建築家・手嶋保による、住まい手の変化を受けとめる住まい「小石川の家」

日本建築士会連合会賞にて優秀賞を受賞した〈伊部の家〉や、日本建築学会作品選集に入選した〈桜台の家〉など住宅設計を中心に手掛ける建築家・手嶋保。東京都文京区に建てられた「小石川の家」は、将来の家族構成の変化にも対応できる、心地の良さと応用力が魅力の住まいです。

長い時間軸で住まい手の変化を受けとめる

敷地は都心の住宅街にあり、敷地の南側は親族の住む敷地に隣り合うため、そこに主庭が配されました。全体の構造は耐震・耐火性を考慮した壁式RC造。躯体は4,200mピッチで壁柱を配したRC造で、南北に跳ね上がる木架構のバタフライ屋根が特徴です。壁柱間に設置した雨戸の裏手は壁面で、使用時は左右に開きます。

プライベート空間を集約した1階フロア

主庭から見て北西の、建物角に設けられた玄関から内部へ入ると、北側に側廊と、子供部屋、主寝室、浴室等のサニタリーが配置されています。

廊下に面した木造壁にはそれぞれの寝室の開口を設け、通風が行われます。

各部屋の南側の窓際に設けられたスペースは、子供や夫婦それぞれの単位で区切られており、平面に行き止まりがないセミパブリックなエリアとしても機能します。

東奥に設けられた浴室からは、南側に位置するテラス、主庭を眺めることができ、入浴中も自然を感じられます。

オープンなLDKが広がる2階フロア

2階はオープンなLDKの一室空間。屋根をバタフライにしてその頂部付近にトップライトを設けることで室内の北側部分にも採光を可能としています。射し込む光は影の様子を日々変化させ、四季の移ろいを感じさせてくれます。開口部には格子網戸を設置し、シンプルながらも空間に落ち着きのある和の雰囲気をプラスします。

トップライトは冬至と夏至の太陽高度から、夏は直射光が入り難く、冬は入りやすいようにCGシミュレーションによる形状スタディを重ねられました。また、夏季には高温になった熱気が屋根頂部より排出できるディティールとなっており、一年を通じて心地よく過ごせます。

長く住まうための工夫

バタフライ屋根は木造である上、将来3階に木造などの軽構造による増築を可能にすることで、2世帯住宅への変更も可能にしています。全体の構造も壁式RC造なので、将来の家族構成の変化に多様なスタイルで対応できます。

自然と共に移り変わる住まい手のニーズに対応する住まい

主庭の豊かな自然が美しい「小石川の家」。個人として、そして家族として、心地よく過ごせる住宅は、将来の家族構成の変化も見越した構造によって、何世代も長く住まえる住宅となりそうです。