建築家・武田清明による、傾斜地を生かし自然と人工の合作した住まい「5つの小さな擁壁の家」

2022年日本建築学会作品選集新人賞を受賞し、住宅や別荘、事務所やインテリアまでも手掛けている建築家・武田清明。そんな武田が手掛けた東京・世田谷区の住宅「5つの小さな擁壁」は、傾斜地を生かしてつくった擁壁が、室内に多様な居場所をつくりだしている住まいです。

傾斜地を生かした住まい「5つの小さな擁壁」

©masaki hamada

「5つの小さな擁壁」は、世田谷区の敷地内で険しい地形の中腹に佇んでいます。周辺宅地のほとんどは、コンクリート壁で造成された均質な土地の上に家を建てる形式をとるなか、この地は土地の高低差が3.5mもある環境でした。

そこで武田は、この地形を活かすように大地のリノベーションから始めたのです。

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まずは小規模の掘削を行い、そこに生み出された土の高さに合わせ、擁壁をその場所ごとに考えることから始めました。すると、自然と人工の合作のような「5つの小さな擁壁」が建ち現れたのです。

各擁壁の形は異なっていますが、すべてL字、T字といったリブ付きの平面形状とし、なるべく薄い厚みで土圧を支えています。そうすることによって、擁壁という土木的異物を人間の生活空間に馴染む存在とし、地熱環境も含めて家の中に取り込めることができるのです。

RC造と木造の上下2層構成

©masaki hamada

建物は、下層はRC造で上層は木造の上下2層構成です。

下層のRC空間は、 俗に言う木造の床下スペースを室内としたもの。そこにスキップフロアを設けて、高さが5.9mある天井吹抜けの開放感を感じられるワンルームとなっています。

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上層の木造は、吹抜けに梁を空中露出させ、今後も自由に増床しやすい開放的な架構です。

ひんやりと一定の温度を保つ1階部分と、日が当たる上階。あえて環境のムラを許容することにより、その時々で心地よい居場所を選び取るように暮らせるのです。

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階数ごとに、それぞれ異なる環境や構造が混在しており、室内に多様な居場所をつくりだしています。

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キッチンには、4mのキッチンカウンターがあります。ダイニングテーブルとキッチンの高さをフラットにすることにより、どこまでもキッチン台として使えるように工夫されています。

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壁一面の窓からは、優しい光が降り注ぎ、木材で室内が柔らかな印象に。

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外観は、スタイリッシュでシャープなデザインです。日が暮れた後には、多灯使いをしている照明がより雰囲気を醸し出しています。

この土地ならではの個性を持った住宅「5つの小さな擁壁」

傾斜地を生かし、自然と人工の合作ともいえる住宅「5つの小さな擁壁」。手掛けた武田は、次のようにコメントを残しています。「“場所”に住んでいる実感を取り戻したい。それは、単に床を土にすることでは得られない。自然と人工の葛藤によって大地のストラクチャーをつくりだし、人がそれに支えられ包まれることではじめてその実感を得られるのではないだろうか。地表から生えたような生命感、それで満ち溢れた建築を目指した。」

家の土台である地形をあえて生かした住宅は、私たち人間が忘れかけている地球や大地、自然との繋がりを今一度感じられることでしょう。