「自分の好きな街で世界とつながる設計を可能にしたい」 建築家・前田圭介が語るデザインで大切にしていることや建築家を目指したきっかけについて

“インターローカルな設計活動”を掲げ、故郷の広島県福山市を拠点に世界を舞台に活躍している建築設計事務所「株式会社UID」代表、建築家・前田圭介さん。建築と庭や街などの内外の境界を緩やかにつないだ、インタラクティブな空間を数多く提案しています。また、建築家としての活動の傍ら、近畿大学で教授としても活躍されており、後進の育成にも積極的に取り組まれています。今回は前田さんに、デザインにおいて大切にしていることや建築家を目指したきっかけについて伺いました。

建築家・前田圭介

©Koji Fujii / TOREAL

1974 年広島県生まれ。1998年国士舘大学工学部建築学科卒業後、工務店での現場監督の経験を経て、2003年「(株)UID」設立。2022年より近畿大学工学部 教授。2024年早稲田大学創造理工学研究科にて博士取得(建築学)。主な受賞歴に 2011年「第24回 JIA新人賞」、「ARCASIA建築賞 ゴールドメダル」、2017年「グッドデザイン賞 金賞」、2021年「こども環境学会賞 デザイン賞」、2024年「日本建築学会作品選奨 2024」など。

日常の中で感じる豊かなひとときを大切にしたい

©︎UID

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「無意識に過ごしている日常生活のなかで、豊かさを感じられるものや自分の意識を変革させるものに気づけるような空間デザインを意識的に行っています。

©︎上田宏

例えばコーヒーを淹れてリラックスするひとときにあたたかな日差しが入ったり、風で揺らぐ植物の陰影が感じられたり、そういったささやかなものが日常をより豊かにすると考えているので、そうしたひとときを生み出す空間づくりを心がけています。」

幼少期から変わらない、原風景的な空間に惹かれる

©︎Nacasa&Partners

建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「父方の先祖が眠る菩提寺があるのですが、そこからの風景が好きです。瀬戸内海が見えて、手前にはお寺の屋根瓦が見えたりと、とてものどかな景色です。周囲の景色や空間が目まぐるしく変化する現代で、自分の幼少期から変わらない原風景的な大切な場所ですね。」

ルイス・カーンの建築に感銘を受けて建築の世界へ

前田さんは独立前に工務店で現場監督の職に従事していましたが、そこから建築家を目指したきっかけはどういったものでしょうか。

「学生時代にゼミ旅行でルイス・カーンの建築を見るツアーがあって、参加したんです。ニューヘイブンという街にあるイェール大学のなかに、ルイス・カーンが晩年手掛けた「イェール英国芸術センター」という建築があるのですが、そこにとても感銘を受けました。そこから建築家という職を知り、彼の作品集などを読みながら、本格的に建築家になりたいと思い始めました。そんな想いのもと卒業制作に励んだ結果、最優秀卒業制作として選出されたのですが、就職活動は思ったように進まず、希望していた建築家の設計事務所に入れなかったんです。

とはいえ、ものづくりに関わる仕事がしたいと考えて、ご縁のあった現場監督の仕事について、そこから約5年間従事していました。ものを作ることはやはり僕にとって喜びで、現場監督はやり甲斐のある仕事でしたが、自分の設計で人に喜んでもらえるようなものを作りたい、つまり建築家になりたいなと改めて感じて、28歳の時に独立して今に至ります。

現場監督での経験でもっとも大切だと感じているのは、人との関わり方ですね。多くの職人やクライアントを巻き込みながら、長い時間のなかで一つのものを作るという工程を通して、人間力が養われたような気がします。実際に建築というものがどういうふうに積み上げられて、実現できるのかということを学んだことで、今の私の基礎的なものを培ったと感じています。」

その経験はいろいろな場面で生かされているのでしょうね。

©︎UID

「そうですね。建築はただ設計するだけではなく、色々な人のオーダーを組み込みながら、より良い形にまとめて提示、実現していきます。今はインターネットによる情報化社会ですが、生身の人間と関わりながらものを作るという意味では、ある種アナログでもあるし、新たな技術を取り入れながらより良い建築を作るという視点も必要なので、トータル的な人間力が問われる仕事なのではないかと感じています。
どんなに難しいオーダーであったとしても、相手の立場に立ち、共感を含んだプレゼンテーションや説明を行うことで、現場の職人をはじめチームでプランを形にすることを大切にしています。」

福山での当たり前の風景を大切に、世界に挑戦したい

©︎UID

前田さんは現在、故郷である広島県福山市を拠点に活動をされていますが、生まれ育った場所で仕事を行うのはどういった理由からでしょうか。

「福山市で生まれ育ち、大学進学を機にいざ東京へ行ってみると、それまでは『福山市にはなにもない』と言われながら育ったのですが、そんなことはなかったなと見直す機会になったんです。福山市ならではの歴史や文化が街にはあって、そういった当たり前にあるものや過ごしてきた時間こそがとても大切だったなと感じました。上京が、福山をより好きになるきっかけになったんです。

その後、独立した2003年はインターネット黎明期で、それまでは東京を介してさまざまな情報が行き交っていたものが、場所にとらわれずに世界とつながることができるようになりました。そこで、自分の好きな福山という街で、世界を舞台にした設計活動を可能にしたいと考え、現在も福山を拠点にしています。」

ローカルな場所で世界とつながり仕事をする

“インターローカルな設計活動”を掲げ、故郷の広島県福山市を拠点に国内外で活躍している前田さん。好きな場所で豊かに暮らしながら、世界を舞台に設計活動される在り方は、今後のスタンダードとなるライフスタイルとなるかもしれません。

後編:「緩やかな境界によって人と自然、人とひととの豊かな関係性が生まれる」建築家・前田圭介が考えるインターローカルな活動の魅力や現代の住宅の課題について(2月4日 公開予定)