人が集まる場所はどう生まれる?──建築家・クマタイチが考える居心地のいい空間

建築は建物を設計するだけでなく、人と人とのつながりや、その場所ならではの時間を生み出すこともできます。そんな考えのもと、建築設計だけでなく、シェアハウスや店舗、ホテルの運営にも取り組んでいるのが建築家・クマタイチさんです。

東京・神楽坂を拠点に活動するクマさんは、自ら地域に暮らしながら、人が自然と集まる場づくりを実践しています。今回は、暮らしの中で大切にしていることや建築家を志した原点、そして人が集まる空間づくりについて伺いました。

建築家・クマタイチ

建築家。TAILAND主宰。工学博士。1985年、東京都生まれ。2020年、TAILANDを始動。ソフトとハードをつなぐをコンセプトに、設計とシェアハウスやホテル、レストランなどの運営を行う。「隈研吾建築都市設計事務所」のパートナーも務める。代表作に「SHAREtenjincho」「SAZAE」「BANRAI HANTEN」など。
Instagram @taikuma
https://taichikuma.jp/

小さな車がつくる豊かな時間

暮らしの中で大切にしているデザインについて教えてください。

「家の設計ももちろん大事なんですが、実は普段乗っている車も気に入っています。東京都内はスマートというドイツの小さな車で移動しているんですけど、その中で仕事をしたり、考え事をしたり、リラックスしたりすることが多いんです。単なる移動手段ではなくて、人生を豊かにしてくれる空間の一つだと思っています。

僕が乗っているのは、屋根が開くカブリオレタイプ。かなりコンパクトな二人乗りなんですが、屋根を開けることができるので、意外と窮屈さがないんです。天気のいい日は陽を浴びながら走ることもできます」

神楽坂の銭湯で過ごす時間

お気に入りの場所や空間についても伺いました。

「事務所がある神楽坂には昔ながらの銭湯がいくつか残っていて、週に1〜2回は通っています。なかでもお気に入りなのが『第三玉の湯』です。

都内では珍しく露天風呂があって、お風呂に入ったあとに外気を浴びる時間が本当に気持ちいいんですよ。サウナでいう“ととのう”に近い感覚かもしれません。

建築家という仕事は常に空間について考え続ける仕事ですが、銭湯のような場所にいると肩の力が抜けて、純粋にその空間を楽しめるんです。僕にとっては、日常のなかでリセットできる大切な場所ですね」

建築家が身近だった子ども時代

Via : @taikuma

ご両親は建築家の隈研吾さんと篠原聡子さん。建築家という職業は幼い頃から身近な存在だったのでしょうか。

「そうですね。学校が終わったあとに母の設計事務所で過ごすこともありましたし、設計事務所が日常の風景の一部でした。建築家という仕事そのものを特別な職業だと思ったことは、あまりなかったかもしれません。

ただ、その仕事の面白さを実感したのは父との旅でした。父と一緒にヨーロッパやアメリカ、アジアなどを訪れる機会があったんです。もちろん建築を見ることもありましたが、それ以上に印象に残っているのは、その土地の人たちとの出会いでした」

旅先では建物を見るだけでなく、現地の人々との交流も多かったそうですね。

「そうなんです。子どもの頃は建築そのものよりも、人との交流のほうが印象に残っていたかもしれません。

建築家の仕事というと建物を設計するイメージが強いですが、実際にはその土地の人と話をしたり、一緒に食事をしたりする時間もとても多いんです。国によって人との関わり方も違いますし、そうした文化の違いに触れるのが面白かったですね。

今振り返ると、建築そのものというより、建築を通じて人や地域とつながることの魅力を、あの頃から感じていたのかもしれません」

自分が行きたくなる場所をつくる

クマさんは、神楽坂でシェアハウスやシェアオフィス、シェアキッチンを運営する「SHARE by TAILAND」にも取り組んでいます。人が集まる場をつくるうえで大切にしていることは何でしょうか。

「まずは、自分自身が『行きたい』『居心地がいい』と思える場所をつくることですね。どのプロジェクトもそこから始まっています。

また、つくって終わりではなく、自分も地域で暮らしながら運営に関わり続けることも大切にしています。そうすることで利用者の反応がダイレクトに伝わってくるんです。

実際に『こういう場所がこの街になかったからうれしい』と言っていただけることがあります。若い方からご年配の方まで、世代を問わずそうした声をいただけるのは本当にありがたいですね。地域に必要とされる場所になれている実感があります」

自分が居たい場所が、人の集まる場所になる

クマさんの建築や場づくりの原点にあるのは、「自分自身が居たいと思える場所をつくる」というシンプルな考え方です。建物を設計するだけでなく、自ら地域に関わり、運営まで担うことで、人と場所との関係を育てていく。そんな姿勢が、神楽坂での活動にも表れています。

建築は完成した時点で終わるのではなく、人が集まり、時間を重ねることで豊かになっていくもの。クマさんの取り組みからは、そんな建築の可能性が見えてくるようです。

後編:サウナも旅もコミュニティも──建築家・クマタイチが広げる建築の可能性(7月11日 公開予定)