アートの力で手伝うことで、地域・島を元気にしたい。アートディレクター・北川フラムの想い

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」など、芸術祭や展覧会などのディレクターを務める、世界的アートディレクターである北川フラムさん。2021年はコロナの影響から大地の芸術祭の開催はかないませんでしたが、2022年4月29日〜11月13日での開催が決定。「瀬戸内国際芸術祭2022」は4月14日より開幕します。地域に根付いた芸術祭をディレクションする北川さんは、一体どのような想いから活動をしているのでしょうか。デザインやアートに対する思想について、詳しく伺いました。

photo by Mao Yamamoto

1946年新潟県高田市(現上越市」生まれ。アートフロントギャラリー主宰。アートによる地域づくりの実践として、大地の芸術祭、瀬戸内国際芸術祭のほか、「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス」「北アルプス国際芸術祭」「奥能登国際芸術祭」で総合ディレクターをつとめる。

暮らしの中で大切にしているデザイン

北川さんが「暮らしの中で大切にしているデザイン」は、モノをできるだけ増やさないこと。部屋が狭いため、モノを増やさないことがデザイン的に1番重要だと考えているといいます。欲しいモノは我慢するのかと思いきや、モノを持ちたいとほとんど思わないそう。洋服もできるだけ使い古して、なるべく買わない。

「それでもいただくものはあるし、本はどうしても増えていくので、部屋はだんだん狭くなっていきますから。本はまとめて、時々寄贈もしています。」そんな北川さんの好きな場所・空間は「地方の海や山」とのことです。

北川さんが考える、アートが周囲に与える影響や可能性

マ・ヤンソン/MADアーキテクツ《Tunnel of Light》Photo : Osamu Nakamura 越後妻有 大地の芸術祭

作品自身が大きな力や訴える力を持っていたり、癒されたりすることもあるけれど、それと同じように重要だと語るのが、「作品を作っていく過程」。「アートが設置される場所を大掃除して、捨てなきゃいけないものもある。手間はかかりますが、アーティストとお話をして作品作りを手伝う。作品自体が完成してからも、色んな人にお伝えしていくとか、芸術祭の場合は受付をするとか、作品そのものじゃないところの活動が多い。」と話します。

北川さんによると、アートは「赤ちゃんみたいなもの」。面白いし素晴らしいけれど、手間もお金もかかる。「アートを作っていく過程で生まれるコミュニケーションには、ものすごく大きな力があると思っている。それが日本では、地域型の芸術祭が進んでいる理由になっていると思います。」と語りました。

ジャウメ・プレンサ「男木島の魂」Photo: Osamu Nakamura 提供:瀬戸内国際芸術祭実行委員会

最近ではアートも多様化し、関わる人が多くなっているそう。いろんなアートの形がある中で、やはり北川さんが注目するのは、作品だけで成立していない周りの環境を含めた展示。「周りの家や空間、地域とか、それらを含めて体感してもらわらないと、アートそのものがわかりにくい」と語ります。

「例えば、ホワイトキューブなど、ギャラリーの白い高い壁でやる場合は割と遮断されてるからわかりやすい。でも僕が手伝っているアートは、元々ある都市の環境や地域から伝わってくるものが多いようなので、現場に行かないとわかりにくく、感動しにくいのでは。」

アートを通して島の魅力を伝えたい

Photo: Osamu Nakamura

香川県と岡山県の間の12の島々で開催される「瀬戸内国際芸術祭」。昔の瀬戸内海は、アジアから様々な人がやってくる日本の動力源であり、有史以来、日本列島のコブクロみたいな存在だったそう。栄養が豊かで穏やかな海は重要視されていましたが、日本の近代化、高度成長期においては、産業廃棄物が不法に捨てられたり、亜硫酸ガスを出す精錬所が建てられたりと、島は社会と分断、隔離されてきた歴史があります。

「日本は世界から色んな人たちが来られて、極東の島国でありながら文化的には豊かだった。それは、海をつなげてやってきたことなんですよね。だけど今は大都市が中心になり、島から離れていく。病院や高校の問題もあるから、移動せざるとえない。島の力が落ちてきているんです。」

清水久和 「オリーブのリーゼント」 Photo: Kimito Takahashi 提供:瀬戸内国際芸術祭実行委員会

そんな大切な地域や島を、どうやったらアートが手伝って元気になれるかと考えた北川さん。その土地の特徴や力がわかるような、島が元気になるような活動をしたいと考え、芸術祭のテーマには「海の復権」を掲げています。「海が自由に、島が止まり木のような場所になるといいなと。島にいることが誇りになれるように、面白いと思われるようにお手伝いをしたい」と話してくれました。

妹島和世+西沢立衛「直島港ターミナル」 Photo:Daisuke Aochi 提供:瀬戸内国際芸術祭実行委員会

島それぞれで風景が異なることから、「できるだけいろいろな今に足を運んでほしい」と語る北川さん。じっくりと鑑賞される方は3〜4泊、中には徳島から毎週訪れている方もいたようです。

人生とは、厳しいけど楽しい

今後の芸術祭などアート活動について伺うと、まだ様子が読めないとのこと。「外国のアーティストが動けない状態なので、丁寧に情報をお伝えしています。海外のお客さんも目処が立たないですが、国内からたくさんの方に来ていただけるよう、丁寧にお伝えしています。」

そんな北川さんにとって、ライフとは「厳しいけど楽しい」ものと語り、インタビューを締めくくってくれました。「瀬戸内国際芸術祭2022」は、春の会期が4月からスタート。ぜひ感染対策に気をつけながら、アート観賞を楽しんで海や島の魅力を堪能してみてはいかがでしょう。