建築家・高松伸のポストモダン建築や菊竹清訓のメタボリズム建築など、鳥取県の建築7選。
鳥取県には、著名な建築家たちが手掛けた、個性豊かな建築物が点在しています。ポストモダン建築の旗手である高松伸が手掛けたシャープなデザインの建築や、メタボリズム建築を代表する菊竹清訓による独創的な構造を持つ建築など、建築ファンならずとも必見の作品が目白押しです。建築を通して鳥取の文化や歴史、そして未来を感じ取ってみませんか?この記事を読めば、鳥取の新たな魅力に出会えること間違いなしです。
1.植田正治写真美術館/高松伸
建築家・高松伸が設計した「植田正治写真美術館」は、写真家・植田正治の作品世界と、周囲の雄大な自然が見事に融合した建築です。最大の特徴は、コンクリート打ち放しの壁とスリット状の開口部が生み出す、独特の幾何学的フォルムです。このスリットからは、背景にそびえる大山(だいせん)の雄姿と、水面に映る「逆さ大山」を望むことができ、まるで額縁におさまった絵画のような風景を作り出しています。これは、植田正治の代表作「少女四態」をモチーフに設計されたと言われています。
建物自体が巨大なカメラのような役割を果たしており、自然光を効果的に取り入れることで、展示空間に独特の陰影と奥行きを与えています。内部には、植田正治の作品の展示室のほか、世界最大級のカメラレンズを展示する映像展示室や、人工池などが設けられ、植田正治の写真世界を多角的に体験できる工夫が凝らされています。無機質なコンクリートと、周囲の自然とのコントラストが印象的な、他に類を見ない美術館です。
2.みなとさかい交流館/高松伸
建築家・高松伸が設計した「みなとさかい交流館」は、境港の玄関口に位置する、海と港のイメージを大胆に表現した建築です。最大の特徴は、金属を多用した未来的でシャープな外観です。波打つ屋根は日本海の荒波を、垂直に立つマストのような構造物は港に停泊する船をイメージしており、港町のランドマークとして存在感を放っています。高松氏特有の幾何学的でメカニックなデザインが際立っており、見る角度によって様々な表情を見せるのも魅力です。
内部は、フェリーターミナルとしての機能を満たす広々とした空間が確保されています。近年、雨漏り防止の改修工事が行われ、外観は当初よりシンプルなデザインに変更されていますが、高松伸のデザインの特徴である金属の質感やシャープなラインは健在です。境港を訪れる人々を出迎え、送り出す、まさに港の顔と言える建築です。
3.東光園/菊竹清訓
建築家・菊竹清訓が設計した鳥取県皆生温泉の旅館「東光園」は、1964年に竣工した本館「天台」が特に有名で、登録有形文化財にも登録されています。最大の特徴は、巨大な6本の柱が2枚の大梁を支え、その大梁から上層階(5・6階)の客室フロアを吊り下げるという、他に類を見ない構造です。これは、出雲大社の柱や神社の鳥居をモチーフにしたと言われており、空中に浮遊するような独特の外観を生み出しています。建物の中ほどには、下から支えられた宴会場などの階と、上から吊られた客室階の間に空間(スキマ)があり、複雑な構造を際立たせています。
4階部分にはピロティがあり、空中庭園として機能し、地上庭園だけでなく大山や日本海を望むことができます。庭園は彫刻家・流政之氏によって作庭され、建物と一体となった景観を作り出しています。外観だけでなく、ロビーなどに見られる「組み柱」も特徴的です。
4. とっとり花回廊・鳥取県立フラワー・パーク/堀越英嗣/アーキテクト・ファイブ
建築家・堀越英嗣とアーキテクト・ファイブが設計した「とっとり花回廊」は、花と自然、そして建築が一体となった大規模なフラワーパークです。最大の特徴は、全長1kmの屋根付き回廊です。この回廊は、雨の日でも快適に花々を鑑賞できるように設計されており、公園全体を緩やかに繋ぐ役割も果たしています。回廊自体も、周囲の自然に溶け込むような、緩やかな曲線を描いたデザインとなっています。
また、フラワードームと呼ばれる大温室は、ガラスと鉄骨で構成された巨大な空間で、熱帯植物などが展示されています。このドームは、周囲の山並みと呼応するように、柔らかな曲線を描いた屋根が特徴的です。全体として、自然との調和を意識したデザインが随所に見られ、建築とランドスケープが一体となった空間を作り出しています。花々を主役としながらも、建築自体も景観の一部として、来場者を楽しませる工夫が凝らされています。
5.倉吉市役所庁舎/丹下健三+岸田日出刀
建築家の丹下健三と岸田日出刀が共同設計した倉吉市役所庁舎は、1957年に竣工した、丹下建築の初期の傑作として知られています。最大の特徴は、RC(鉄筋コンクリート)打放しによる構造体を強調した、力強いモダニズム建築であることです。水平と垂直のラインを強調したシンプルな構成は、同時期の丹下の他の作品にも共通する特徴です。特に、ダブルビームの大梁は、力強い印象を与えています。
また、傾斜地に建っているため、建物全体の高さを抑えつつ、内部空間に変化を与えているのも特徴です。市民ホールと呼ばれる吹き抜け空間は、細かい梁が組み合わさった屋根と格子状のトップライトから差し込む光が印象的で、木漏れ日のような効果を生み出しています。岸田日出刀は丹下の東京大学時代の恩師であり、この庁舎は師弟の共同作品としても注目されています。DOCOMOMO Japanによる「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」にも選定されており、日本の近代建築史においても重要な建築物の一つです。近年、増築や耐震補強が行われ、竣工時とは多少変化していますが、丹下建築の原点を感じられる貴重な建築です。
6.米子市公会堂/村野藤吾
建築家・村野藤吾が設計した米子市公会堂は、1958年に竣工した、曲線とタイルが印象的な建築です。最大の特徴は、グランドピアノをモチーフにしたと言われる、有機的で優美なフォルムです。特に、波打つような屋根の形状は、音楽の旋律を表現しているかのようです。外壁には、山陰特産の石州瓦を特注で焼成した紫がかった褐色のタイルが貼られており、独特の温かみと重厚感を醸し出しています。このタイルは、建物全体を有機的に見せる効果も生み出しています。
内部は、ホールを中心とした構成で、曲線を描く天井など、外部と同様に柔らかな印象です。市民の寄付によって建設されたこともあり、市民に親しまれる公共建築として、長年愛されてきました。近年、耐震改修が行われ、屋根は軽量化されましたが、外観は可能な限り竣工時の姿が再現されています。村野藤吾らしい、ディテールにこだわった意匠が随所に見られる、貴重な建築遺産と言えるでしょう。公共建築百選にも選定されています。
7.倉吉パークスクエア/シーザー・ペリ+大建設計
建築家シーザー・ペリと大建設計が共同で設計した倉吉パークスクエアは、2001年にオープンした複合文化施設です。最大の特徴は、木造トラス構造で構成された巨大なアトリウムです。このアトリウムは、ガラス張りの屋根から自然光が降り注ぎ、開放的で明るい空間を作り出しています。木材を多用することで、温かみのある雰囲気を醸し出し、地域の人々が集う交流の場として機能しています。雪の多い地域性を考慮し、全天候型の屋内空間として設計されている点も特徴です。
アトリウムを中心に、鳥取二十世紀梨記念館「なしっこ館」や倉吉未来中心などの文化施設が配置され、一体的な空間を形成しています。シーザー・ペリらしい、幾何学的でありながらも周囲の環境に調和したデザインが特徴的です。地域の活性化に貢献するランドマークとして、市民に親しまれています。
ユニークな鳥取県の建築
鳥取県に点在する7つの建築を通して、その多様な魅力に触れてきました。高松伸の鋭利なデザインが際立つ建築、菊竹清訓の革新的な構造美が光る建築、村野藤吾の温かみのある意匠が息づく建築など、それぞれの建築家が鳥取の地に独自の足跡を残しています。