津田大介が芸術監督を務める愛知を舞台にした3年に一度の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」。

前編:「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督に就任した津田大介氏が語る。

ウーゴ・ロンディノーネ《Vocabulary of Solitude》 2014-2016、個展「Ugo Rondinone: Vocabulary of solitude」ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館、 ロッテルダム(オランダ)Photo: Stefan Altenburger / Courtesy of studio rondinone

愛知県内各地で様々な芸術作品を繰り広げる国内最大規模の現代アートの祭典「あいちトリエンナーレ」。愛知県民にとって現代アートのカルチャーが特に身近にある理由は、3年に1度開催されるこの祭典にあると言っても間違いないであろう。

アートや芸術の垣根を超えて、地域の人々やこれから社会で生きていく学生や子供達への影響力をも持つ芸術展の存在こそ「あいちトリエンナーレ」なのだ。

「いまは感情的な時代だ」

あいちトリエンナーレ2019の芸術監督を務める津田大介氏。彼が今回メインテーマに選んだ「情の時代」には、3つの「情」の意味を込めた。

現在の政治や外交、ニュースを目にする視聴者に対して「どうしてこんなに感情的になってしまったんだろう」と感じたところから今回のテーマは始まった。この「感情」こそが1つ目の「情」だ。

その感情の原因を掘り下げたところ、もう一つの「情」である「情報」が溢れていることに辿り着いた。つまりは「情報に触れることで感情が爆発する」のである。

そして津田氏は、感情的な部分を手なづけることについて、3つ目の「情」である「情け」だと考えた。

芸術監督・津田大介氏が取り組むもう1つのコンセプト「ジェンダー平等」

メインテーマ「情の時代」を背景に、津田氏が舵を取り実現させた「参加アーティストのジェンダー平等」のコンセプトが今話題を集めている。

津田氏がジェンダー平等を実現させた理由。それは、東京医科大が入試で女性が不利になるように点数操作をしていた問題こそ起点であった。様々なジェンダーや差別の改善が著しい世界で、この時代になっても日本には男女差別が存在し続けていることに、衝撃を受けたのだ。

「では美術業界はどうなっているのか?」それを追求したところ、更にショックな結果が待ち受けていた。

例えば、2018年の東京藝術大学、武蔵野美術大学、多摩美術大学、金沢芸術工科大学、京都市芸術工科大学、愛知県立芸術大学、東京造形大学の新入生男女比では、女性入学者の割合はどの大学でも高い数値になっている。最も低い東京藝術大学でも65%という数字だ。

それに対して日本の主な国際芸術祭の男女比は、おおよそ6~7割が男性が占めている。過去のあいちトリエンナーレでも6割以上が男性である。

また、東京藝術大学や武蔵野美術大学の教員数も女性は15%程度と極端に低い。

そう、美術業界であっても男性優位の状況は全く同じだった。

津田氏はこの男女差別の現実を真摯に受け止め、自分が監督をするのであれば参加アーティストのジェンダー平等を実現させると決心したのだ。

「女性に下駄を履かせるんじゃない。男性がこれまで履いてきた高下駄を脱いでもらうんです。」と語る津田氏。

美術業界の人々だけでなく、各地域に住む大人たち、学生や子供達にも様々なキッカケや影響をくれる「あいちトリエンナーレ」で、津田氏が訴求する様々な「時代・社会へのメッセージ」を知り考える時間があることは、これからの未来、この現状を変えるピースとなるであろう。

あいちトリエンナーレ2019、注目のアーティストを紹介

国内外から90組以上のアーティストを迎え、4会場で同時開催されている「あいちトリエンナーレ2019」。今回は数多くあるラインナップの中から、注目を浴びているアーティストをいくつか抜粋して紹介!

モニカ・メイヤー『The Clothesline』

モニカ・メイヤー《El Tendedero (The Clothesline)》1978、Museo de Arte Moderno、メキシコシティ(メキシコ)Photo: Victor Lerma / Courtesy of the Pinto mi Raya Archive

メキシコ出身のアーティスト、モニカ・メイヤー。メキシコのフェミニスト・アートのパイオニア的存在で、今まで数多くの作品を通してジェンダー間の不均衡を訴えかけている。「アーティストのジェンダー平等」を決行した津田氏は、モニカの作品を大抜擢。あいちトリエンナーレ2019に、モニカ・メイヤーの作品は無くてはならないものとなっている。今回、モニカ自身が1978年より全世界で展開してきた参加型プロジェクト「The Clothesline」を展示し、参加者が日常生活で感じる抑圧やハラスメントを共有しながら、全員で女性やマイノリティについて考える機会となっている。

小泉明郎『縛られたプロメテウス』

小泉明郎『サクリファイス』韓国国立近現代美術館、ソウル(韓国)Photo: Meiro Koizumi

「国家・共同体と個人の関係、人間の身体と感情の関係」について探求する映像作家・小泉明郎。暴力や自己犠牲の感情が発生するメカニズムから、その感情を体験させる映像が今、美術業界のみならず世界中の演劇界からも注目を集める。あいちトリエンナーレ2019では、VR技術を駆使して本格的演劇作品に初めて挑戦する。

サカナクション『暗闇 -KURAYAMI-』

サカナクション / Sakanaction

卓越したメロディーと文学的な歌詞で人々を魅了するロックバンド「サカナクション」。音楽というフィールドで実験的な挑戦を続ける彼らは、日々世間を驚かせ感動を創り上げている。そんなサカナクションが、あいちトリエンナーレ2019のプロジェクトに参加。愛知県芸術劇場の大ホール独自の実験的ライブパフォーマンスを展開。最新の音響システムを導入し、今まで感じたことのない音楽の世界へと導く。