隈研吾がこだわる建築のカタチとは一体?今だからこそ、日本人建築家への想いを語る。

前編:建築家・隈研吾が語る。自身こだわりの暮らしスタイルや、今後の暮らしデザインに必要なこと。

2週に渡ってゲスト対談をお届けしている福岡のラジオ放送CROSS FM「ライフスタイルメディア #casa」。今回の記事では、隈研吾氏の2週目のレビューを紹介する。1週目の内容は「建築家・隈研吾(くま けんご)が語る。自身こだわりの暮らしスタイルや、今後の暮らしデザインに必要なこと」にて公開中。今回も、隈氏から溢れる「あたたかい」ストーリーと、こだわりの建築について深くお話いただいた。

隈研吾が建築家を志すキッカケ

隈研吾氏が建築に初めて興味を持ったのは、1964年の東京オリンピック。まだ10歳の隈少年は、丹下健三氏が建築した代々木体育館の建築に心を奪われた。

隈氏は「天に向かって消えてくみたいな建築に唖然とした」と当時受けた感情を言い表してくれた。まだ1960年代の東京は木造の一階建て・二階建ての建築が主流な中で、高く聳え立つ丹下氏の建築に共鳴したという。

約50年の月日を経て、隈氏が新国立競技場のデザインを担当する。これはもう「運命」と言い表したくなる。

新国立競技場の提案が選定された時は、大変なことになったなと思った

隈氏は、新国立競技場の提案が選定された瞬間の感想を「大変なことになったな」と述べた。

というのも、当時オリンピック関係のニュースといえばエンブレムの著作権問題などで色々とゴタゴタが続いていた。隈氏は、メディアや国民が「オリンピック=なんか問題があるだろう」という目で見ているように感じたという。

そのような状況下で隈氏の背中を押したのは、約50年前に隈少年が出会った丹下健三氏の建築との記憶だった。

あの丹下先生がやったことを、自分もやり遂げるチャンス。その想いが隈 氏の決断を促したのだ。

新国立競技場の建築で実現したかった空間とは?

全体のフォルム、木の質感、周囲の環境との調和などが美しい新国立競技場。

日本を感じさせる佇まいの秘密には、隈氏が大切にする「自然に溶け込み、馴染むこと」がここでも鍵を握っていた。

今回の立地は明治神宮の外苑にあたり、そこには神社の杜が広がっている。その景色や歴史と馴染むように、日本らしい「木でできた和のテイスト」を起用した。

隈研吾がこだわる「日本のアイデンティティ」

和を取り入れながらも近代的で個性豊かなデザインが美しい、隈研吾の建築。

隈氏の建築は数多くの賞も受賞し、日本のデザイン的アイデンティティを打ち出すことに成功している。

今回、隈氏は「失われつつある日本のアイデンティティには、どんな戦略が必要になってくるか?」という質問に対して、熱くその想いを語った。

日本で建築をやっていた時は、日本の建築の技はそれほど特別なものとは感じていなかった隈 氏。しかし、海外で建築をするようになって、その感覚は違うと気づいたという。

Garden Terrace Nagasaki © Daichi Ano
Garden Terrace Nagasaki © Daichi Ano

今、隈氏は「日本のデザインや木を使った技術があれば世界一になれる」と強く断言している。

なぜなら、実際に海外で建築を作り、見てきたからこそ「日本の木造技術やデザインは、世界でも飛び抜けたものだ」と知ったからだ。

そして「そういったことを日本人自身が気づいていない、自信も持っていないことが一番問題」と強い感情を交えながら述べる隈氏は、日本人が「失われつつある」と勘違いしている日本のアイデンティティに勿体なさすら感じているように思えた。

実際に「建築で木を使うことが地球温暖化にとっても対策になる」と色んなシュミレーションで分かってきており、日本だけでなく世界中で木を使った建築デザインがトレンドになっている。その様子について隈氏は「木を使う競争が始まった」と述べ、世界で木を用いた建築デザインの認知について言及している。

いまブームの「小さい住まい」への暮らしスタイル

Jyubako @ Kengo Kuma & Associates

隈研吾氏は、旅するタイニーハウス「住箱」の建築を手がけたことでも知られる。隈氏こだわりの木で作ったトレーラーハウスは、ミニマムな生活だからこそ楽しめる暮らしスタイルを追求した新しい住まいだ。

旅するトレーラーハウス「住箱」は、隈研吾本人が「ずっと作りたかった」と言っていた住まいの形としても知られ、この話をする彼の口調は楽しげだった。

Jyubako @ Kengo Kuma & Associates

「20世紀は大きいものが目的だった。ビルなら超高層。家でも豪邸。」と話始めた隈氏は、今ブームの「小さい住まい」についてこう語った。

「今は逆に小さなものがかっこいい。小さいものの方が自然との距離が近くなるし、人間を幸せにしてくれる」という時代が来ているという。

これは昨今話題になっている「人生の捉え方」や「仕事スタイル」とも通ずることがあるであろう。

「野原の中で、僕の木のトレーラーハウス「住箱」で仕事をすると気持ちいいですよ~」とワクワクしながら話す隈氏からも、その大切さが感じられた。

隈研吾の「LIFE IS 〇〇」

毎週様々なジャンルのゲストを招いて対談をお届けしている福岡のラジオ放送CROSS FM「ライフスタイルメディア #casa」。対談の最後には、ゲストそれぞれの「LIFE IS 〇〇(人生とは)」を尋ねるのがお決まりになっている。

隈研吾はその質問に「LIFE IS WOOD」と答えた。「人間は、もっと木の暖かさと近く生きていかなければいけない」という考えから「WOOD(木)」というワードを選んだのだ。

「木でできた建築」というフィルターを通して、人々の暮らしや人生、そして心を癒す、隈 研吾の建築。そこにある自然と馴染み、共に生きる「あったかい暮らし」にこだわるそのカタチの原点には、彼自身の「あったかい」人間味がポッと灯しているのであろう。

【9/16】隈研吾さん(建築家)