「自然と共にある暮らしを心がける」6つの小さな離れの家を手掛けた建築家・武田清明さん

前編:「建築を超えて環境をつくる」自然と共存した住宅“鶴岡邸”を手掛けた建築家・武田清明さん

住宅やインテリア、様々な建築に携わり、新しい住環境の形「鶴岡邸」や、長野県「6つの小さな離れの家」を手がけた建築家の武田清明さん。

前回に引き続き、今回は武田さんが建築家を志したきっかけや、建築に対する考え方など様々な角度からお話を伺いしました。

建築家を志したきっかけについて

はじめに、武田さんが建築家を志したきっかけについて教えてください。

「父親が建築家で、兄も車のデザインの勉強をしていたので、影響されたんだと思います。昔から家の中に図面や模型がたくさんあったので、日々そういうものを見て現在の方向に向かったんだと思います。」

また、子供の頃は建築家になりたかったわけではなく、小学校の頃の文章には“サッカー選手になりたい!”と書かれていたそうで「実現できていないですね」っと笑いながら教えてくれました。

鶴岡邸の過程に結びついた、廃墟の研究

イーストロンドン大学大学院ではどんなことを学んだのでしょうか?

「ちょっと変わったデザイン研究をしていまして…廃墟のリサーチを色々な国でしていました(笑)イタリア、イギリス、フランスそういう各国の廃墟をめぐって廃墟の工業地帯だとか、廃墟の村に行って寝袋を持って観察しに行ってました(笑)」

廃墟を研究することでどういったことが分かるのですか?

「元々建築は人のために作られているんですが、時間と共に徐々に植物に覆われいき、すると植物のための家に変わってくるんです。廃墟って、儚さと共に美しさっていうものが共通してあると思います。『何で美しさがあるのだろう?』と、僕はそこにすごく興味がありましたね。人間の暮らしと、緑の暮らしが共存するような建築ってないのかな〜とその時に色々閃きました。その時の体験が、鶴岡亭の過程に結びついているのではないかといます。」

海外と日本の建築に対する考え方の違い

海外と日本の建築に対する考え方の違いは、何かありますか?

「違いはすごく大きいですね。ヨーロッパの街並みを歩いていても、日本に比べて古い建物が大多数を占めています。ヨーロッパの人々は、古いものや時間が経てば経つほど価値が出てくる、という感覚を持っているんです。日本は新築が埋め尽くしているような街並みだと思うんですけど…海外には、“時間軸”というものを考えて、街並みや建築があるように感じますね。そういうものが今日本では必要なんじゃないかと思っています。」

“時間軸”を踏まえた建築

©masaki hamada

武田さんも時間軸というものを踏まえて、建築を考えていらっしゃるのですか?

「そうですね。外装一つ見ても広いツルツルピカピカの一瞬だけ美しいような建築ではなくて、風化して砂埃浴びても、時間経っても質感として質が高まっていくような味わいになってくるような外装を考えたりしています。例えば、100年後に鶴岡亭がカフェになっているのかもしれない、公園の一部になっているかもしれない…どういう状況に鶴岡亭がなっているのか、想像しながら考えていくと建築はすごく面白いんですよね。」

「50年後この建築がどうなっているのか、100年後どうなっているのか、そういうスパンで建築を考えていくと、違う構想が生まれてくるのではないかと思っています。」

長野県「6つの小さな離れの家」

長野県に建てられた「6つの小さな離れの家」。懐かしいと共に未来も感じられる、そんな不思議な感覚に包まれるような住宅ですが、設計の際にどんなことを大切にしたのですか?

「こちらも少し独特な建築でして…名前の通り6つの離れがついた住宅なんですよね。日常生活を送る母屋はあって、お庭にバラバラと離れがあるんですけど。元々は新築ではなくて築80年の住宅の改修なんです。そこには井戸や、防空壕…戦前の方々が作った地下室がたくさんあったんです。それらを生かして、井戸水キッチンの離れを作ったり、防空壕は地熱があるのでワインセラーに変えたりだとか…。そういう風に昔の人の知恵と技術と努力、その上に新築を少し増築するような、古いものと新しいものを共作したようなそんな離れを持った住宅です。」

Life is with nature.

©masaki hamada

インタビューの最後、武田さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is with nature.」と答えてくれました。

「自然と共にある暮らしというのを常に心がけています。今の建築は、日々暮らしたり、仕事したりする場所が箱のように閉じていても気にならないほど、内部空間が機能的で、安心で充実しています。そうすると、外側にある自然というものが実感できないんです。外側には、風があって光があって生き物がいて自然がある。それらを実感しながら暮らせるような住宅、建築を作っていきたいと日々思っています。」

経済性や利便性が求められ様々なものが普及された反面、“自然と暮らすこと”が離れつつある今の時代。そんな中武田さんが手がけたものに触れることによって、私たちも今一度自然の偉大さや心地良さを感じることができるでしょう。