近年はトレーラーハウスにも積極的に取り組んでいらっしゃいますね。
「旅先って、どうしても落ち着かないことがあるじゃないですか。でも、自分の部屋そのものを持って行けたら面白いなと思ったんです。そこで、トレーラーハウスに興味を持ちました。
起きたらまったく違う場所にいる。でも部屋はいつもと同じ。その体験がすごく面白いんです。住宅としても、定住にとらわれない新しい暮らし方の可能性もあるんじゃないかと考えています」
都市と建築の境界を考える

数多くの建築作品を手掛けてきたクマさんですが、都市と建築の関係について、現在課題に感じていることはありますか。
「建築コストの上昇や環境問題など、建築を取り巻く条件は年々厳しくなっていて、建築をつくるハードルは確実に高くなっています。そうしたなかで私が課題だと感じているのは、都市と建築の関係が少し分断されてしまっていることです。
一方で、昔の日本には違った関係性があったと思うんです。例えば江戸時代の町並みを見ると、木や紙といった柔らかい素材で建物がつくられ、都市と建築の境界が今よりもずっと曖昧でした。建築が街の風景や自然環境とゆるやかにつながっていたんですね。これからの建築を考えるうえでも、そうした昔の環境から学べることは多いと思っています」
建築家という枠を持たない

これからの建築家には、どんな姿勢が求められるのでしょうか。
「意外に聞こえるかもしれませんが、固定的な“建築家像”を持たないことかもしれません。もちろん建築を軸にはするのですが、『これは建築家の仕事ではない』と最初から線引きしないことが大切だと思っています。
建物はつくって終わりではなく、その後の運営やコミュニティとの関わり方まで含めて価値が決まる時代になっています。設計だけでなく運営やコミュニティづくりにも取り組んでいる現在の僕の活動も、そうした考え方の延長線上にあるんです」
新しい場所との出会いを求めて
クマさんは、現在神楽坂を拠点に活動していますが、今後についてはいかがでしょうか。
「神楽坂での活動を続けながらも、これからはさらにさまざまな地域と関わっていきたいと思っています。日本にはまだまだ知らない場所や、出会ったことのない人たちがたくさんいますからね。
そうした地域に足を運び、その土地ならではの文化や人との関係を築きながら、建築だけでなく運営やコミュニティづくりといったソフト面も含めて活動していけたらと考えています」
Life is「コミュニティ」
最後に、クマさんにとって「Life is ○○」。この○○に入る言葉を教えていただきました。
「“コミュニティ”です。家族をはじめとして、地域や旅先、職場など、人はさまざまなコミュニティの中で生きています。そうしたつながりの中にいることが、人生を豊かにしてくれると思っています」
建築の先にある、人とのつながり
クマさんの活動を見ていると、建築は単なる“建物づくり”ではないことがよくわかります。サウナやトレーラーハウス、シェアハウスの運営も、その先にある人との関係や体験をデザインする試みの一つです。「Life is コミュニティ」という言葉の通り、人と人、人と場所をゆるやかにつなぐこと。その積み重ねが、クマさんの考える建築の本質なのかもしれません。