吉村順三が手掛けた住宅を中村好文が改修したギャラリー「ink gallery」でモダニズムと和の様式美を体感

日本とアメリカを行き来し、日本の建築文化をアメリカに伝えた建築家・吉村順三。帝国ホテルの建設にあたって、フランク・ロイド・ライトとともに来日したアントニン・レーモンドに師事。モダニズム建築の父とも呼ばれる師の元で経験を詰んだ吉村は、モダンライフを日本の建築に取り込んだモダニズム住宅の設計を得意とし、多くの名作を遺しました。そんな彼の作品の一つである一軒が〈ink gallery〉という名のギャラリーとしてオープン。精緻な空間での作品鑑賞はもちろん、建築自体も見どころたっぷりの注目のスポットです。

モダニズム建築の巨匠 吉村順三

建築は昭和を代表する建築家のひとりである吉村順三が設計し1974年に竣工した「鎌倉山の家」を改修したもの。展示期間中のみオープンするギャラリーとして生まれ変わりました。吉村順三が設計した鎌倉山の家は、1974年に竣工した神奈川県鎌倉にある建物です。約450坪の敷地に主屋と離れの茶室で構成されています。
吉村順三は、1908年東京生まれのモダニズム建築を代表する日本建築業界の巨匠のひとり。東京美術学校(現東京藝術大学)で建築を学び、アントニン・レーモンドに弟子入りして建築技術を磨きました。

アパレルブランド「YAECA」が運営する「ink gallery」

元々鎌倉山の家は、施主の意向もあり吉村作品であることは公にされてこなかった、いわば幻の住宅でした。時と共に傷んでしまったこの家を購入したアパレルブランド「YAECA」の服部哲弘は、建築家の中村好文とともに、吉村の意図した姿に戻すよう誠実な改修を施しました。

本棟は3階建てで、地中に埋まった1階が受付とギャラリー部分、芝生と地続きのように見えるのが2階部分にあたります。

その先に見える平屋建ての茶室がもうひとつの展示空間となっており、こちらは本棟から3年後の1977年に完成しました。

トンネル状のアプローチをくぐり抜けると、地中に埋め込まれたようなギャラリーが現れます。

窓越しに広がる掘り込まれた庭に視線が抜け、包み込まれたような安心感がある空間です。

移り変わる四季とともに、展示を鑑賞することができます。

日本を代表する中村外二工務店施工による精緻なディティールが生きる茶室

茶室ももちろん吉村順三設計。施工はロックフェラー邸などでも協働した中村外二工務店が手掛けています。1931年創業の中村外二工務店は、日本を代表する数寄屋造りを手掛ける工房として国内外に知られており、「伊勢神宮茶室」や「若王子の家」など、数々の著名な和風建築・茶室作品を生み出しています。

鎌倉山の茶室は3間×5間のシンプルな寄棟屋根の下に、座敷、鞘の間、茶室、水屋が納まっています。

8畳の座敷に切れ味の鋭い意匠が洒脱な空間。

京間なのでゆったりとした印象です。

地袋の底板が1寸浮いていたり、棚板が背面の壁から1mm程度離れていたりと、細やかなディテールへのこだわりが見受けられます。

奥に進むと四畳半の茶室、北側の暗い部屋に京壁に穿たれた窓から美しい光が入ってきます。

サッシなどの枠のない開口によって、借景を切り取る額のように機能し、移り変わる四季を日常の中で楽しむことができます。

露地から待合、茶室へのアプローチに沿うような、塀で囲われた小ぶりな庭が非日常の空間を演出しています。

吉村順三によるモダニズム建築も体感できるギャラリー

吉村順三が設計し1974年に竣工した「鎌倉山の家」を改修し、生まれ変わった「ink gallery」。展示される作品はもちろん、建築・空間も楽しめる、豊かな時間が流れるギャラリーです。

ink gallery
所在地:神奈川県鎌倉市鎌倉山1-19-12
※展示会期間中のみオープン
TEL:0467-31-0088
URL : https://www.yaeca.com/gallery/