約100年前に実践されていた!自然を活用した環境共生住宅の先駆け「聴竹居」

地球温暖化や資源エネルギーの問題など、そうした暮らしを取り巻く環境の課題は多岐にわたります。そんな環境による問題を解決する工夫が込められている住まいを環境共生住宅と呼びます。

昭和のはじめ、今から約100年程前に京都の天王山の麓に建てられた個人邸、「聴竹居(ちょうちくきょ)」は建築家・藤井厚二による自邸であり、環境共生住宅の先駆けともいえる住まいです。

今でこそ環境とのバランスを求められる住宅において、当時では珍しく環境工学の知見を設計に取り込み具現化されたものです。聴竹居は日本の環境共生住宅の原点として現代においてその価値が改めて注目され、2017年に国の重要文化財として指定されました。

自然の力を活用した室内の空気環境

写真提供;竹中工務店、撮影;古川泰造

京都府大山崎の天王山の麓、なだらかな道の先に複数の民家があり、その先の緑の豊かな木々の間に聴竹居はあります。玄関を上がるとまず広々とした居室が目の前に広がります。室内はいわゆる現代の住宅のリビングにあたる板間の居室から食事室・客室・縁側・読書室が続き、それぞれ仕切りを開けば緩やかに繋がる空間として設計されています。

写真提供;竹中工務店、撮影;古川泰造

室内に穏やかに流れる空気の秘密は、住居の周辺環境を生かしてつくり出されています。天王山には淀川からあがる西風が吹くため、それを床下から室内にうまく取り込んで空気の循環を生み出しているのです。

また、天井には調湿効果を求め和紙が5重に貼り重ねられていたり、広々とした縁側の天井にも一見それとはわからないようにつくられた排気口があり、スライドすると室内の暖められた空気が天井裏へ抜けていく仕組みとなっています。様々なポイントで自然の流れを組み込んだ室内環境をつくり出しているのですね。

藤井のこだわりがみえる聴竹居の美学と機能

写真提供;竹中工務店、撮影;古川泰造

藤井は住まいに対して室内の環境といった機能面だけではなく、デザインも含めた「全て」にこだわりを見せました。例えば縁側。庭に面した軒には調光の機能も備える庇があるものの、縁側から外を眺めると視界の邪魔になると考え、微妙にその長さを調整しています。また、縁側の庭に面した窓は上部が擦りガラスになっており、日差しを柔らかく取り入れることで間接照明のような効果を得ています。

隅々まで行き渡る住まう人への気遣い

写真提供;竹中工務店、撮影;古川泰造

また、居室から続く食事室は、段差により空間が緩やかに分離され、天井から円形にくりぬいたような仕切りをつけることで、繋がりを保ちつつもプライバシーが守られた居心地の良い空間を創り出し、家族との心地よい距離感を感じさせます。

また、藤井のこだわりは家具にまで至ります。座った時の目線まで設計された客間の椅子は当時の人々の服装が和服が一般的だったため、帯を締めた客のために座りやすく背面を計算して抜けさせています。各部屋、各箇所、各部材、各家具に住まう人への心遣いが貫かれているのです。

写真提供;竹中工務店、撮影;古川泰造

藤井が目指したのはただの機能美ではなく、自然と人間の共生を意識した機能美だったのでしょう。視覚的な美しさだけでなく、住まう人の心地よさを環境も生かしながらとことん追求し、細部にまで執拗にこだわった結果、環境共生住宅としての聴竹居が完成したのでしょう。

聴竹居が示す豊かな住まい方とは

写真提供;竹中工務店、撮影;古川泰造

今から約100年前に建てられた聴竹居は、藤井が求め続けた“日本の気候・風土を生かした日本人の身体に適した住宅”の集大成といえます。聴竹居には、豪邸ではない自邸のつつましさがありながら、なおかつ日々の豊かさな暮らしを実現するための工夫と知恵が詰まっていました。聴竹居に示されるように、人が自然と環境に真摯に向き合った理念や技術による環境住宅が増えることで、より良い世界、より良い暮らしが目指せるかもしれませんね。

聴竹居

開館時間:水・金・日曜日10:00~15:00
URL : http://www.chochikukyo.com
住所:〒618-0071 京都府乙訓郡大山崎町字大山崎谷田31