建築家・手嶋保が手がけた光が演出するさまざまな表情を楽しめる都市型の住まい「菊坂の家」

東京・文京区の古い家並みが残る菊坂に面して建てられた、手嶋保の「菊坂の家」。住宅街の中に建つ打ちっ放しのコンクリートの外壁、そして重厚で上質な雰囲気をも感じさせる。一見周りの雰囲気から浮いているようにも見えるが、家のすぐ横には子供たちの遊び場でもある外階段があり、外部とのつながりも意識した住宅に仕上がっているのだ。そんな「菊坂の家」を、詳しく見ていこう。

外部の階段とつながる空間作り

「菊坂の家」は地下1階、地上3階建て。ご夫婦と子供2人の計4人が暮らす住宅だ。部屋のスペースを十分にとるために、隣接する土地との隙間を最小限に抑え、生活空間を最大限確保。

また防火地域などの法的対応が必要だったことから、壁式鉄筋コンクリート造になったという。人通りの多い北側には壁を3層立ち上げ、コーナーには幅165mmのスリットを設けている。外階段に面した開口部は窓台を床から300mmにすることで、座って外を眺めることが可能だ。行き交う人を眺めたり、会話を楽しんだりするのも良いだろう。

4層を貫いて自然光を届けるデザイン

主寝室は地下1階に設けた。差し込む光が少ないようにも見えるが、正面上部は4層吹き抜けになっており、繊細で儚げな光が降り注ぐ。柔い光によって、幻想的な空間に。

1階から2階へ続く階段では、光と影によって多彩な表情が生み出されている。その日の天気やコンディションによって、毎日変わる様子を観察するのも楽しめそうだ。

こちらは、2階のリビングダイニングキッチンの様子。テーブルと椅子も設計者によるオリジナルデザインとのこと。左手の壁のスリットから、そして階段室上部のトップライトから光が届けられる。またコーナーの開口部には格子網戸を設置。多様な光を取り入れることで、さまざまな表情を見せてくれる。

開放感のある居心地のいいスペース

浴室と洗面室は3階に設け、開放的かつプライバシーが確保されたスペース。モルタルをメインとした洗練された雰囲気の中に、木の温かみがプラスされ、落ち着きのある空間に仕上がっている。

さらに上へ続く階段を上ると、街全体を見渡せるテラスへ。視界を遮るものがなく、その街の一部分となったような、没入感も味わえそうだ。

暮らしが豊かになる「菊坂の家」

坂の途中、そして限られたスペースを十分に生かした「菊坂の家」。特に、4層を通した吹き抜けからの光の演出は秀逸だ。こだわり抜かれた上質な空間は、毎日の暮らしをより豊かにしてくれるかもしれない。