世界唯一のボンドアートを生み出すアーティスト、冨永ボンドさん
世界で唯一、木工用ボンドを使って絵を描くアーティスト・冨永ボンドさん。作品制作だけでなく、地域活性化や人が集う場づくりにも取り組み、アートの新たな可能性を発信し続けています。今回は冨永ボンドさんに、暮らしの中で大切にしていることや作品への想いについてお話を伺いました。
木工用ボンドで絵を描く画家・冨永ボンドさん

冨永ボンドさんは、世界で唯一、木工用ボンドを使って絵を描く画家として活動するアーティスト。現在は佐賀県多久市を拠点に創作活動を行い、アートスタジオ『ボンドバ』を運営。
家具デザインやグラフィックデザイン、プログラミングなど多彩な分野を経験した後、アーティストの道へ進み、木工用ボンドを独自に着色して描く、ボンドアートを確立。ライブペインティングをはじめ、国内外で作品を発表。
また、世界最大級のアートフェアへの出展経験を持つほか、地域活性化を目的とした『多久ボンドアートプロジェクト』に取り組み、日本一の壁画の街づくりを目指して活動中。
人と人をつなぐ創作拠点『ボンドバ』

暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。
「佐賀県多久市に『ボンドバ』というアートスタジオがあります。敷地は約800坪あり、アトリエやギャラリー・ショップ・印刷所・バー・そして住居まで併設しています。
この中でグッズや洋服を販売し、原画を常に300点ほど展示しています。最初から大きな構想があったわけではなく、活動を続ける中で少しずつ広がっていきました。気づけば今の形になっていました。」
好きな場所・空間について
「お酒が大好きなのでバーが好きです。」
どのようなバーですか?
「毎週金曜日の夜だけ開くバーなんですが、一杯500円で飲めるショットバーです。
私はもともと音楽イベントやレストランでライブペインティングをするアーティスト活動をしており、私が絵を描く際には音楽とお酒が常に共にありました。
今は、地域活性化事業ボールアートプロジェクトなどもやっているので、地域の方や行政の方が飲みに来る場所です。」
さまざまな経験がボンドアートにつながっている
冨永さんのプログラミングや家具デザイン、グラフィックデザインなど、多彩なキャリアについて伺いました。
「今はアーティストとして絵を描いていますが、絵は人生を映す鏡のようなものです。私が手がけているボンドアートも、人と人とのつながりの中で少しずつ変化しながら生まれています。
これまでプログラミングや家具デザイン・グラフィックデザイン・ラジオパーソナリティなど、さまざまな分野を経験してきました。
一見すると関係のない分野に見えるかもしれませんが、異なるもの同士をつなぐことで新しい形や価値が生まれると思っています。
だからこそ、固定観念に縛られるのではなく、やりたいことに挑戦し『やってみて違うと思ったらやめればいい』という考え方や経験やそのときに感じた感情までもが作品の素材になります。
このように積み重ねてきた、さまざまな経験や人との出会いが、今のボンドアートにつながっているのだと思います。」
家具づくりから生まれた『ボンドアート』

世界で唯一、木工用ボンドを使って絵を描く理由について伺いました。
「私は家具デザインの学校に通い、インテリアコーディネートをしていました。若い頃は、家具メーカーに就職をし、家具の組み立てにボンドを大量に使っていたのです。
そこで、ボンドで絵を描こうという着想を得ました。また、ボンドは乾くと透明になりますが、ブラックミュージックの『ブラック』から発想を得て、ボンドを黒くして描き始めたのがボンドアートのはじまりです。」
人と人をつなぐ場所として育った『ボンドバ』
佐賀県多久市にある、800坪もの広さを持つアートスタジオボンドバは、どのようなコンセプトで運営されていますか?
「『ボンドバ』は、ボンドでつなぐ場所という意味を込めています。もともと私は、ライブペインターとして活動していたので、今のように個展を開くことはほとんどありませんでした。
そのため、これまで描いてきた作品は、佐賀県多久市にあるボンドバでしか見ることができなかったのです。すると、福岡をはじめ遠方から作品を見に来てくださる方が少しずつ増えていきました。
せっかく足を運んでいただくなら、何かおもてなしができないかと思い、まずはカウンターを作りました。カウンターを作ったことで『バーもやってみようか』という話になり、毎週金曜日にバー営業を始めました。このように活動を続ける中で、ボンドバのスタイルは少しずつ変化していったのです。
最初から今の形を目指していたわけではありません。ただ、人が集まり、人と人がつながる場所として自然に育ってきました。今でもその役割は変わりません。」
海外で評価されるのは「ザ・日本」の表現

世界最大級のアートフェア『アートエキスポ・ニューヨーク』など、海外でも活躍する冨永さんに、海外で評価されるポイントについて伺いました。
「一言で言うと『ザ・日本』だと思います。海外では、日本の文化がとても評価されやすいです。例えば、銀箔や富士山、日本特有の動植物など、日本にしかないものを表現した作品は特に関心を持ってもらえます。
最近は、ボンドを金色にして作品を制作することもあります。そこには、日本の伝統文化である『金継ぎ』の考え方を取り入れています。
壊れたものを直しながら使い続けるという考え方には、日本人ならではの美意識があると思っています。経年美や侘び寂びといった価値観も含めて、このような『日本らしさ』が海外で評価されることが多いですね。」
世界で通用するのは、その人にしか作れない作品
「日本らしさも大切ですが、独自性も大事だと思っています。誰かの真似ではなく、その人にしか作れない作品であること、作品を見た瞬間に『これはあの人の作品だ』と分かることが重要です。
例えば、草間彌生さんの水玉模様や、特徴的なモチーフを持つ作家の作品は、一目見ただけで誰の作品か分かりますよね。」
アートで地域と未来をつなげたい
アートを通じて地域づくりにも取り組む冨永さんに、これから実現したい未来について伺いました。
「AIの発展によって、これから人の仕事は大きく変わっていくと思っています。現在は東京に人が集中していますが、将来的には仕事や暮らし方の変化によって、人が地方へ戻ってくる時代が来るかもしれません。
そうなった際に、地域に魅力や受け皿があることが大切だと考えています。そのために私は、佐賀県多久市を拠点に活動を続けています。今後は東京にも拠点を作り、二拠点で活動しながら地域と都市をつなげていきたいです。」
また、冨永さんは12年前から「多久ボンドアートプロジェクト」に取り組んでいます。
「多久市に新たな観光資源をつくりたいという想いで始めたプロジェクトです。現在は市内に約80か所の壁画があり、日本一の壁画の街を目指しています。
全国からアーティストを招きながら、地域の魅力づくりを続けています。」
AI時代だからこそ高まるアートの価値

AIの進化によって社会が大きく変化する中で、アートの役割について伺いました。
「音楽や文章など、AIが生み出せるものはどんどん増えています。しかし、アートは人が作ることそのものに価値があると思っています。
ライブペインティングもそうですが、作品が生まれる過程や、そこに込められた感情は人だからこそ表現できるものです。だからこそ、AI時代になればなるほど、人の手で生み出されるアートはより注目されるようになると思っています。」
今後チャレンジしたいこと
冨永さんがこれから挑戦したいことについて伺いました。
「多久ボンドアートプロジェクトをさらに発展させ、日本一を目指していきたいです。そしてもうひとつは、アートの役割です。私は、人にとってアートは『作ること』そのものに価値があると思っています。
作品を鑑賞するだけでなく、制作する過程にはヒーリング効果やアートセラピーのような心の修復をするのがアート、まさに金継ぎなんです。
私は、ボンドアートの独自の創作プロセスで人の心の修復をしていく、芸術流法やアートセラピーなどの分野も開拓していきたいです。」
Life is ドリーム
インタビューの最後、冨永さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is ドリーム」と答えてくれました。
「Life is アートと言いたいところですが、Life is ドリームですね。夢は生き甲斐です。」
アートの力で新たな価値を生み出す冨永ボンドさん
ボンドアートという独自の表現を通じて、人と地域をつなぎ続けている冨永ボンドさん。
作品制作だけでなく、アートスタジオ『ボンドバ』の運営や地域活性化プロジェクトなど、その活動は多岐にわたります。
また、AIが進化する時代だからこそ、人が生み出すアートの価値や可能性を信じ、アートによる心の修復や新たな地域づくりにも挑戦されています。
今後のさらなる活躍にも期待が高まります。